完璧なミックスサンドを求めて。
*野球少年だった頃、平日の朝に父親に協力してもらって、よく近くの公園で練習をしていた。朝6時に父親を起こして、車で近くの広い公園に行き、ランニング・キャッチボール・ティーバッティングと一時間半程度の練習をする。今思えば、仕事があるのに平日の毎朝6時からよく付き合ってもらっていたものだ。
その帰りによく寄っていた喫茶店があって、川沿いにある、外観はただの一軒家で中を改装した形の小さな喫茶店だった。とくに看板も出ておらず、庭先にメニューの書いた紙が譜面台に挟んで置かれている。朝の練習帰り、よくそこに寄ってモーニングを食べて家に帰り、学校へ向かっていた。
ぼくが頼むのはいつも「ミックスジュース」と「ミックスサンド」で、今思えばものすごくミックスされた献立なんだけれど、そこで食べた「ミックスサンド」を超えるサンドイッチにまだ出会ったことがない。どうせ思い出だから美しいんでしょう?と思うだろうが、それを差し引いても、ほんとうに美味しかったのだ。
厚焼き卵、きゅうり、ハム、トマトの4つで構成された、至極シンプルなミックスサンドだった。厚焼き卵もどちらかといえば薄い方だし、豪華絢爛というわけでもなければ、具材にこだわっているわけでもない。マヨネーズには少しからしが練り込まれていた気がする。その辛味とマヨネーズと卵が合わさった甘み、そしてトマトの酸味ときゅうりの食感がミックスされた、完璧なミックスサンドだった。ああ、思い出しただけでも、また食べたい。
あれから二十年近く経って、あれ以上のミックスサンドに出会えていない。過不足ない、ぼくにとって完璧なミックスサンド。きっと誰もにこんな料理はあるんだろうなぁ。まだそのお店があったなら、思い出すように食べに行くことはできるけれど、なくなってしまったらもう味わいようがない。似ている味を探すか、記憶を頼りに自分で再現してみるくらいだろう。
ただ僕の場合は、自分が自分のためにつくる料理を、ほんとうに「おいしい」とはなかなか思えないんだよなぁ。そのへんが料理のおもしろいところなんだけど、さみしいところでもある。ああ、誰か、おすすめのミックスサンドのお店があれば、ご一報ください。