見出し画像

#1_雨の止まない世界 水上で暮らす都市とモビリティの可能性

大雨による河川の氾濫や道路の冠水、住宅の浸水被害等をニュースで目にすることが多くなりました。あくまでも陸上での生活を想定して造られた住居や自動車は、想定を超えた災害級の大雨では役に立たないもの。もし「雨の止まない世界」が訪れるとしたら、私たちの暮らしはどうなっていくのでしょうか。地盤が弱まり土砂災害の危険からこれまでのようには住めない土地が増えるかもしれませんし、冠水して道路が川のようになった際に外出できる新たな移動方法が必要になるかもしれません。
そこで今回は、海上都市の開発計画や、一般家庭向けの水陸両用車など、水と共に暮らす未来のアイデアをいくつかご紹介したいと思います。


人口の浮島に街をつくる海上都市の建設計画

地球温暖化による海面上昇や、地球規模の人口増加への対策として、海上都市の建設計画がいくつか発表されています。その一つ、ニューヨーク拠点のスタートアップOCEANIX*は、建築家のビャルケ・インゲルスがデザインする海上都市を、韓国・釜山の沿岸部に2025年までに完成させるとのこと。6.3haの広さに12,000人が暮らす街となる予定で、将来的には10万人が住める街にまで拡張することも可能だとしています。このような浮島であれば雨が止まなくとも、地盤への影響がないので問題無く住み続けられそうです。また、道路の代わりに水上を移動することになるため、今とは異なる移動手段が発達する可能性が高くそのライフスタイルの変化にも要注目です。

Oceanix 釜山の完成イメージ図(画像引用元:https://mag.tecture.jp/culture/20220511-oceanix-busan/

もう一つ、パナマ発のスタートアップ Ocean Builders** は、水上に浮く未来の住居“SeaPod”のコンセプトデザインを発表し、開発を進めています。原理は氷山と同じで、空気を充填した基礎部分によって水上3m程の浮力を生み出すことで、波の上に浮かんでいる状態でも安定性が高い住居にするのだそう。波が大きい時には多少の揺れもありそうですが、水上での生活には現在の陸上の暮らしとはまた違った新しい心地よさもあるのかもしれません。

水上住居SeaPodのイメージ画像(画像引用元:https://oceanbuilders.com/

冠水時にも安心な一般家庭向けの水陸両用車

超小型電気自動車を開発する日本のスタートアップFOMM***は、水に浮く軽自動車EV(電気自動車 )“FOMM ONE”の量産を2019年に開始。基本は陸上を走るEVのですが、緊急時には水に浮く水用車に切り替えるのだそうです。冠水した道路では普通の自動車は故障の危険がありますが、これなら冠水時でも低速ですが自由かつ安全に移動が可能。今回、紹介したのは自動車ですが、今後は水上での移動を想定したバイクや自転車などのモビリティ開発も広まる可能性もあります。もしかしたら、水上スキーやSAP(Stand Up Paddleboard)のようなマリンアクティビティが、普段からの移動手段になり替わる未来もあるかもしれません。

軽EVのFOMM ONEは冠水した道路でも低速での走行が可能(画像引用元:https://blog.evsmart.net/ev-news/fomm-one-kei-car-available-in-japan/

AIによる自動運転の水上タクシー

冠水した道路だけではなく、水上都市のような島と島の間を移動するならば、水陸両用車よりも小型船による水上タクシーの方が便利かもしれません。日本発のスタートアップ Eight Knot****は、AIによる船舶の自動運転システムを開発。操作の難しそうな接岸・離岸時も完全自動運転で対応できるそう。昨今、自動車の完全自動運転技術の開発が進んでいますが、歩行者の安全性の確保という大きな課題が完全にはクリアできていないことを考えると、何もない水上を移動する船舶の方が自動運転化に適していると言えるかもしれません。一部で展開されている船を利用したUberサービスもさらに賑わってきそうです。

AIが自動で最適なルートを設定、センサーを用いて他船や流木などの障害物を検出し回避・避航操船を行う(画像引用元:https://8kt.jp/solution)

まとめ

雨の日の外出はどうしても億劫に感じてしまいますが、街づくりや移動手段が雨を前提としてデザインされていたら、工夫次第で快適に過ごすことも出来るのではないでしょうか。もっと言うと、生活の場が水上になるのであれば、濡れないように気を付けて外出するよりも、始めから濡れる前提で外出する方が楽しく過ごせるはず。機能性だけではなく、ネガティブな要素をどうポジティブに捉えて楽しむか、テンションを上げられるか、そんなファッションや暮らしのスタイルが雨の止まない世界で人気になるのかもしれません。

≪参考記事/ウェブサイト≫
*TECTURE MAG / BIGが設計した水上都市のプロトタイプ〈OCEANIX釜山〉https://mag.tecture.jp/culture/20220511-oceanix-busan/
 
**Ocean Builders / SeaPod Innovative Floating Homes https://oceanbuilders.com/

***EV smart Blog / 水に浮く! 軽EV『FOMM ONE』はいつから日本で買えるのか?
https://blog.evsmart.net/ev-news/fomm-one-kei-car-available-in-japan/
 
****Eight Knot / あらゆる水上モビリティをロボティクスとAIで自律化する https://8kt.jp/

(文・高橋 功樹/未来予報株式会社)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?