見出し画像

「燃えよ剣」は令和の時代に元祖「新撰組モノ」を蘇らせてくれた意欲作

俺は多摩の(只の?)バラガキだったよ

既に断髪し洋風の出立ちの土方(岡田准一)がこう語り出すシーンで物語は始まります。戊辰戦争も終盤、函館の最終決戦を目にこれまでの新撰組の軌跡を回想しているのでしょう...。

※バラガキ...茨のように尖っていて、触れたらこちらが大怪我をするようなクソガキという意味だそうだ。

舞う血飛沫、夜這い祭り、これが昭和の新撰組だ

正直な感想として「面白いけど、けっこうグロい。女の裸のシーンもあるし、全年齢で大丈夫なのかw」と思いました。

冒頭の夜這い祭り、いわゆる男女の出会いの場でもあった昔ながらの祭事に土方が参加するシーンや、芹沢による狼藉シーン、池田屋事件でこれでもかと舞う血飛沫や、切腹や芹沢粛清のように「グサッ、グサッ、お口から血がたらー....」、というシーンが割とありました。

これは子どもに見せるのはちょっと躊躇しそう(^ ^;)

こう思ってしまう原因として、おそらく私が思う「新撰組」とは「NHK大河ドラマ「新撰組」以降の作品、0年代以降の比較的マイルドな作品の事を指していたからではと推測します。

参考までに私のこれまでの新撰組遍歴

小説
黒龍の棺(北方謙三)

漫画
風の如く火の如く(島崎譲)
ちるらん(橋本エイジ)
あかね色の空(車田正美)
SIDOOH(士道)(高橋ツトム)

映像
大河ドラマ「新撰組」
「ゴールデンカムイ」の土方・永倉登場シーン

...などなど

あれ...、 山南さんてこういう人だったっけ...?

特に自分の中で衝撃的だったのは、新撰組副総長「山南敬助」の扱いです。この方は「北辰一刀流」という近藤たちとは違う流派の食客でして、本来が攘夷思想の持ち主であったため、近藤や土方たちとは徐々に相いれなくなっていくという役柄です。

最後は隊を脱走して(この変の理由は史実でもはっきりせず)、それが原因で捕らえられて(あるいは自発的に戻ってきて)切腹という最期から、新撰組を扱った作品では悪役や少し嫌な奴よりに描写されていました。昭和の昔は。(土方も「俺はアイツが大嫌いだった」と独白します。もうこの辺で個人的に衝撃w)

しかし、山南はNHK大河版で堺雅人さんが演じてから印象が大きく変わります。この辺は三谷幸喜氏の脚本のおかげもありますね。

漫画:「ちるらん」(橋本エイジ)ではインテリ気質で腕も立つ優男、小説:「黒龍の棺」(北方謙三)では、病でもはや長くないために自らの死を隊の規律を引き締めるために利用しようとする壮絶な最期が描かれます。

つまり山南さんは平成以降の作品ではそれほど嫌な奴として扱われていないのです(同じ北辰でも伊東甲子太郎とは違って)。

それが、本作「燃えよ剣」では土方の独白の中で「俺はアイツが大嫌いだった」ですからね。もうこの辺で個人的に衝撃でした 笑。

既視感のあるシーンや設定...、そうか「燃えよ剣」が元ネタだったのか

劇中に何度か「こういうシーンや設定は他の新撰組を扱った作品でも見かけた事があるな。」と思う事がありました。

しかしよくよく考えると、「燃えよ剣」が先で後世の作品が少しずつシーンや設定を拝借しているから、こういう感覚になるのですね。思い出せるだけでも、

・局中法度(「あかね色の空」などその他多数、もはや「幕末モノ」や「新撰組」モノにおけるフリー素材である)

・その「局中法度」にて触れられている”士道”とはなにか?と、料亭にて芹沢が近藤に問うシーン(「あかね色の空」)

・子供と遊ぶ沖田、沖田が子供好きという設定(「あかね色の空」)

・刀を地面と水平に構える「平突き」の構え。主演の岡田さんたちが劇中何度も鞘から「シュラっ」と抜いて構えるのですが、本当に格好良くて真似したくなりました(「るろうに剣心」の「牙突」の元ネタ)

・「亡くなった弟に似ているから」という理由でやたら沖田に御執心なちょっと怪しい芹沢さん(NHK大河ドラマ)

・額を割られる藤堂(「あかね色の空」)

・土方、沖田を中心とするストーリーの進行。「てっぺんに担いだ近藤さんを汚させないために、汚いことや冷酷な事は土方、沖田が主導して行う」という展開(「風の如く火の如く」)

やはり土方・沖田のコンビは王道であり鉄板か

この作品においても上に述べたように、土方、沖田が語り手や物語の中心となって話が進み、時に冷酷な事もあえて率先して行うような展開があります。というかもはや「土方・沖田」のコンビが良すぎて、二人が実質主演の感があります。

演じた岡田准一さんと山田涼介さんは現実でもジャニーズの先輩・後輩の間柄であり、殺陣や減量の指導も岡田さんが直にしたとか。そういう関係が演技にも良い意味で反映されているのかも知れません。

特に山田涼介さんの「沖田」はハマり役でしたね 笑。これぞ「沖田総士」という納得感がありました。

岡田准一さんは体捌きやアクションが良い。途中、意味も無い棒術のシーンもカッコ良かったです!

斎藤・永倉・原田の活躍は少なめ。え、久坂さん(長州)いたんですか!?

長編小説を2時間弱に圧縮した結果、展開が早すぎるというか飛ばし気味に感じる部分はありました。

予告編でも主要人物のように扱われていた「斎藤一」ですが、あまり出番は無かったです。これは「永倉新八」や「原田左之助」も同様。近年の作品(「るろ剣」の斎藤、「ちるらん」「ゴールデンカムイ」の永倉、「ちるらん」の左之助等)では源さん(井上源三郎)より目立つ彼らですが、今回ばかりは源さんに出番を譲りがちでした。

終盤の戊辰戦争中に誰かが隊を離脱すると言って少し言い争いになるのですが、これは永倉さんだったのか...。この離脱がきっかけで生き残るのだろうから、と推測。

むしろ斎藤・永倉・原田より藤堂平助の方が出番があり、印象にも残りました。池田屋でも額を割られたり、伊東ら御陵衛士に加わった時は土方たちに敵意を見せてましたからね。近年の作品における「ちょっと可哀想な奴なんだけど...」というような扱いもありませんでした。伊東・山南・藤堂という北辰一刀流組はこうして中盤ごろに姿を消します。

また、幕末の名のある志士たちがチョイ役のように現れては消えてくのですが、新撰組隊士意外ですと一回きりでフェードアウトしていく方達もいますからね...。とりあえずエンドクレジットに「久坂玄瑞」と書かれていてもどこにいたのか分からなかった。

これぞ令和の時代に蘇った元祖「新撰組」、時代を越えて受け継がれる「士道」

という訳で、勝手ながら映画「燃えよ剣」の感想を述べさせてまいりました。平成以降の「新撰組」に慣れ親しんでいると、カルチャーショックを受ける事もあるかも知れません。しかし、これが元祖「新撰組」かと、この先に俺たちの知っている数多の作品があるのかと思うと感慨深くなります。むしろ、平成以降の世相や作品に遠慮せず、昭和のケレン味やある意味毒のある作風をスクリーンにて表現してくれた事に感謝したいぐらいです。

いいなと思ったら応援しよう!