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アネモネ

私はいつも一人。

生まれた時から親はいない。
どうやら、皆んなからはアネモネと呼ばれているらしい。

日課は、人間観察。

朝早くから忙しそうに鞄を持ち歩く男。
夜10時頃、派手な服を着て店に入っていく女。
手を繋いで、楽しそうに歩く男女。

人間とは不思議である。
楽しそうな顔、辛そうな顔、どんな顔をしていても、必ず誰かがいる。

私のように、生まれた時から一人のやつには、誰かと関わる経験がない。

しかし、それで良いとも思う。
人間関係とは、何かと面倒なことが多そうだ。

第一章 一人

ある日、泣いている女の子がいた。

話を聞いてみると、どうやら彼氏に振られたらしい。

何故そんな苦しい思いをするとわかっていながら、付き合うなどといった関係になりたがるのか。

そんな疑問を抱いている私を横目に、女の子はこう言った。
「人は、誰かと関わっていないと生きていけないんだ。」

なんて弱い生き物なのだ、人間というのは。

私は生まれてこの方、一人で生きてきた。
しかし、立派に育っている。
誰の力も借りることなく、他人を観察して暇をつぶすほどの余裕もある。

ふと、雨が降ってきた。
しかし、私の頭上には雨が降らない。
女の子が傘をさしてくれたようだ。

周りを見渡すと、突然の雨に困り顔を浮かばせる人間がちらほら。

私は、なんだか胸が熱くなった。

第二章 独り

私は人間観察を辞めた。
同じ場所で、女の子が来る日をずっと待っている。

しかし、一向に現れることはなかった。

久しぶりに近くに現れた人間は、黒い服を着て、右手に刃物を持っていた。
今まで見てきた人間とはまた違う顔をしている。

こいつも、誰かと関わっているのか。

この日、私は真っ暗な世界しか見えなくなった。
どうやら、刃物を持った男に踏まれて、死んでしまったらしい。

女の子には会うことができなかった。

人間とは、人に優しくされ胸を熱くし、人に傷つけられ涙を流す。

その両方を感じ、気付いた。

私は、一人ではなく、独りだった。
生まれた時から孤独な私は、関わりの輪の中で成長する人間という生き物になりたかった。

「あー人間になりたい」

誰からも見放された、孤独な生き物である私の名は、アネモネである。




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