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イデア論から見る原神
魔神任務で博士がテイワットの空が「偽り」であることについて言及していました。今回はイデア論の解説と交えながらこのテーマについて考えていきたいと思います。
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テイワットには常に満月しかありません。普通に考えたらおかしいですよね?
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旅人がこう発言しています
「テイワットの昼夜はどちらも短いような気がする」
「故郷で見た星と違う」
双子の旅人は外界から訪れた異邦人「降臨者」なので、テイワットの空の違和感に気が付いています。「自分たちが元々いた世界」という比較対象があるからです。
テイワットのほとんどの人々はこれに気が付いていません。なぜならテイワットの空しか知らないからです。満月が続くことが当たり前だと思っています。これがプラトンの「洞窟の比喩」です。
何となくでも分かっていただけたら、これからはもっと踏み込んでみようと思います。
▼イデア論とは?
プラトンが説いたイデアに関する学説のこと。我々が肉体的に感覚する対象や世界はあくまでイデアの《似像》にすぎないとする考え方です。
▼イデアとは?
我々が知覚できるような形ではなく、言ってみれば心の目・魂の目によって洞察される純粋な形、つまりものごとの真の姿やものごとの原型、またはそのもの、実相。永遠不変の理想的な範型。
難しいですが、簡単に言えばこの「イデア」という物を見て、触れて、感じることができるのは神様くらいですよ。というものです。凡人には到底理解できない物です。
▼二つの世界(イデア界と現実世界)
僕たちの住む世界はイデア界の《似像》です。
イデア界とは簡単に言えば「天国」です。完璧な世界や理想郷とも言えます。そしてイデア界にあるものは本物「実体」です。
反対に僕たちの住む世界はそのイデア界の《似像》でしかない。僕たちの住む現実世界はイデア界の影であり、不完全な世界です。模倣品やコピーと言えば分かりやすいかも知れません。
映画「マトリックス」にも二つの世界、現実世界と虚像(マトリックス)で創り出した仮想空間がありました。
以前まとめた記事があるのでリンク置いときます
▼不完全な世界
現実世界そのものが不完全であるので、そこに存在するもの全てが不完全です。完璧なもの、実体はイデア界にしか存在しません。
▼輪廻転生
僕たちの魂(プシュケー)というものは不滅で、輪廻転生を繰り返している。これはプラトンのイデア論の前提になります。
▼忘却(レテ)の川
僕たちはもともと神様と共にイデア界にいて、イデアだけを見て暮らしていました。しかし、この世(現実世界)に生まれる時に忘却の川(レテ)というものを渡って現実世界に降りてきます。レテの川は仏教でいう三途の川みたいなものです。
だから現実世界で生まれた時にはイデア界にいた時のこと、そこで見ていたイデアを忘れてしまっています。
※これは重要かも知れないので原文を載せますが、無視しても良いです。
「我々の魂は、かつて天上の世界にいてイデアだけを見て暮らしていたのだが、その汚れのために地上の世界に追放され、肉体(ソーマ)という牢獄(セーマ)に押し込められてしまった。そして、この地上へ降りる途中で、忘却(レテ)の河を渡ったため、以前は見ていたイデアをほとんど忘れてしまった。だが、この世界でイデアの模像である個物を見ると、その忘れてしまっていたイデアをおぼろげながらに思い出す。このように我々が眼を外界ではなく魂の内面へと向けなおし、かつて見ていたイデアを想起するとき、我々はものごとをその原型に即して、真に認識することになる」
▼三角形の話
100人に「完璧な三角形を紙に描いて下さい」とお願いします。几帳面な人は定規を使用して描くかもしれません。ネットから画像を引っ張ってきて、プリントアウトする人もいるかもしれません。彼らは思い思いの方法で、それぞれ自身が考える「完璧な三角形」を紙に描くでしょう。
多くの人は正三角形を思い浮かべるはずです。
正三角形は等辺と底辺の長さが等しく、それぞれの角は60°、内角の和が180°です。「最も完璧に近い理想的な形」でしょう
しかし、100人に書いてもらった三角形の中に完璧なものは1つとしてありません。
紙に描かれた三角形をどんどん拡大コピーしていきます。すると定規で真っ直ぐ描かれていたはずの線もいつかはガタガタの線になります。微粒子レベルまで分解すれば、ただの粒子、ドットの集合になります。これでは完璧な三角形とは言えません。
そもそも僕たちのいる現実世界は「不完全な世界」なわけですから、この世に完璧な物は何一つ存在しない訳です。
そしてこの考えは二元論に繋がります。
▼二元論
万物を相反する性質のものとして二分する概念。
イデア論の中だと
「イデア界」と「現実世界」
「完全世界」と「不完全世界」
と言うように世界が二つに分かれています。
二元論の中でも光と闇(善と悪)の性質を二分したものを「善悪二元論」と言います。
この考え方はスメールに取り入れられている「ゾロアスター教」や原神の重要な部分に関わる「グノーシス主義」と密接に関係しています。
※ゾロアスター教の神々の名前が教令院の六大学派の名称に使われていたりします。また別の機会に解説します。
アルハイゼンの伝説任務【隼の章】の冒頭でパイモンがこう言っています。
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パイモン「良いものと悪いもので真っ二つだ」
▼想起説(アナムネーシス)
プラトン哲学において最も大切な考え方がこの「想起」です。三角形の話の中で「完璧な三角形を描いて下さい」と言われた時、僕たちの頭の中には朧げながらに「完璧な三角形」のビジョンが浮かんでいたと思います。
それはなぜか?
僕たちはかつてみんなイデア界にいて、イデアを見て過ごしていました。そこで見ていた「イデア」を三角形という図形を「見る」ことで想起しているから。これが想起説です。
想起=想い起こす
プラトンによれば「学習」とは僕たちがかつて獲得していたイデアを「物体」を通して「見る」ことによって思い出している段階に過ぎないと言っています。
淵下宮の書籍【日月前事】の中に【太陽の比喩】として登場しますが、実際に書かれている内容はイデア論の「洞窟の比喩」に当たります。
【太陽の比喩】
暗黒の洞窟の中で、光を見たことのない人々が暮らしていた。太陽を見たことのある賢者が、光の下での生活と太陽の偉大さを洞窟の人々に伝えた。人々が理解に苦しむのを見て、彼は火を灯した。やがて人々は火を崇拝するようになると、それを太陽と見なした。そうして、人々は闇と光の生活に慣れていく。賢者が死した後、ある者が火を独占した。火を通して、自らの巨大な影を作ったのだ。
火を崇拝するようになった。と書いてありますが、先ほど少し触れたゾロアスター教は別名「拝火教」といって火=光・善の象徴として信仰しています。
僕はここに書かれている「火を独占し、自らの巨大な影を作った」人物が今のテイワットを支配していると考えています。
▼洞窟の比喩
人間が捉えることのできる世界は、世界の全ての形ではありません。プラトンは「より広い視点で世界を見ること」「真実の形により近づくよう努力すること」を哲学的な視点から説きました。
これをより具体的に説明したのが洞窟の比喩と呼ばれるものです。
生まれた時から洞窟に閉じ込められて生活している囚人たちがいます。彼らはみな手足を縛られ、目の前の壁を見つめて生きていました。
彼らはみな囚人なので背後を振り向くことは許されていません。振り向こうものならムチを持った監視人から懲罰を受けるからです。
彼らの背後には高い壁があります。その壁の向こうには篝火があり、自由に暮らす人々がいます。
しかし囚人たちはそれを知りません。
壁の僅かな隙間から漏れ出た光が囚人たちの目の前の岩壁に映っています。囚人たちはその影を見て、それが世界の全てだと思い込みました。
囚人たちは背後に壁や火があることを知りません。自分が見ているものがただの壁に映った影であることも知りません。ここが洞窟の中だということも、外にもっと大きな世界が広がっていることも知りません。
ある日、一人の囚人が監視人の目を盗んで脱走しました。自由になった囚人は背後を振り返り、壁を見、火を見、人々を見、自分が今まで見ていた世界が、実際はただの影であったことに気付きます。
さらに進んで洞窟を出ると、洞窟の中の篝火とは比べ物にならないほど眩しく巨大な「太陽」の存在に気が付きました。
囚人はあまりの眩しさに目を眩ませます。しかし、やがてその明かりに目が慣れ、「この世界を照らしているのは太陽だという真実」を知りました。
洞窟に戻った囚人は、他の囚人たちに太陽の話をします。しかし、誰も彼の言葉を信じようとしません。洞窟に住む囚人にとっては岩壁に映し出された影のみが真実です。他の誰も、自分たちが見ているものこそが正しいと思っているからです。他に世界があるなんて考えもしないのです。
▽善のイデア
プラトンのイデア論とは最終的に「善く生きる」ということが目標です。
洞窟の壁に映る影は、物欲や権力欲にまみれた主観的な世界を表しています。
限られた世界(影)のみを見て生きている「洞窟の囚人」たちは、自らの限られた世界を疑わず、正しい世界の存在を知ろうともしません。
人間は、自分が信じている世界が全てだと考えてしまいます。与えられた情報だけを享受していれば思考する必要も、苦悩する必要も無いからです。
プラトンはそのような人間の様子を「洞窟の中にいる囚人」に例えることで考えを改めるように諭しました。
アルハイゼンのボイスにも同じような話があります。
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アルハイゼン
「自分の目を過度に信じるべきじゃない。見えるものが真実だと言うのなら、人は考える必要すらなくなるはずだからな。」
▽アーカーシャと孟子の言葉
「無学の塔」の説明文
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元は孟子の言葉です。
「水は低きに流れ、人は易きに流れる」
水が自然と低い所に流れるように、人は一度楽を知ると楽ばかりするようになる。という意味です。アルハイゼンはアーカーシャについて何度も苦言を呈していました。
「今までずっとアーカーシャに頼ってきた人たちにとっては、頭に浮かぶ全てが真理なんだ」
「想像してみろ。もし生まれた時からアーカーシャのような装置を使い、君が必要な時にはいつでもサポートし、助けてくれたとしたら…そのまま年月を重ねた君は何になる?指令の奴隷だ」
「アーカーシャに依存することに慣れてしまった者は、好奇心が次第に薄れていく。そうなれば情報の分別能力もかなり落ちる…やがて、アーカーシャからの情報を真理とみなすようになるだろう」
【隼の章】ではアーカーシャが止まったことにより、研究意欲をなくしてしまった学生が登場しました。
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チャンドラ
「君も理解できただろ?あんなに良いもの(アーカーシャ)を経験してしまったら、今さら苦労して調べようなんて人はいなくなる」
アルハイゼンは度々、これについて嫌味という名の助言をしています。
「聞く前に頭を使っていなかったようだから、考える時間をやってるんだ」
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「程度の低い質問に答えることは、質問した者の甘えを許すことにつながる」
アルハイゼンのオリジナル料理「理想的状況」
書かれている文字は「思考」です。
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つまり彼は「自分の頭を使って自分で考えろ」といっています。
僕はキングデシェレト様が掘り出した「禁忌の知識」はこの本物の太陽の存在、洞窟の比喩に関する一連の話の事だと思っています。
淵下宮の【日月前事】には他にも「樹の比喩」と「忘憂蓮」の比喩の記述がありますが、それぞれマハールッカデヴァータと花神の特徴に一致します。スメールの三神のことが書かれているなら「太陽の比喩」はキングデシェレト様であるはずです。
キングデシェレト様の霊廟の頂上は「アアルの影」という名前でした。
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アアルは古代エジプト神話の「楽園」つまり天国です。イデア論の考え方によると現実世界は「天国の影」です。
キングデシェレト様もイデア論者だったかもしれません。
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砂漠でこんな光景が時々見られます。見にくくて申し訳ないですが…おそらくキノコンは光合成をしていると思います。しかも彼らは夜だろうが太陽光の届かない洞窟の中だろうが、こうして地中からエネルギーを吸い取っています。
本物の太陽は地面の中、カーンルイアにあるのではないでしょうか?
アビスやヒルチャールたちは神の目を持っていませんが、元素力が使えます。テイワットの人々、七神と旅人以外は「神の目」という外付けの魔力器官がなければ元素力を扱えません。
旅人は自らの体内で元素力を生成することができます。テイワットの外・地下から来た人間は神の目無しで元素力が使える。
もともと太陽光がある場所で暮らしていた光の民だから?或いは実体があるから?かとも思っています。
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この光の先に何があるのか、早く知りたいです。
今回はこれでおしまいです!