#3 月を行き来する世界 月面で人間は生活できるのか?
月の重力は、地球の6分の1。過去の月面着陸で宇宙飛行士がジャンプしている映像からも、その浮遊感を感じとった方は多いのではないでしょうか。では、重力以外の気温や気圧、大気成分などその他の自然条件はどうなっているのでしょう。月面は果たして人間が生活できる環境なのでしょうか。これまでにわかっている研究データを見ながら考えていきましょう。
大気のない月面に降り注ぐ3つの脅威「太陽光・隕石・放射線」
地球は大気に包まれているため、日中は降り注ぐ太陽光を和らげ、夜間には反対に温められた地表からの放射熱を保つことで、人間が生活できる気温を保っています。しかし大気がほとんど無い月では、太陽光が地表まで直接届く日中はとても暑くなり、反対に夜は絶対零度の宇宙空間との境目がなくなることで極端に気温が下がり、その温度差は非常に大きなものに。月の赤道付近の観測データでは、昼は最高110℃、夜は最低-170℃となり、その差は200℃以上もあります*。酸素の問題だけではなく、昼夜問わず人間が生身で耐えられる気温ではないので、寒暖差を守る役割もある宇宙服の着用が必要となるのです。
気温差と同様脅威なのは、宇宙空間を漂う隕石が頻繁に地上に衝突すること。みなさんご存知のように月面には大小様々なクレーターがありますが、それらは隕石の衝突によって出来たもの。そして、今なお増え続けています。アポロ計画でNASAが設置した月面での地震を計測する震度計データによると、7年間で隕石の衝突と判明したものは1,743個**もあり、実に年間約250もの隕石が落下していたんだそう。また、大気の無い月では、地球のように隕石が衝突前に燃え尽きることがないため、直撃しなかった場合でも、飛び散る隕石のかけらが二次災害として大きなダメージを与えることも予想されています。
そして最後3つ目の脅威は、降り注ぐ宇宙放射線。月面で受ける被ばく量は年間約420mSvと言われており、これは地上の200倍以上の数値です***。ちなみに、地球上の放射線業務従事者の基準値は「5年間で100mSvまで」、この数値と比較してもいかに月での被ばく量が多いかがわかるでしょう。被ばくによる健康被害を防ぎながら月に住むためには、放射線対策の施された居住施設を作るか、もしくは地下に潜って生活するかの二択。隕石の懸念を考えると、地下に居住施設を建設するというのが月面では現実的な選択肢と言えるのかもしれません。
重力の変化が人体に与える影響
普段から地球の重力下で生活している私たちが宇宙に行くと、頭痛や吐き気などの「宇宙酔い」****を経験すると言われています。反対に、宇宙に滞在していた宇宙飛行士が地球に戻ると「重力酔い」を経験するとも言われています。宇宙に飛び立つ前の訓練で多少は軽減されると思いますが、月と地球を頻繁に行き来するような生活は体への負担が大きくなってきそうです。
また、宇宙酔いや重力酔いだけではなく、宇宙では顔や体がむくんだり、重力の少ない環境では骨や筋肉が衰えていくことも予想できます。見た目の変化が大きいこれらは、ファッションにとっても重要な問題と言えるでしょう。ずっと月面で生活するのであればそのままでも良いかもしれませんが、地球と行き来することになるのであれば、月面ならではの筋力維持トレーニングが必要かもしれませんし、月にいながら、手足に重りを仕込んで疑似的に地球の重力に慣らしていくトレーニングスーツも開発されるかもしれません。
まとめ
改めて月面の自然環境について調べてみると、地球とはかけ離れた過酷な環境だということがよくわかります。実際に月に住むことを考えると、宇宙服に代表されるような防護服と、安全性が確保された居住施設が必須条件になるでしょう。最近は、機能面とファッション性が両立するような新しい宇宙服も発表され始めています。人類が長年夢見ている月への移住。安全性を保ちつつ、ファッションとしても魅力的な月面での衣服をデザインしてみることで過酷な環境を超えた新たな夢と希望が広がるのかもしれません。
(文・高橋 功樹/未来予報株式会社)