#4 菌類に覆われた世界 ファッション業界で注目される新素材
実はファッション業界でも菌類に対する注目度が高まっています。キノコのイラストが描かれた洋服がブーム!という意味ではなく、菌糸体による新素材が有名ファッションブランドに使われ始めているのです。ファッション業界が抱える大きな課題を解決するかもしれない、菌類による革新のコレクションをご紹介します。
キノコの菌糸培養からマッシュルームレザー
ヴィーガンレザーと呼ばれる植物性合成皮革(合皮)の多くは、植物の粉末と化学素材を加工して製造されます。一方で最近話題のキノコを使ったマッシュルームレザーは、菌糸を培養することで化学素材を使わずに生産できるのが特徴。動物由来の皮革素材はもちろんですが、その他の合皮素材に比べても製造における環境負荷が低いために、画期的な新素材として注目されています。
アメリカのBolt Threadsは、クモの糸を洋服の繊維にするなど一風変わった素材を開発するスタートアップ。ファッションブランドのStella McCartneyは、2017年からBolt Threadsとパートナーシップを結び、2018年には彼らが開発したマッシュルームレザー「Mylo」を使用したバッグのプロトタイプを発表しました。さらに、2021年にはMyloを使った洋服も発表し、2022年にはバッグの店頭販売を開始しています*。
Myloはそのほかにも様々なファッションアイテムへと活用の場を広げ、2021年にはアディダスとパートナーシップを組み、革製のスニーカー「Stan Smith Mylo」を発表**。また、スポーツウェアブランドのルルレモンとは、Myloを使用したヨガマットを2022年から販売しています***。
またエルメスも、別のスタートアップ企業と手を組みマッシュルームレザーを使用した商品を開発。アメリカのMycoWorksと開発したレザー素材「Sylvania」を使用したバッグを2021年に発表しています****。このように、マッシュルームレザーはサスティナブルな新素材として、特に環境意識の高いファッションブランドから注目を集めています。
ファッション業界が抱える環境問題
ファッションブランドがサスティナブルな新素材開発に取り組む背景には、ファッション業界が環境破壊の大きな要因としてしばしば批判されているという理由から。大量生産・大量消費が当たり前になった現在のファッション業界では、大量のエネルギーや水を消費して衣料品が生産されています。例えば、ユネスコ- IHE水教育研究所によると、Tシャツ1着を作るのに消費される水は約2,700lという研究結果も出ているのだそう*****。
ファストファッションの台頭によって、短期間で移り変わる流行に応じて大量の洋服が生産・廃棄されるようになり、生産体系だけではなく衣料廃棄物も深刻な問題となっています。特にナイロンやポリエステルなどの化学素材は、自然に還すことができず土壌や水質汚染の原因に。このような理由からも、生産による環境負荷が少なく、廃棄しても自然に還すことができる素材のマッシュルームレザーは、まさにファッション業界が待ち望んだ画期的な新素材と言えるでしょう。
まとめ
今回ご紹介したマッシュルームレザーによる製品は、高級ブランドによるものが多く、まだまだ手ごろな値段で買えるものではなさそうです。しかしSDGsが叫ばれる昨今では、マッシュルームレザーのようなサスティナブルな素材を活用したアイテムを持つことが、環境意識の高さを表す一種のステータスとして人気になるかもしれません。
ファッションアイテムは単なる見た目のお洒落さだけではなく、その人の考え方やライフスタイルを表すもの。素材がブランドと同等に重要視される未来もおもしろそうです。菌類を使ったサスティナブルな素材は今後どう進化していくのでしょうか。環境問題への対策が急務なファッション業界では、その素材の進化はますます加速していくことでしょう。
(文・高橋 功樹/未来予報株式会社)