プロローグ
そのお店は、大きな街の片隅にある、陽の当たらない路地裏の、さびれた通りにありました。
昼間はずっと閉まっているのか、人の気配はありませんが、夜になると灯りがついて、周りを優しく照らします。
だけど、一体何を売っているのか、外から見ているだけでは、誰にもさっぱりわかりません。
それでもぼんやりわかるのは、お店の窓のその奥に、ハンチングをかむったおじさんが、必ずいるということです。
おじさんはいつも、何やら作業をしていたり、椅子に座って本を読んだり、レコードを聴いたり、時にはパンをかじったり、働いているというよりも、毎日遊んでいるような、そんな感じに見えました。
けれども、お店のおじさんは、ちゃんと仕事をやっていて、お客さんも、灯りに集まる虫たちのように、どこからともなくやって来ます。
なにしろ、このお店には、他のお店にはない、かけがえのない宝物が、それこそたくさんあるのです。
宝物といっても、高価なルビーやダイヤモンドではなく、ガラクタのような商品や、目には見えないものなんですが、おじさんにとっては、それが何より美しく、眩しい宝物に見えるのです。
この物語は、そんなお店とおじさんの、現在や過去や未来を綴った、不思議な不思議な物語です。
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