斜面に広がる坂の町
自転車があればどこまでだって行けそうな平らな京都から
坂と階段だらけの長崎に引っ越してきて山の上に住むようになった頃。
学校も遊び場も山の下で、まだ道もよくわからないので
毎日、下界を目指してとにかく適当に階段を下っていた。
細い階段の両側には民家が立ち並び、
周りもよく見えないのですぐ方向が分からなくなる。
何度も何度も分岐点がやってきて、
なんだかあみだくじみたいだなと思いながら、
時々ひょっこり顔を出すノラネコをからかいながら、
車が入れない現場に資材を運ぶ馬とすれちがって驚いたり、
斜面に張りついた網の目状の階段を
下って行く自分を俯瞰した様を想像してみたり。
まあとりあえず下りきってしまいさえすれば
そこから平面移動すればいいのだから、
と適当に適当に階段を下って行く。
時々、分岐を誤ると、民家に行き着いて行き止まり。
また前の分岐点に戻って次は別の方向へ。
無事に下界まで降り着いても、
予想とまったく違う所に出てびっくりすることも。
進学とともに長崎を離れ、一年ほど日本からも離れ、
その後再び帰ってきて、最近たまにふと思うのは、
自分のパーソナリティ、物の見方、考え方などには、
階段や坂をひたすら上り下りするあの日々によって
培われた部分が少なくないんじゃないかということ。
生まれた場所も育った場所もばらばらなので、
故郷はどこ?と聞かれると戸惑うことがよくあるけれど、
そんなことを考えてみると、僕の故郷はやはり長崎なんだろうなと思う。
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