恐怖のあまり、目をつぶる

*サッカーの試合を見ていて驚いたのが、スロー再生で選手がヘディングをする瞬間、ボールが頭に当たる直前、目を閉じてるんだよね。いや、そんなの当たり前だろうと思うかもしれないが、プロ選手はもうそんなの慣れっこで、目を開けたままヘディングしてるもんだと思ってたのよ。ところが、当たり前だけどそうじゃなかった。いくつかヘディングのシーンがあったけど、ほとんどの選手が当たる直前に目をつぶっている。

そりゃそうだ。いくら自分から当てに行っているといえど、それなりに固いものがあんなスピードで頭に向かってきたら、防衛的にも目を閉じるだろう。格闘技の世界にも瞬きはあるだろうし、野球でも顔の近くにボールが来たら、恐怖のあまり目をつぶっちゃうものね。

しかし、こと理論だけで言えば、目をつぶることのほうが危ないわけだ。だって、つぶったらなーんにも見えなくなるもの。開けていれば、軌道が分かったり避けれるヒントがあるかもしれないものを、自ら遮断してしまうわけだ。だからといって「開けろ!」なんてのは、何か「枷」を外さないとできないことなんだろうね。

どうして目をつぶるかといえば、眼球が傷付いたら危ないという防衛もあるんだろうけど、「恐怖のあまり、閉じちゃった」というのもあると思うんだよね。怖いが故に、思わず目を閉じちゃう。つまり、視覚からの情報を遮断することによって、恐怖を遮るわけだ。

むかーし、野球のメンタルコーチに「不安を感じたときには、目を瞑って深呼吸をしなさい」と言われたことがある。深呼吸も大事だが、それと同じくらい目を瞑ることも大事なのだと。五感のうち、最も強い「視覚」を遮断することで、少しずつ落ち着いてくる。その中で呼吸を取り戻して、平常心に帰っていく。「恐怖を遮断するには目をつぶる」というのはテクニックでもあり、防衛でもあるんだよなぁ。

「目を逸らすな」というのは、りっぱな教えとして分かるし納得するんだけど、そこの枷を外してしまうのもなんとなく怖い。人間が持つ縛りを突破するわけだから。脳は本来の力量の数割しか使われていない、というのもあるけれど、それを突破すると全部いいことだらけ、なんてのもちょっと嘘っぽいんだよなぁ。「恐怖から目を逸らすな」がテクニックなら、「怖さが襲ってきたらまず目を瞑れ」も、じゅうぶんテクニックだよね。


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