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経験を盗む
*この前、プロダクトが好きなデザイナーと話していて、おもしろいなぁと思ったことがあった。彼女は感性も独特だし、何かを見たときに思うことや、美しさを感じるポイントのようなものが違うので、いわゆる「目の付け所」が違うんだろうなぁと思っていたのだけれど、その「目の付け所」について聞いてみたのだった。
お茶をしながら、そのお店にある椅子について、「たとえばあれを見て、まず何から見るの?」という具合に聞いてみる。僕の方は、木で出来ていて、脚が長くて、お、よく見たら接木の部分が独特だなぁくらいの感想しかない。彼女は数秒黙った後に「まずあの接木の部分が独特で、曲木を使ってるでしょ。あれ難しいけど美しいなあって思うかな」と言った。まず「構造」を見ているのだと知った。
これは、どんな職業でもあると思う。漁師さん、服屋さん、料理人、建築家、作家…それぞれ「観点」が違うのだ。そして「目の付け所」が違うといっても、最初からそうだったわけではない。きっとその人なりに経験と体験を重ねていくうちに、目が「そういうもの」になったのだろう。別の言葉でいえば「職業病」とも言えるその「目」を、ちょっと分けてもらうとおもしろいなぁと思う。
彼女のそのことばを聞いてから、ぼくも何かを見るときに「構造」に目が向くようになった。これはほんの少しばかりだけれど、彼女の「目の付け所」、つまり今までの「経験」を盗んだとも言える。いろんな人の「経験を盗む」という体験をおこなっていくのは、ものすごくおもしろいんじゃないかなぁ。その人の「経験」をきちんと聞いて、それを体現することは、新たな世界への扉を開くことにもつながるわけだし。知らず知らず「そういうもの」になっているものを、分解して再構築していく流れを体現してみると、ちょっと自分が変わる。その変化を絶えず、自分に流し込みたいのだ。