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元エースの現在地

工藤選手は、駒澤が苦しい時代を支えたエースランナーだった。1年次の彼はそこまで期待されていたほうではなかったと思うが、駅伝シーズンから頭角を現し始める。高校時代はそこまで持ちタイムが上でなくても、大学1年生でポッと出てくる選手が駒澤には結構いるイメージがある。工藤選手もそんな選手だった。

2年以降は、大八木監督に期待を掛けられ、エースとしての階段を上ってゆく。箱根では2年連続で2区、さらにユニバーシアード銀メダル。学生長距離界のエースとして君臨していた。

しかし、4年次の駅伝シーズンはうまくいかず、最後の箱根でも7区でエントリーされたものの、途中から足に全く力が入っていない様子だったのを覚えている。あんなに強かった選手がこうなってしまうのか…。テレビ越しに受けた驚きは今でも覚えているくらいだ。

実業団に行ってからは、記事にあるように治療とリハビリの毎日。真面目な選手だからこそ、そのストレスはとても大きかったのだろう。昨シーズンはレースが軒並み中止になってしまい、せっかくここからだという時に、出鼻を挫かれてしまった格好だ。

自分は、この状況でむしろ練習する時間が確保できて走力が向上した(と思っている)が、走ることを仕事にする人にとってレースが無いことは、ここまで人間の心を蝕むのかと思わされる。外に出る気が起きない、今まで楽しかったことが楽しめないのは、確実にSOSのサインなので、ちゃんと病院に行って治療できたことはよかった。

現役は引退するが、これから社会人として、市民ランナーとしての彼の人生が待っている。苦しんだからこそ、苦しんだ人にしかできないことがきっとあると思う。日本陸上界の実業団制度は、こうなった時にちゃんと職がある状態だから、セーフティネットとしてよい仕組みだ。今の時代、プロとして自分で価値を作り出せる人もいるから、それは素晴らしいことだけれど、色々な道が用意されている、つまり多様性が認められている状態は望ましい。工藤選手のこれからの活躍に期待したい。


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