ルキオラと魔境の商館員(橋本花鳥/著)
魔物と人間が争い、奪い合う魔境。そこで魔物を相手に商談して取引を成立させ、こちらの希望のものを買い付ける「大魔境貿易」に入社した少女ルキオラの姿を描くコミックの第1巻です。
ルキオラは、魔物を切り裂く「銀の三爪」で戦ってきた「勇者」です。魔物と人間は相容れない、相手を倒すことでしか自分(の種族の権利)を守れないと信じて、戦いの先陣を切ってきました。
その彼女が、魔物と取引をする貿易会社の商館員ビルキス・ドラコと出会ったことで、戦わずに互いの要求を満たす道があると知り、商館員として魔境の平和を切り開こうと志します。
登場シーンが魔物のフン(高級肥料)から出てくるという、ヒロインにあるまじきスタート(笑)
最初は、魔物と取引するというビルキスに「そんなことできるわけがない」と反発しますが、実際に商談の場に立ち会って開眼するわけです。
貿易とは、相手(ときには敵対者)と交渉し、相手の欲するものとこちらの欲するものを突き合わせて交換するということ。お金はその仲立ちです。
「商談は血の流れない戦争だ」というビルキスの言葉が強く印象に残ります。
そして、商談相手=魔物に呼びかける言葉、「魔境の紳士よ!」。これ、交渉・貿易というものを端的に表してるなと思うんですよ。相手を尊重し敬意を払うという姿勢ですね。その上でこちらの要望を告げ相手の要求を聞く、折り合う点を探る。むろん、倫理観が同じ、少なくとも共通する部分があるという大前提があってですが。(そこを見誤ったがためにかつての大惨事があったのものと)
さて、ルキオラは商館員を志して採用試験に挑みますが、2年間就職浪人です(笑) 筆記が壊滅的に悪かったという彼女、しかしそれまで満足な教育を受けられなかったのではむべなるかな。3度目のチャレンジで実技にこぎつけ、晴れて商館の一員となりますが、課題は山積。でも彼女ならきっと乗り越えて行けると思えるし、応援したくなるキャラクターです。
そして脇を固める商館員たちも癖強な人ばかりで、あれ、だからタイトルが「ルキオラ『と』魔境の商館員」なのかなと思いました(笑) 私は経理のピオニー女史がお気に入りですよ。仰ることがいちいちごもっとも(笑)
先が楽しみな作品です。
(楽しみと言えば、同じ作者さまの「アルボスアニマ」はどうなってるのかなって気にしてるんですが)
漫画として文句なく楽しめるんですが、つい現実を顧みて、こんなふうに交渉ですべて解決できればいいのにって思ってしまいました。同族(人間同士)で殺し合う戦争をやめない人間界の指導者たちは、もっと漫画や小説を読むべきなんじゃないかしら。