時計塔の妖精たち
「君はいつからここにいるの?」
「一週間ぐらいかな。確かじゃない。時間の感覚が消えたし、iPhoneをもっていないから」
爆笑
「ニックだ。君は?」
「トロンド・リストロン。大学で研究していた」。
「へー、そう。ぼくは検視官だった」。
「変わった仕事についたんだね」。
「それより、ここにはどれぐらいいられるのだろうか?」。
2人の青年は大きな北欧の街の時計台から下を見下ろしていた。死んでここに来たのだった。やはり、死後の世界というのがあったことに気づき魂が震えた。
身体の形もくっきりとしている。最初はぎこちなく、影が薄くなったり、消えたりしたが、それは自分の思った通りの姿を投影しているだけだった。
「友人のアレクはもう4年はいると言ってた。似た様な魂は一緒に集まっているから、いずれ会えると思う」。
食べなくてもいいし、眠らなくても、いつも気分はスッキリしているけど、不安な気分はいつまでも続いている。ぼくたちはいずれ影が薄くなって消えるのかな?
「もう、消えてるけど」(爆笑)。
ハンサムなトロンドは顔の片側に酷い傷があり、うまく話せないというか、ーーいっさい話していないのに心に思ったことが通じるのに驚いた。
「見せてごらん」。
「それは事故の傷だね。心のダメージが失せると元の顔に戻ると思う」。
それは検視官の診断?
いや、IS-Beの常識だよ。
サークルに行かないか?
うん、行くよ。
ついて来て。
2人はゆっくり低空を滑空し始めた。
「次にどの母親から生まれたいか、選択するため、ここにはたくさんの魂が集まっている。今日は5人だね。
「アレク、新しい魂だよ。トロンド」
アレクは女だった。
「アレクサ?」
「ハィ! 誰かいい母親見つけた?」。
早く孕らないか、みんなが待ってる。爆笑。
「お母さんになるって、世界のみんなに望まれているのね。生きている時にそれを知りたかったわ」。
アレクは髪を靡かせ、美しい横顔が煌めいていた。
何で死んだのか聞きたかったけど、それはプライベートに踏み込み過ぎると思い、トロンドは口をつぐんだ。
「自殺したの!」。
「読まれた」。
「いいのよ。わたしの身体が気になる?」。
言わずもがなだ。
「ほら、みろ!男ども」
ニックは虚空を三回転して身体をひねってヒューッと口笛を吹いた。
「これだからアレクは最高の女さ」。
わたしはここに来て明るくなった。
前向きになった。それが人生だということを学んだ。そうやって生きる。次の人生では。だからこころが安定した美しいお母さんが孕むのを待ってる。
先週、失敗したばかり。綺麗なお母さんはみんなが狙っているから競争が厳しい。爆笑
アレクはしんみりつぶやいた。
アタシはツイッターじゃない。こころの想いを必ず実現させる。
それは務めなのだ。この世界にいるただひとつの仕事。それを見失ったら、あの老女の群れの様に騒がしく世界の人に煙たがられる存在になる。
いったい、どこから来たのだろう。
「老人ホームからさ。認知症になって、自分が何かさえわからなくなった魂たちさ」。
どこに行くのだろう。
「確かではないが、動物のなかに入れられると思うよ」。
何ものにもなれないというのは、存在する意味がない、ミュージシャンみたいなもの。まるでどこかの惑星の独裁政権で、うるさいだけで何の役にも立たない未納税者をたくさん地球に送り込んでいるから」。
「アレク、あなたは物知りだね」
「4年いるから。あれはアルデバランから送られて来た囚人よ」。
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今も100万年前と同じ様に地球を監獄として使っている。人間は銀河系では相当、遅れているから自分の惑星が監獄惑星だということに気づかない。
『Hymn to Love』
『ダーウィン死後世界の東京』の直前のストーリー『Hymn to Love』は紀伊國屋Book、au、Sony、Amazon など15社から発売開始されました。全人類の運命について触れています。何も知らずに死んで行くより、知って生きる方が遙に素晴らしい人生になるはずです。
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