#2 空中で暮らす世界 地上を離れて暮らす未来は訪れるのか?
東京は世界で最も人口の多い都市だと言われています。世界的に見ても都市部への人口集中の傾向は加速、2030年には50億以上の人々が都市部に暮らすようになると予測されており*、都市部への人口集中は、交通渋滞や家不足、感染症リスクなど多くの問題を引き起こす要因となっています。また、視点を変えてみるとみなさんもご存知の通り地球温暖化による海面上昇も深刻な問題です。イギリスの国立海洋学センターは、2100年に地球の平均気温が2℃上昇すると、海面が今より約90cm上昇する**と予測。海面上昇によって都市が水没する可能性は、決して遠い未来の話ではありません。日本でも東京や大阪など沿岸部の大都市では大きく影響を受けるでしょう。
「空中で暮らす世界」という設定は、このような私たちが抱える問題に対処するための一つの可能性です。もちろん都市部への人口集中や地球温暖化といった根本の問題へのアプローチは必要不可欠ですが、現在の常識に囚われずに考えることで、悲観的な未来ではなく、未来での新しい暮らしの可能性についても模索してみましょう。
上空での気温や風の強さって?
空中の気象条件はどうなっているのでしょうか。
国際標準大気による定義では、高度が100m上がると気温が0.6℃下がる***と言われています。例えば、富士山の山頂(標高3,776m)と地上(海抜0m)の気温差は約23℃、旅客機が飛ぶ高さ(標高10,000m)と地上(海抜0m)では気温が約60℃違います。特別な防寒対策をしないと生身の人間ではとても耐えられないでしょう。
また空中で想定される過酷な気象条件は気温だけではありません。気象庁の1991年~2020年の気象データ統計****によると、標高約3,000m地点では、地上に比べておよそ3~4倍の強風が吹いています。さらに標高10,000mのような上空では、風速60m以上もの強風の記録が。空中での生活で必要となる住居の強度や防寒・防風対策は、どのくらいの高度を想定するかによって大きく異なりますが、少なくとも地上での生活とは異なる基準で物事を考える必要があるでしょう。
上空での気圧や酸素って?
標高の高い山に登ると高山病になることがあります。これは、標高が高くなることで空気中の酸素濃度が薄くなり、平地に比べて体の中に取り込む酸素の量が低下することで起こるもの。高山病の主な症状は頭痛、吐き気や嘔吐などの消化器症状、疲労やめまいが挙げられます。*****また、高山病とまでは言わないものの、気圧が下がることによって頭痛などの体調不良に悩まされる人も。というのも、耳の奥にある内耳には気圧変化を感じ取るセンサーがあり、気圧が変化すると、そのセンサーを通じて自律神経系のバランスが崩れていくのです。******こうしてストレスに対しての抵抗力が下がることで、血流障害や筋肉の緊張が起こるため、不調が引き起こされていくという仕組みです。
気圧変化への人体の反応は個人差があり、頭痛薬などでの対処ができる人もいるでしょうが、気圧の影響を受けないスーツやヘルメットを装着することで防ぐ人も出てくるでしょう。また遠い未来、空中での生活が長く続くようになれば、次第に人間の体が環境に適応していくことも考えられそうです。例えば、マラソン選手が高地トレーニングを行うことで心肺機能を高めていくように、酸素濃度が薄い上空で長い間生活することで、身体機能が強化された新人類へと進化する可能性もあるかもしれません。
空中で有効な日焼け対策とは?
もう一つ気になることは、強すぎる紫外線による日焼けの問題です。登山の場合は1,000m登ると紫外線は10~12%増加するとされており、富士山山頂では地上の4割増しになります。*******太陽に近くなるほど紫外線は強くなるので、空中での生活では日焼け対策が欠かせません。日差しの強い時には日傘をさす人も多いですが、強風に煽られる空中ではそうもいきません。日焼け止めは美白のためというよりも、肌を火傷から守るための必需品になるでしょう。また、衣服にはUVカット素材を使用することが義務化され、肌を露出することはタブーと考えられるようになるかもしれません。このように空中の気象条件が引き起こす人体への影響からも、新たなファッションのアイデアのヒントが見つかりそうです。
まとめ
地上よりも気象条件の影響を受けやすい空中での生活では、今よりもさらに高度な気象予報技術と、その予報に応じた対策が必要になるでしょう。また、低気圧や低酸素状態への耐性を付けるために、小さい頃から徐々に過酷な環境に体を慣らしていくような特殊な訓練プログラムが義務教育として課せられる可能性もあります。暮らしを取り巻く環境がガラリと変わるので、ファッションもデザイン性だけではなく、人間の身体機能をサポートするような機能性の高いものが求められるかもしれませんね。
(文・高橋 功樹/未来予報株式会社)
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