#1 雨の止まない世界 先進的なコンセプトデザインから読み解く未来の暮らし
ずっと雨が降り止まないとしたら、どんな暮らしになるでしょう。
気圧も低く、日光も浴びることができず、気分的にも体調的にも暗くなってしまう人もいるでしょう。もしかしたら、その天気から外出の機会が減ってしまう人もいるかもしれません。いずれにせよ、今と比べて不便な生活を強いられることになりそうです。
そんなマイナスに目を向けがちな未来シナリオですが、ここでは一度画期的なサービスを開発するスタートアップや、未来を感じさせるプロジェクトの先進事例に目を向けてみましょう。実際に開発・実施されているプロジェクトの中に、遠い未来の過酷な環境に適応できるヒントが隠れているはず。これから紹介する事例を通じて、雨の止まない世界でも快適に心地よく過ごすための暮らしを想像してみましょう。
未来の傘は空気圧シールド? それともドローン?
雨が降れば傘を差しますよね。現在みなさんが持っている傘のように開いたり閉じたりすることができる開閉式の傘が誕生したのは13世紀イタリア。実に800年以上にわたり傘の基本的な構造は変化していないのだとか。しかし、実は現在の傘とは全く異なる構造の未来の傘も開発され始めているのです。
2014年、アメリカのクラウドファンディングサイトKickstarterにて、“Air umbrella ”と呼ばれる商品の開発への資金提供が呼びかけられました*。その名の通り、マイク型の小型スティックから放出される空気圧によって、雨を遮るシールドを作るというコンセプトの傘。バッテリー駆動時間は15分程しか持たなかったようで実用化には程遠く、残念ながら開発プロジェクトは失敗。2016年にはクラウドファンディングの返金処理が行われています。しかし、この先テクノロジーの進化によってコンプレッサーの小型化が進めば、空気によるシールドで雨を遮るこの技術が実用化できる未来がくるかもしれません。一緒に歩く人数によってシールドの大きさも自由に変更できれば、その便利さに革新的な傘になることでしょう。
傘の進化の可能性としてもう一つ、ユーザーが手に持って「差す」のではなく「飛ばす」という発想で開発されているプロダクトがあります。日本のアサヒパワーサービス株式会社が開発する“フリーパラソル”**は、自律飛行するドローンに傘を組み合わせたもの。ユーザーの進行方向に合わせてドローンが自動的に進むので、手に持ったり操作したりする必要がありません。両手が空いた状態で、雨の中を濡れる事なく移動できるという画期的なアイデアで、実用化までは安全面の懸念や軽量化の課題があるそうですが、近い将来一人1台[u1] ドローンを所有するようになれば、この技術がいずれ役に立ってくるかもしれません。
巨大なひとつ屋根の下で完結する生活
雨の中での外出は気分が下がりますが、外出しなくても生活のすべてが完結するようになれば、雨が降っていようがいまいが関係ないはず。
次に紹介するのはそんな思想にぴったりの街全体をドームで覆う巨大な建築プロジェクト。実現こそしていませんが、以前からコンセプトデザインが発表されています。その一つ、2010年に発表されたシベリアの巨大ドーム都市計画***は、ダイアモンド鉱山の跡地である直径1200mの巨大な大穴に、10万人が生活できる都市を建設するというもの。当時2020年にはこれが実現できるとしていましたが、現在でもここまでの規模のドーム型建造物は残念ながら実現されていません。しかし、地球環境がこの先どんどん過酷になるにつれて、雨風や太陽光を防げるこのような巨大なシェルターが必要とされる可能性は十分にあり得るのではないでしょうか。
また最近注目を集めているのが、サウジアラビアで発表された “THE LINE”の建築計画****。900万人もの人々が暮らすことができる幅200m、高さ500m、全長170kmにも及ぶ直線状の巨大な建造物の建築計画で、中には住居だけでなく、オフィスから商業施設、スポーツジムや病院等のウェルネス関連、さらにエンターテインメント施設まで。生活のすべてが含まれる屋内型の複合施設なんだそう。そんな完璧な環境が整備されるのであれば、ずっと屋内で暮らすという選択肢も有力になるのかもしれません。現時点ではまだ夢物語のように感じますが、THE LINEは2045年までに完成予定とされています。
まとめ
どんなに雨が止まなくとも濡れない傘や屋内で完結できる未来都市が開発されたら、雨の日の外出も苦ではなくなるはず。今回ご紹介した事例はどれもまだ実用化されていないコンセプトデザインが多いですが、これらのアイデアにテクノロジーが追いついたとき、私たちの暮らしには革新的な変化が生まれるのでしょう。このような先進的なプロジェクトコンセプトをヒントにして「雨の止まない世界」での暮らしを想像してみるとファッションにも新しいアイデアが生まれるかもしれません。
(文・高橋 功樹/未来予報株式会社)