ざっくり法律解説・第04回 実は、刑法は被害者や遺族を守るものではなかったりする

はい。最初のタイトルからびっくりされた方多いと思います。
でも法学部出身の方や、法学に触れた方なら知らない人はいない基本的知識なので、ぜひざっくり解説をしたいと思います

そもそも、刑法は何故あるのでしょうか?
以前もお話した通り、あらゆる法律には作られた理由(趣旨)があります
「刑法とは、犯罪とそれに対する刑罰の関係を規定する法です」
というのが教科書的答え。

そもそも、まずなんで刑法ができたのか、という歴史からたどることになります。
近代や近代以前の世界では、今でも続いているような「何々教の信者だから」とか「どこどこに住んでる人だから」とか、絶対王政の時代であれば「王様が気に入らなかったから」という理由で、死刑や重罰、流刑などを平気で行っている時代が長々と続いてきました。
特に多かったのが、すべての権力を握っている絶対王政の世界において、王様が、権力の限りを尽くして好き勝手して、死刑やら重罰やらを適当に課して、絶え間ない理不尽が続きました。そこで泣き寝入りし、理不尽に殺された人はとてもとても多かったと思います

そこで、立ち上がったのがまず現イギリスの国民達。
まだまだ王様が支配するのが当たり前だった時代、1215年に「せめて王様の権力を制限しよう」と考え、マグナカルタという法律が作られました。
王様の権力を制限して、国民を守ろうという考えが生まれたのがこの時です

そして有名なフランス革命(1789年)。
王侯貴族が好き勝手に税金を重くし、自分たちは裕福な暮らしをしていることに声を上げた国民が、そもそも王様自体もういらない!と動乱を起こし革命は成功。王様を引きずり降ろして、共和制、簡単に言えば国民が選んだ人たちが集まった国会であらゆることを決めよう、という制度を確立しました

そんな風に、現代に至るまで、平民たちは王様やら王侯貴族やらに家畜のように理不尽極まりない扱いを受けてきました
その中でも革命を起こしたり、色々な人が「より民が平和に暮らせる世の中にするにはどうしたらいいか」って一生懸命考えて作られたのが、民主主義だったり、国民主権だったり、三権分立だったりするわけですね

そのような歴史をたどった人間ですから、「権力というのは、常に乱用されるもの」と法律に詳しく、法律を研究している人は考えたのです

とはいえ、殺人をした人、窃盗を犯した者を許すわけにはいかないし、罰を課さないのも心理的におかしいと思うし、そういう枷がなければ悪いことしたもの勝ちの世の中を生きることになってしまいます
…と、いうわけで登場したのが刑法です。
「権力は常に乱用されてしまうから、その権力を制限して、犯罪者の最低限の人権を守るために、殺人罪の刑は重くてもここまで、窃盗罪の刑罰は重くてもここまで、残虐な刑罰は禁止」と、権力を縛るために刑法はできあがりました
ひいては、犯罪者であっても一人の人間、犯罪者でも人間である以上、人権を守るため、そのために刑法は存在します
権力をもつ者が「こいつ俺から窃盗とかして、ムカつくから死刑ね。ハイ斬首♪」というのを防ぐために刑法があるのです

さて、ここで皆さんが感じるのが「じゃあ、殺された被害者の人や、遺族の人たちの人権や、悲しい気持ちはどうなるんだ」ということだと思います
まず生きている被害者の方、そして遺族の方々に必要なのは、犯罪者の受ける裁判を傍聴して、その人がどんな刑罰を受けるのかを見て満足することではないし、そんなことで満足なんてできないと私は思います
大事なのはグリーフケア(grief care=悲しみへのケア)
裁判において先進国のアメリカでは、裁判を起こす際に国から補助金が出るだけでなく、そういう犯罪に遭ってしまった被害者や遺族の方達へのカウンセリングや、悲しみへの対処などの福祉制度がとてもしっかりしています
しかし、日本にはそんな施設も福祉もなーんにもありません
被害者や遺族の皆さんはほったらかし

だから、犯罪者の裁判に必死にすがるんですね。その人が少しでも多くの罰を受けたらいいと、悲しみを転化して、会いたくもないだろうに傍聴に行って…。
私は、これは日本の犯罪被害者を助ける制度が欠落しているからこそ起きる悲劇と考えます
刑法はそもそも、そのためにできたのではないんです
民事で損害賠償請求をしたってほとんどが支払われることはないといいます。
必要なのは、そういう方達の悲しみ・苦しみをケアすること。犯罪者のことはもう一秒でも忘れられるようになることの方が絶対に大事です
ですが、悲しいことに、被害者の方も遺族の方も、苦しみ悲しみに暮れ、路頭に迷っている
これは、完全に日本の政治の怠慢です。
早急にそういう制度を用意しなくてはいけないと思います
ではなぜ、日本はそんな怠慢を延々続けているのか
…お金がないからじゃない?
そんな風に勘ぐってしまうのは私だけでしょうか
裁判先進国であるアメリカのいいところを真似しないでどーすんでしょう

…今回はちょっと、ざっくり解説といいながら、ちょっと真剣にお話をしてしまいました
でも構造としては、そういうことなんだな、ということを読んでくださった方にご理解頂けたと思います
一日でも早く、ただひたすらに耐えている被害者や、ご遺族の方達を受け入れる制度・グリーフケアシステムが出来上がることを切実に願っています

もし心に響いたならば……投げ銭のひとつやふたつやみっつやよっつ!!よろしくお願い致す!(笑)