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安らかに定まるリスク。

リスクテイクがちぐはぐな中流的人生設計。

 良い大学を出て、安定した職に就き、結婚して家庭を持ち、マイホームや自家用車をローンで購入。子どもが巣立ったら完済した住宅と、退職金+積立型生命保険の満期保険金+年金で老後を過ごす。

 ロスジェネ以前の世代が漠然と思い描き、ロスジェネ以降にも「こうあるべき」と無自覚に植え付けているであろう、いかにも中流的な安定した人生設計だが、金融リテラシーを身に付けると、これらがあまりにもバランスが悪過ぎるように感じてしまう。

 大卒至上主義社会故に良い大学を出た方が良いのは確かだが、奨学金という名の借金、すなわち教育ローンを借りてまで、本来なら大学に行かなくても良いような学力レベルの人たちが、経済的に無理してまでFランク大学を出ることが常態化している現状は不健全だと思う。

 年功序列、終身雇用が機能していた頃なら、多少無理してでも大卒枠のサラリーマンになる妙味があったのかも知れない。

 しかしインターネットであらゆる情報が可視化されたことで、優秀な人ほど割を食う年功序列制の日本企業よりも、実力主義の外資系や、独立起業に挑戦するようになり、ジョブ型雇用に変化する流れは今後も加速するだろう。

 若い時に安く使われても、晩年に報われると思いきや、経団連とトヨタが終身雇用のギブアップ宣言をしたことから、賃金に見合わない成果しか出せない中年以降の社員は、人員整理で真っ先に標的にされるだろう。それがなかったとしても、定年まで企業が存続していない可能性もあり得る。

 そんな定年まではおろか、10年先すら見通せない時代に、将来稼げるアテもなく平均288万円の教育ローンを組んで、大学を卒業してから10年以上の歳月をかけて返済できるのだろうか。余裕のない社会故に、私のように20代で潰れてしまうケースも決して決して珍しくないだろう。

 幸運に恵まれてパートナーを見つけても、生涯賃金が2億円そこらのため、夢のマイホームを買おうものなら、平気で生涯賃金の2割以上がなんだかんだ住宅関連で消える。

 投資はギャンブルだと言っておきながら、不動産もある種の投資のはずだが、プロパガンダのお陰で何故か別枠思考。数千万円単位のワンミスが命取りになる買い物を、営業マンに言われるがまま購入している。生命保険も投資ではないものの、同様の構図だ。

 保有資産の大半が現金。不動産とインフレ耐性のない貯蓄型保険を資産だと思い込んでは、子どもの教育資金や老後資金に悩まされ、一発逆転を夢見て期待値が50%に満たない宝くじを買う。

 ある程度の金融リテラシーを有していると、当事者はリスクを取っていないつもりかも知れないが、保有資産の偏りからして、結構なリスクテイクをしているように思う。それが顕著に現れるのが老後なのは想像に難くない。

大金持ちからは遠ざかる公務員。

 そんな中流的人生設計の極地が公務員なのかも知れないが、個人的に質素倹約に努めれば小金持ちくらいにはなれると思うが、大金持ちにはなれないように思う。

 公務員共働きパワーカップルが、定年時の退職金をこれまでの預金に加えれば、瞬間では億まで届くかも知れないが、およそ半世紀の時間と労力を掛けて2人で1億円が高価とは思えない。

 給与は大企業並み、究極の年功序列、役人バッシングから人員は減少傾向。業務量は変わらないか、むしろ増えているにも関わらずだ。既に国家は薄給激務のイメージが先行して、東大生の志願者が10年で半減している。

 政府がリスキリングやら何やらで、雇用の流動性を確保しようとしているが、直属の部下である官僚、役人は失業しない前提だから、雇用保険に加入しておらず、失業手当はおろか教育訓練給付などもなく、組織は閉鎖的に。

 学び直す機会もなければ、副業も法で禁じられているため、与えられた膨大な作業を淡々とこなすだけ。人口減少社会で予算も人員も減少しているから、縮小再生産の域を出ず、スキルも溜まらないから、潰しもきかず転職は歳を重ねるごとに難しくなる。

 これがメンバーシップ型雇用の成れの果てで、何も公務員だけでなく、古い体質を引き摺っている日系企業も似たような状況だろう。

 安定しているのは良いことのように思われがちだが、懸命に勤め上げたところで生涯賃金が2〜3億円と、決して大金持ちになれる額ではなく、しかもその大半が生活支出に消えていく。一度きりの人生を無難に生きて、最後に後悔しないだろうか。

安定すると身動きが取れなくなる。

 安定は安らかに定まると書く。私は安定を根を張る植物的な行為だと考えている。確かに平時なら雨風が吹いても耐えられるため、根を張った方が良い。しかし土砂崩れが起きたら?文字通り根こそぎにされる。

 リスクを取らないことが良いように思われがちだが、リスクを取らないことにもリスクは内包している。安定すると、その代償として身動きが取れなくなるからだ。

 時代が急激に変化した時に、置いていかれる可能性が高い。そして現代社会は目まぐるしく変化している。生成AIの誕生を予測できた人は居なかっただろうし、シンギュラリティも遠い未来の話ではないだろう。

 環境が急激に変化する昨今で、図体のデカい恐竜のような組織に、生殺与奪権を委ねて絶滅に怯える人生は味気ない。そんなことを思いながら早期退職に至り、晴れて失うものがない無敵の人となった私だが、この社会的に失うものが何一つない状態を、事件以外に利用できないか模索している最中である。


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