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最終章・sho-wa to hey-sey ノスタルジック小説 かえろっか / 俺たちに きのうはない 第14章

 最終章
かえろっか / 姫山トンネル下り

濃いオレンジ色の夕焼けが深い碧色の空を引き立たせる
滑走路の灯りが灰色のコンクリートを照らし出した
長くまっすぐに伸びた滑走路には終点がある
そこを飛びたった先に旅の終わりはあるのだろうか

 ラボのある格納庫から1機のヘリコプターが牽引車にひかれ滑走路に引き出されたのは金星が輝きを増す頃だった、迷彩色に塗られたAH-64 アパッチの機体が水銀灯の明かりを受けヘリポートに運ばれるとローターブレードがジェット音とともに回転した、そのコックピットにはドクターマッドことマット・ジョンソンの姿が見えた
「カドカワさんようやくここまで完成しました、これが最後のテスト、最終ミッションになるでしょう」
あえてドクターと呼ばなかったジェームスのこの言葉に角川はため息交じりで答えた
「ミスタージェームスこれですべてが終わるとは思いませんが、とりあえずは」
そういって右手を差し出した、ジェームスはにこやかにそれに応えたがその目はそうではないようにも見えた
「ケンイチ、君達にも感謝しているよ」
角川から少し離れて見ていた健一、静香そして剛志、ヒロシも軽く手をあげそれに応えた
「あれは」
角川はアパッチの先端部分のレーザー銃の様なものを指差した
「あれはほら君の開発した重力波を応用した例のマシンだよ、これには通常の武装兵器は装備していない分あれを使わせてもらった、何しろこれはかなり強力な動力源を積んでいるからね」
ジェームスはそう言ってマイク付きのヘッドホンを付けストップウオッチを手にした、ブレードの回転が増し機体が浮かび上がった、スライドする様に高度を上げると滑走路の端まで行きホバリングした
「Move on!」
AH-64は高度を保ちながら滑走路を加速していく、やがてその機体は青白い炎に包まれそして消えていった、静かになった滑走路に再びジェット音とローターブレードの回転音が帰ってきたのはちょうど1分後だった、着陸したヘリからドクターマッドが興奮した様子で降りてきてジェームスと話している、その話によるとこのままテストを続ける様子だ、角川は少し離れた所にいる健一にそっと合図を送った、2回目のテストが始まりヘリがホバリングを始めた時、まずはヒロシと剛志が、あとを追って静香と健一がその場を離れた
「ありましたよー、久しぶりじゃん」
ヒロシは角川からもらったカードキーをスライダーに通し教えてもらった番号を押しラボのドアを開け自らの愛車ホンダCB450セニアに駆け寄った、剛志もヤマハ XS 650に後から健一も入ってきてそれぞれのオートバイと対面した
「よしいこうか」
健一はそう言ってカワサキRS750ゼッツーを押し出す、エンジンはかけず静かにラボから運び出す計画だ3台のオートバイと4人の少年少女は格納庫が並ぶ前を足早に通り過ぎゲートの近くまで来た時まだ誰も気付かれていないのを確認する様に周りを見た、週末土曜日の夜は外出する人が多い、人の出入りは途切れる事は無かったが混雑するほどでも無かった
「では次のステージの始まりです、みんなでぶっ飛びましょう」
静香はそう言ってヘルメットをかぶった、健一、ヒロシ、剛志も続く
「それじゃあみんな、かえろっか」
健一がそう言うとみんなでもう一度口を揃えた
「かえろっか」
カワサキのセルモーターが回りシリンダーに混合気が流れ込みプラグがスパークする、集合管から低く力強い排気音が流れ出した
ヒロシ、剛志のオートバイの排気音もそれに応える様にその場に響いた、ゲートにまでその音が聞こえた様で何人かが振り向きこちらを見たが反応はそこまでだった、でもモタモタしているとこの事がジェームスに知れゲートは封鎖されると面倒だ、その時1台のジープが目の前を通り過ぎた、健一は右手を上げ合図を送ると静かにその後に続いた、ゲートに着く、ジープが憲兵にチェックを受けゲートが開いたその瞬間、3台のオートバイから爆音が響きわたった、その大きな音にジープのドライバーが振り返った時まずはヒロシが、そして剛志が車の間をすり抜けた健一も後に続く静香の腕に力が入るのがわかった、ゲートにいた憲兵は慌ててガンホルダーから小銃を取り出したが狙いを定めるには時間が足りなかったようだ

ちょうど最後のテストが終わった時ジェームスの携帯電話が鳴った、話しながら周りを見る健一達がいつの間にかいない事に気が付いたようで電話を切るとラボに向って走り出した、角川もその後を追った
「これはどうゆうことだドクターカドカワ、彼らとオートバイはどこに行った」
ジェームスの態度から健一達は計画通りここを抜け出せた事を確信した角川は両手を広げて見せた、その顔には恐れなど無く穏やかな表情で話し出した
「やっと約束を果たす事が出来そうですよミスタージェームス」
角川は焦らすわけでも無くゆっくりと話し出した、あの姫山トンネルからの事を
「それでどうしますかミスタージェームス」
手短にそれでもそれなりの時間をかけ話し終えた角川は尋ねた、ジェームスは腕組みをほどき軽く両手をあげ言った
「どうするって?健一達もオートバイもここにはいない、つまりはアメリカ合衆国を離れたって事だ、そして治安国家である日本に戻ったって事でこの事案は私の手を離れたって事だよ」
ジェームスはそう言ってラボを見渡した
「ここも閉鎖することになるだろう」
その顔には怒りなど見られず健一が元の時代に帰るチャンスをつかんだことに満足しているようにも見えた
「君が最近ラボにこもって何か作っている事は知っていたよ」
そう言ってウインクして出て行った、角川はあの機械が万一ジェームスに知れたら計画が失敗に終わるリスクを抑えるためここから持ち出し矢沢に託したのも感づいていたのかも知れないと感じた
「ぶっ飛びだな」
そう言って苦笑いしたそのとき
ドアが勢いよくあきマットがラボに入ってきた
「あっ、ドクターマットどうしたんです」
マットの慌てた様子に何かトラブルでもあったのかと感じた、
「今の話は本当か、彼らの事だ」
ラボのドアの陰からふたりの話を聞いていたようだ、角川は黙ってうなずいた、マットは困惑したようにその白髪をかきむしりながらラボの中をグルグルと円をかきながら歩き回った
「君はパラレルワールドを知っているよね、ひょっとしてこれは・・・」
そう言うと踵を返し出て行った、角川はあっけにとられ見送った、『何を言ってるんだ・・』
「あっ、そうゆう事か」
思わず声に出た、パラレル・・つまりは彼らが過去に戻って自分たちのタイムトラベルを阻止した場合、現代に現れる事はないことになり歴史が書き換えられるかもしれないという事で・・あのアパッチの存在が不確かな物に・・それは理論上ありうることで・・でももしパラレルワールドでは時間はリンクしていて彼らのいなかった21年と彼らが存在した21年の世界が同時に存在することになり・・・
「あ~っ、わかんね~どっちだ?」
思わず声に出した角川は髪をかきむしった、その時また
「あっ!」
声をあげドアに向かい走ったそこにはマットの姿はなかった、角川は胸騒ぎと一緒にヘリポートに向かった
「ドクターマット!」
角川が目にしたのは今まさに飛びたそうとしているアパッチAH-64、そのブレードからの風圧を両腕で遮るように追いかけたがすでに手の届く範囲では無かった

かえろっか!

 スロットルを絞るとスピードメーターの針がはね上がる、久しぶりのその感触を楽しむかのように健一は国道を走っていた、斜め横にはいつも通りのヒロシと剛志の姿が見えるそのまた少し後ろにはロードスターがいた、今のところ追ってくる車もなさそうだ、しばらくして1台のオートバイが並走してきたそこには健一と同じ世代の晴樹の乗るSUZUKI GSX750カタナが、時間が経つたびにまた一台、さらに一台とオートバイが連なり増えて行った、気がつくとその隊列はかなりの長さになっていた、次々と健一達の横を並走しては挨拶がわりの爆音を響かせ隊列に戻って行った、彼らには遠い昔の思い出、そして健一達には数ヶ月前の思い出、時の流れは食い違っていたがあの時の情熱と興奮はそのままに健一達の心に蘇った
静香が後ろを走るロードスターに乗る響子に手をふりあげ回す
「キョーコさーん、サイコー」
はしゃぐ静香、流れるセンターライン、遮るものは誰もいない、今夜こそ帰る、その思いが気持ちを高ぶらせるがスピードは抑えるように角川に指示されている、
『いいかケンイチくん、あの姫山トンネルの手前の空き地でヤザワさんが君達のオートバイに装備するパワーユニットを持って待っている、そこでそれを受けとりトンネルを抜けるんだ、だからそれまでタイムスリップしないようにして走りつくように、君達が時間を進めて走ってしまうと彼はそこにはまだそこにたどり着いていないことになってしまうからね』
健一はその言葉どおりスピードを抑えて走っていたが時々青白い炎が光りだす、あわててスロットルを戻した、深夜に近い国道を3台のオートバイが季節外れの蛍のように光っては消えた
「もしも~オサム、こっちは予定どおり、うん、順調に言ってる、つまんないぐらい、え、わかった」
ロードスターのステアリングを握る響子が携帯電話を切った時だった、かなりの数と長さになったオートバイのテールランプの明かりが乱れた
「なんなの!」
響子は数台のバイクがガソリン切れのように失速して車の横を通り過ぎていく、その時オートバイの爆音とは違った音が耳に入った、それは空から聞こえてくる、上を見る、暗くて確認はできないがヘリのブレードの回転音が不気味に聞こえる
「やっぱり、誰だか知らないけど来たようね」
ヘッドライトをパッシングしながら前にいる健一たちに追いつこうと加速した、アパッチのブレードの回転音が不気味に響く中青みを帯びた光りの束がすぐ前を行く数台のオートバイに向かって放たれる、エンジンがストールして排気音が消え離脱していくバイクをかわしながら健一のカワサキに追いついた響子が右手を空に向け危険を知らせる、健一も『わかっている』と手振りで応えた、
『やっぱこれだよな』
健一は久々のバトルを楽しんでいるようだ、狙いを定められないようローリングを繰り返しブレーキとアクセルを駆使して走り続ける、仲間のオートバイもそれにならいバイク同士の間隔もひろがった、がそれでもヘリからの光線はかなりの確率でオートバイの命を奪っていった
 アパッチのコックピットではまさにMADドクターと化したドクターマットが眼下のオートバイに無差別にロックオンしてはトリガーを引いている
無数のオートバイ、どれが健一達か確認出来ないいらだちがさらに彼の理性を奪っていった
 夜の国道をオートバイの爆走とヘリからの青白い光線が交錯する様はまるでアクション映画のワンシーンのように夜の街を駆け抜けて行く
『あともう少し』
 健一はあせる気持ちを押さえながら車速をコントロールしていた、スピードを上げタイムスリップすればかわせるのだが矢沢の待つ時間を飛び越えてしまえば元も子もない、国道を走る一般の車をかわしながら微妙なアクセルワークで走り続けた、が目の前に長い直線が見えたときつい右手に力が入ってしまった、一瞬だが青白い炎がカワサキを包んだ
その光を見逃さなかったマットが健一をロックオンしようと遅いかかる、トリガーを引こうとした時、目の前の赤外線スコープが何かに遮断された、マットはとっさにサーチライトのスイッチを入れた
「ワッツアップ!」
そう叫んだマットの目前にはブルーラインのヘルコプター、その横腹には警視庁の文字がはっきりと浮かんでいた
「警告する、ここは日本だこれ以上治安を乱すことは許さない、すみやかに退去しなさい」
マットはそのまま目の前のヘリコプターに向かってトリガーを引こうとしたがその指は動かなかった
ホバリングしながら2機のヘリコプターのにらみ合いがしばらく続いた、マットは下の道路を見た、そこには健一たちの姿はなく何台かの車が走っているだけだった
「ゲームオーバー・・か」
そう言ってトリガーから手を離し前にいるパイロットに基地に帰るよう指示した
基地に向かうAH-64 アパッチの斜め上からサーチライトを当てながら警視庁のヘリコプターが追尾するフェンスの向こうに機影が消えるのを確認して高度をあげた
「どうしますか警視」
谷村はこたえた
「彼等の行き先は分かっている、姫山に向かう、急ごう」

 トンネルの手前にある空き地に停めてある黒いGTRから矢沢が降りてきた、時計の針はもうすぐ深夜0時を示そうとしていた、道路の先に目をやる、時折通る車のヘッドライトを見ながらジャケットのポケットからマルボロとシルバーのジッポを手にすると一本くわえ火をつけようとしたがフリントが削れることはなかった、くわえたタバコをハードパッケージに戻すと耳を澄ました
「きたか」
そうつぶやくと車に戻りジュラルミンケースを手にして空き地の入り口に立った、まだ姿は見えないがその音は確実にこちらに向かってくる、矢沢はトンネルに通じる道路の先を見つめる、自分でも気持ちが高揚していることがわかるぐらいワクワクしていた
ヘッドライトがひとつまたひとつ、そして3つのヘッドライトが爆音とともに空き地に飛び込んできた響子の乗るユーノス・ロードスターも続いて来た
健一、静香、剛志、ヒロシそして3台のオートバイが揃った、フルフェイスのヘルメットを脱ぎ矢沢に放り投げ健一が言った
「久しぶりだね、オサムちゃん」
とにこやかに言った、矢沢は苦笑いしながらヘルメットを響子に放り投げ足元のケースを開けた、そこにはちょうどオートバイのガソリンタンクに乗る大きさの金属の箱が月明かりを受け光っていた、それを手にしてカワサキの火の玉カラーのタンクにのせセットした
「いいかケンイチこの黄色いボタンを押すタイミングは分かっていると思うがタイムスリッが起きる速度を超えた時だそして他の2台も揃ってなければいけない、いいかチャンスは一度だけだ、いいなみんなも」
健一達は無言でうなづいた静香は響子の手を握りしめ肩を寄せた、その手にフルフェイスとは別の半帽のヘルメットを手渡した
「ほらちゃんとかぶりなさい」
「この髪帰ったら元に戻っちゃうのかな、俺けっこう気に入っちゃたんだけど」
そう言ってフルフェイスを放り投げた
「さぁ、別れを惜しんでる場合じゃないよ早く行きな」
響子は静香のかぶる半帽をポンポンと叩いた、その時空き地に立てかけてあった『ゴミ捨て禁止』の錆びた看板が風にあおられ転がった、満月の月明りではなく昼間のような明るい光が空き地を照らした、それと同時に現れたヘリコプターには警視庁の文字が見えた
 健一達は声も無く身構え全身に緊迫感が走った、ヘリコプターはこちらを監視するようにホバリングしたままその位置を保っていた
空き地はヘリコプターが着陸できるだけのスペースが無い、そのうちパトカーに囲まれてしまうんじゃ無いかと健一は焦りを隠せなかった
「ここは大丈夫だ、早くいけ」
矢沢の言葉に4人はオートバイにまたがりエンジンをかけた、道路に出るとあの時のようにトンネルの入り口とは反対方向に向かう、その時前に赤い回転灯がこちらに近づいてくるのが見えた
『まずい!』
とっさにUターンすると正面にトンネルの入り口が口を開けていたあの時より距離は短いが後ろからパトカーがくる
その時だった背後にあのヘリが低空まで降りて来て後方にいるパトカーにサーチライトを浴びせゆくてをさえぎるようにホバリングした
静香が振り向くとそこには父の姿が見えた
「おとうさん!」
インカムのついたヘルメットを脱ぎ静香を見ると右手を上げトンネルを指さした、谷村は響子達が家に来た時米軍基地にいることを聞かされていた、今夜の計画も矢沢から情報だけは受けていたのだった、娘にとって自分はどうすればいいのかあれから考えた答えが出たようだ
「行くんだシズカ!」
声は聞き取れないが静香はうなずくと右腕を上げ父に向かって大きく振った、そして健一の肩越しにトンネルを指さした
健一は右手でスロットルを煽った
両横にいるヒロシと剛志、静香は両腕をしっかりと回し抱えている、そして4人が同時に叫んだ

「じゃ かえろっか!」

姫山トンネル下り、健一のカワサキ、剛志のヤマハ、ヒロシのホンダ4人を乗せた3台のオートバイがフルスロットルでぶっ飛んで行った、アプローチするじゅうぶんな距離はなかったがかまわずアクセル全開でトンネルに突っ込む、トンネルの壁のオレンジ色の光が流れて行く、まだスピードが足りない、前方に出口が小さく見えた時青白い炎が3台のオートバイを包み出す、目の前の出口がどんどん大きくなる青白い炎とともに
『ぶっ飛べー』
健一は黄色いボタンを押した、まるでシリンダーにニトロが入ったような爆発的な加速感が4人を襲った、光があの時より遥かに早く流れて行く、そしてそれは帯になりストロボライトの様に輝き出した、3台のオートバイは光のトンネルを疾走する、タンクの上のデジタル数字はゼロに向かって加速していった・・・

プロローグ

 小さな漁師町の小さなビーチにAフレームと呼ばれる形の良い波が押し寄せている、少し湿った風が時々強く吹き春の訪れを告げている
 テレビでは今朝から同じことを繰り返し放送していた
「れ・い・わ?、ねぇレイワだってさミナト!」
テレビを見ながら少女が庭に向かって大声で言った
サーフボードを抱え庭に入ってきた潮焼けした長い髪の青年は水道の蛇口をまわしホースで頭から水を浴びながらその頭を振った、その水滴が大きなビワの葉を濡らした
「レイ?輪?ハワイの花のレイ・の輪?・・アロハな時代だな」
そう言ってとぼけて見せた、すぐ横の納屋にボードを置くと縁側に干してあるタオルで髪を拭きながらテレビを見ている少女の手からペットボトルのコーラを取り上げ口にして飲み干してしまった
「もう!兄っきったら」
そう少女が言いかけた時スマートホンからメロディーが流れた
「あっ!めずら~パパからだ・・・」
そのディスプレイの発信先には K E N と表示されていた
「はーいパパ、なるだよ・・」

その時、庭の納屋の扉が突風を受け音を立てて開いた、
薄明るいその中には年代物のサーフボードから最近はやりのボードまでずらりと並んでいる、
 そしてその一番奥にあるカーキ色のシートがバタバタと音を出しはためく・・・なにかを予見するかのようにシートの隙間から火の玉カラーのガソリンタンクが顔を覗かせていた・・・。

Hasta la vista,baby.

                    ーーーー~ー END ー~ーーーー

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