🚏 ねむるバス停

◆舞台
薄暗い、灰色の夜。雪が深々と降りつづいている。
ぽつんと置かれた古びたベンチを、ひとつの街頭がぼんやりと明るく照らしている。そばには、「バス停」と書かれた看板が立っている。

A：バス停にやってくる女性
B：バス停で待ち続けている男性

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A「よく降りますね。これじゃあいつ来るか分かりませんよ」

B「本当に。もうこれ以上、ひつじを増やさないでもらえると助かるんだけど」

A「きっと眠れないんでしょう。無表情な真っ白のひつじが次々に柵を飛び越えていくとこを、わたしも頭の中に描くことがありますよ」

B「そうでしょうね」

A「あのひつじは、どこから来て どこへ行くんだろう」

B「無限に沸いて出て柵を飛び越えたなら用なしです。だから行き場をなくしたひつじたちが雪のように空から掃き出されるのです」

A「あぁそれで。今夜は眠れない人が多いのでしょうか」

B「まぁ、いつもこんなものですよ」

A「バスはいつ頃来ますかね」

B「きっと、もうすぐ来ますよ」

A「よく待っているんですか？」

B「えぇ、ぼくもうまく眠れないので。あなたは？」

A「さぁ、初めて来た気もするし、以前にも来たことある気もするし」

B「…皆さんそうおっしゃいます」

B「…飴玉でも、どうですか？ちょうどポケットに2つあったので」

A「ありがとうございます。でも、歯を磨いてしまったのでやめておきます」

B「それなら、同じ顔になれる粉は？」

A「え？」

B「同じ顔になれる粉」

A「…」

B「なりたいのでしょ、同じように」

A「…いりません。別に…、わたし、同じ顔になりたいわけじゃないんてす」

B「そうですか？そうなれれば、バスを待つ必要もなくなるかもしれないのに」

A「別にわたし、無表情な真っ白のひつじが楽だなんて思いません。そんな粉で嘘をつくなら、おおかみのままで充分です」

B「そうですか」

A「…あ、バス！バスが来た…！」

B「本当ですね」

A「あぁこれで…これでやっとねむれます。良かった…」

A「あれ、どうしたんですか？早く乗りましょうよ」

B「…残念ながら、ぼくが待っているのはもっと遠くまで行くバスなのです」

A「… そう、なんですね」

B「えぇ」

A「…では、お先にすみません」

B「いいえ、良い夢を」

A「あなたのバスもきっともうすぐ来ますよ！」

B「ありがとうございます」

A「では、さよなら」

B「えぇ、では、また」

B「…ねむるバス停…　ぼくのバスはいったいいつ来るのだろう。いつまで、こうしていればいいんだろう。寒い、寒い、寒い………」

……………

A「よく降りますね。これじゃあいつ来るか分かりませんよ」

B「…あぁ、…すぐに来ますよ。だからもう、ひつじを数えるのはやめればいいのに。そんなものいくら目で追っても意味はないのに」

A「あのひつじは、どこから来て どこへ行くのだろう」

B「さぁ、ぼくたちだって　どこから来てどこへ行くか分かったもんじゃない」

A「わたし、初めてここに来た気もするし、以前に来た気もするんです」

B「そうですか」

A「でも良かった。ひとりは心細いですから」

B「…」

A「あ！バス！バスが来た…！」

B「あぁ…　本当だ」

A「あぁこれで…これでやっとねむれます。良かった…」

B「…残念ながら　あなたのバスは、別のバスです。あなたはこのバスには乗れません」

A「… そう、なんですね」

B「えぇ」

A「おやすみなさい、良い夢を」

B「あなたも。あぁ、そうだ、これ、あなたにあげますよ。同じ顔になれる粉」

A「え？」

B「同じ顔は嘘ばかりなのでしょうか。同じように笑うのは、すべてが嘘ですか？」

A「…」

B「では、さようなら」

A「さよなら、ありがとう」

A「同じ顔になれる粉…」

A「…なんだ、ただのおしろいじゃない」

A「…あ、雪がやんだ」

A「…ねむるバス停…　わたしのバスもきっとすぐ来る」