2022オリックスバファローズと3つのリベンジ①〜完全試合〜
2022年のオリックスバファローズは、「リベンジ」の年だったと言えるでしょう。
まず、完全試合を達成した佐々木朗希投手へのリベンジです。
今年の4月10日、オリックス打線は千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手の前に、9回27人の打者が1人も塁に出ることもできないまま抑えられる「完全試合」を喫しました。この記録は長いプロ野球の歴史の中でも16人しか成し遂げておらず、28年ぶりに達成されたものでした。
それも高校時代からその類まれなる才能が注目され、鳴り物入りで球界入りした高卒3年目の佐々木朗希が達成したということもあり、メディアは新世代のスターが誕生したと言わんばかりに大々的に報道しました。普段プロ野球をあまり見ないという人々の間にも、「佐々木朗希」の名前が轟くことになったと思います。もちろん、その偉業は称賛されて然るべきですし、それが多くの人の目に触れることはプロ野球界の発展を考えても喜ばしいことでしょう。
一方で、これは同時に「完全試合を食らったオリックスバファローズの不甲斐なさ」を晒し上げることにもなりました。当時宗佑磨・伏見寅威という2人の主力選手を欠いていたことを差し引いても、1人の走者も出すことができなかったと言う屈辱的な記録であることには変わりありません。画面の前で忸怩たる思いに駆られたオリックスファンも少なくなかったようです。
プロ野球は全143試合と長いシーズンを戦うため、同じ投手と対戦する機会があります。完全試合以後も何度か佐々木朗希との対戦がありましたが、オリックスはなかなか勝つことができずにいました。そんな中、転機が訪れたのが9月2日のロッテ戦でした。
NPBにおいては、先発投手は中6日の登板間隔をあけてローテーションを組むのが一般的であるため、多くの場合「この日はこの投手が投げる」というのが事前に予測できます。その日は、ロッテ側は佐々木朗希・オリックス側は昨季の投手個人タイトルを総なめにし、NPB最強投手と謳われる山本由伸の先発が予想されていました。日本最高峰のピッチャー同士の投げ合いが予想され、試合の数日前から期待の声が上がっていました。
ところが、この試合で実際に先発したオリックスの投手は山﨑福也でした。彼もここ数年オリックスの先発ローテーションを支えている優秀な投手であることには違いないのですが、やはり山本由伸や佐々木朗希と比べるとどうしても見劣りはしてしまいます。一部ファンからは「オリックスの中嶋監督が山本由伸の登板を回避し、この日を負け前提の捨て試合にした」などと批判されました。
そんな厳しい声に反して、山﨑福也は好投を見せます。通常のローテーションをズラしたこともあり、前回から中4日という難しい登板でしたが、5イニングを投げて無失点という素晴らしい結果を出しました。
山﨑福也の後を受けて2番手で登板したのが山﨑颯一郎投手です。日本シリーズでも大事な場面でリリーフを任され、今でこそ「吹田の主婦」の異名で知名度が大きく向上した山﨑颯一郎ですが、当時はそこまでの信頼感はありませんでした。今年の開幕直後は先発の役割でスタートしましたが、打ち込まれる日々が続き、4月24日の登板を最後に二軍降格となっていました。
その後怪我などもありなかなか一軍に戻ってこれなかった山﨑颯一郎ですが、8月28日に一軍復帰登板を果たします。この日は元々ルーキーの椋木蓮投手が先発予定でしたが、試合直前に怪我をしてしまうというアクシデントがあり、急遽山﨑颯一郎がその代役として抜擢されました。4ヶ月ぶりの一軍登板ということもあり不安視されていましたが、マウンドに上がったのは春先に炎上を続けていた彼とは別人でした。直球は威力十分・制球も改善され、3回打者10人に対して被安打1本、5つの三振を奪い無失点と圧巻の投球を見せました。
話を9月2日の試合に戻します。前述の試合で好投した山﨑颯一郎は、この試合でも3イニングを投げて無失点と見事な投球を披露しました。2人の山﨑投手は合計8イニングを0で抑え、味方の援護を待ちます。
一方オリックス打線は、試合開始直前にスタメンの打者全員がベンチ前にズラッと並び、佐々木朗希の投球練習に合わせて全員同時にタイミングを取る練習を行っていました。試合が始まってからも、佐々木朗希がフィールディングを苦手としているところを突いて執拗にバントを仕掛けるなど、チーム全体としてなんとしても攻略しようという意思が見えました。
そんな中迎えた5回表、先頭打者がデッドボールで出塁すると、宗佑磨がヒットで繋いでチャンスを作り、伏見寅威がボテボテのショートゴロを放つ間に1点をもぎ取ります。ちょうど完全試合の日に離脱していた2人で得点を挙げるというのも、何か奇妙な縁を感じますね。
佐々木朗希から奪えたのはこの1点のみでしたが、先述した山﨑福也・山﨑颯一郎の好投もあって1-0とリードした展開で9回裏ロッテの攻撃を迎えます。従来通りであればこの場面でマウンドに上がるのはベテラン守護神平野佳寿ですが、この日平野はコンディション不良によりベンチ入りメンバーから外れており、代わりにマウンドに上がったのは阿部翔太投手でした。
阿部は2020ドラフト6位で指名され、28歳というプロ野球としては異例の年齢の高さで入団した、いわゆる「オールドルーキー」です。入団1年目の2021年はわずか4試合の出場にとどまりましたが、2年目となる今年は44試合に登板し防御率0.61と見事な数字を残しました。
僅差で上がる9回のマウンドというのは独特のプレッシャーがあるようで、昨季7回や8回で投げていた時は良かった投手が、9回を任せた途端別人のように荒れ、打ち込まれるということが多くありました。まして1-0という痺れる展開での登板、阿部は緊張感からか1アウト3塁のピンチを作ってしまいます。しかしその後二者連続三振でピンチを脱してチームは勝利、阿部はプロ初セーブを達成しました。
結果的に佐々木朗希からは1得点しか挙げられず、お世辞にも攻略したとは言えないのですが、どんな形であれ「佐々木朗希が投げる試合に勝った」という点が非常に大きいと感じました。それも、山本由伸を回避して投げさせた山﨑福也、長い二軍生活から帰ってきた山﨑颯一郎、代役守護神の阿部翔太の3人で1点リードを守りきっての勝利というのは、チームに流れを呼び込むものだったと思います。
実際、この試合を起点に3連勝して優勝争いに名乗りを挙げていきましたし、山﨑颯一郎や阿部翔太を筆頭に強力なリリーフ投手でリードを守り切るという「勝ちの型」が出来上がりました。
佐々木朗希に見事「リベンジ」を果たしたこの試合は、2022オリックスバファローズのターニングポイントとなる試合だったように感じます。
(②に続く)