#1 雨の止まない世界 SPECIAL EPISODE
止まない雨と共に生きる人々の暮らし
暗い雲に覆われ突然大雨が降り始める。雷が轟き人々が足早に建物の中に入っていくー。
夏の特徴的な天気として、みなさんも経験したことがあるでしょう。そんな豪雨を眺めながら、ふとこの雨が止まなかったら?と考えた事はありませんか。もし雨の止まない世界になったら?このテーマ世界で生きる人々がどのような生活をしているか、想像を膨らませてみました。
地球環境の変化とともに雨が降り続くようになると、特に都市の姿を一変させるでしょう。ザーザーと強く降ったり、しとしとと小雨が降ったり、空模様に変化はあるものの、朝から晩まで降り続ける雨。しかし、人々は驚くほどの適応力を発揮し、雨と共に生きる暮らしを積極的に進めていきます。気まぐれな雨を基準に街がデザインされるため、その日の降水量によって道路が水路に変わるなど、変化に対して柔軟な街の設計となっています。
公共交通手段は水上タクシーや水上電車など水陸両用車両が主流であり、雨の中を不自由なく移動できるでしょう。MR技術(Mixed Realityとは現実世界にデジタル世界を重ね合わせ情報を付加しヘッドマウントディスプレイなどで見ることができる技術のこと)を用いた新たなナビゲーション技術のおかげで、交通機関は混乱せずに、どんな時も正常に運行されています。
街の所々に、日照ドームと呼ばれる特殊なガラスで作られた施設が建設されます。厚い雨雲を通過してきた太陽光を凸レンズの仕組みで集め、日向の環境を作り出す施設です。この時代、健康のために日光浴を行い、体内にビタミンDやセロトニンを意図的に作り出す事が推奨されているため、人気スポットとなるでしょう。雨の中での生活を楽しむよう設計されているので、人々は館内でスポーツやエンターテインメントを楽しむこともできるし、レインサッカーといった雨の中で行うチームスポーツが流行っているので、観客も一緒に濡れながら応援して楽しみます。
一方で、現在も問題になっている水問題について考えてみましょう。地球の水のほとんどが海水で、私たちが使える地下水や川の水は、地球上の水のたった0.01~0.02%ほどだと言われています。雨が降り続けば、日によっては水没する場所が多くなるため湿地帯や沼地が拡大し、川も増水し、洪水や土砂崩れなどで森林のこれまでの生態系は崩壊するでしょう。雨は、恵みにもなれば脅威にもなります。恵みという観点では、雨水は新たなエネルギー源として利用できるよう技術開発され、再生可能エネルギーの一環として普及していくかもしれません。飲み水が豊富になるのではと考えるかたもいるでしょう。
しかしながら、雨は大気中の二酸化炭素やその他の成分を含み、酸性に傾いているため、そのままでは飲み水にすることはできません。人が健康で清潔に暮らしていくための水資源管理として、飲み水でもある土に磨かれた地下水(天然水)をどう豊富に保っていくかがより重要になってきます。現在、水田の維持が地下水の保水量を上げるという研究結果もあり、「雨の止まない世界」において林業と農業は今よりも非常に重要な役割を持つことになるだろうことも考えられます。
農業だけに焦点をあててみても、稲作など湿地帯に適した作物の品種改良を進めるか、葉物野菜や果物を供給できるような高度な屋内栽培農場ができるか、変化があるでしょう。また、長期間にわたる雨よる、湿度や温度の変化は、新しいカビ菌や微生物の発生を促進する可能性があります。それにより新しい発酵食品が生まれるかもしれません。このようにこの世界では、新しい農業技術と食文化が開花しているのではないかと考えられます。
次に、服の機能的な役割と価値観変化を反映するファッション的な側面を考えてみます。例えば機能面でいえば、防水・速乾・体温調節・湿度調節などの機能が備わっていることが最重要となってきます。価値観の変化で言うと、雨の文化が花開く一方、年に5日しかない晴れの日が貴重なので、太陽を崇める太陽信仰が人々の間に広がる事が考えられます。雨や太陽といった、どうにもコントロールできないものへの畏怖が表現されるかもしれません。その他、太陽光が弱まり彩度が低くなるため、彩度の高い色が好まれる傾向になるでしょう。
日本は元々、多雨地帯に属していて世界平均の約2倍の雨が降る「雨地域」。古典的な詩や俳句に雨の情景が詠われたり、雨の呼び名が何十種類もあったり、和傘や雨具といった雨の季節を彩るための独自の文化や習慣が存在します。
同様に「雨の止まない」世界がきたら、災害対策はもちろん必要ですが、雨の気候・環境にフィットしたファッションや都市までもがデザインされたり、音楽や物語などのコンテンツの内容が変化したり、雨と太陽に関する新たな文化が花開くであろうことが容易に想像できます。そうやって、雨と共に暮らす人々が楽しみながら適応することで、活気に満ちた社会が継続していくと考えています。
(文・宮川麻衣子/未来予報株式会社)