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金融政策で日本経済が復活する、わけがない


内需が死ぬ利上げor円安地獄の利下げ、究極の2択

 7月30〜31日に行われた、日銀の金融政策決定会合で、日経新聞のリーク通り、0.15%の利上げとなり、政策金利を年0.25%にすることを表明した。

 2022年から続いている円安とコストプッシュ型のインフレにより、実質賃金は2年以上連続で低下し続けており、リスクを取って投資をしていない国民の生活は苦しくなる一方。国民感情としても、この円安とインフレをどうにかしてくれ感が出ているのは間違いない。

 だからこそ、7月末の金融政策決定会合で、日銀がどのような方向性を示すのか、個人的には興味があった。と言うのも、利上げに踏み切ることで円安に一定程度の歯止めが掛かることが期待されるからだ。

 資源の乏しい日本では、物資は輸入に頼っている構造上、原材料費の高騰の大部分が円安による影響で、物価上昇ほど賃金が上がらないのは、値上げしたお金の大部分が外貨に消えているからに他ならない。

 今までの異次元金融緩和を礼賛する意図はないものの、かつて日本は1989年のバブル期の際に、焦って公定歩合を90年8月に6%まで引き上げ、急激な引き締めを行ったことが、バブル崩壊の引き金となった過去があり、それが、失われた10年、20年、30年と続いた歴史は抑えておくべきだろう。

 だからこそ、株式市場や不動産が、円安の影響で海外投資家に買い支えられる形で地合いが強くなっている現状に引っ張られて、国民生活と乖離した「賃金と物価の好循環」を謳い、利上げに踏み切るのは悪手だと感じてしまう。

 とはいえ、このままゼロ金利を続けたところで、対外的な日本円の価値が失われる一方で、利下げや据え置きをしても円安地獄が続き、ジリ貧となるのが関の山だろう。

 要するに、二進も三進も行かない状況の中、内需が死ぬ利上げか、円安地獄の利下げかを選ばなければならない、究極の2択を日銀総裁は迫られ、結果として前者の道を形式上選んだことになる。

利上げで年金生活者は助かり、借金漬けの若者は詰む

 これが何を意味するか。有利子負債を抱えている人にとって、利上げをすることで名目上の利払いが上昇することを意味する。

 日本は失われた30年で、主に就職氷河期世代以降の若年層を中心に、経済力で親世代を超えられない程度に貧しくなり、絶対的な購買力が低下している。

 マスメディアでは、これを若者の〇〇離れと面白おかしくネタにしているが、純粋にお金の掛かる家、車、恋愛、子どもが、普通に働いて得られる賃金では、満足に賄えなくなっている意味で贅沢品化しつつあり、高所得者にのみ与えられたオプション感が強い。

 そもそも新卒一括採用と、大卒至上主義が蔓延っていることから、取り敢えず奨学金という名の教育ローンを組んで、大学へ行く若者が半数以上を占める。学費の高騰や、親がロスジェネ以降で、十分な経済力がない影響も大いにあるだろう。

 そうして平均288万円の借金を背負い新社会人がスタート。大卒でも労働集約型産業なら初任給は安く、逆に国民負担率は高く、お前が終わってんだよwwと煽られる、14万円前後の可処分所得から、奨学金を返し、家賃、水道高熱通信費、食費と差し引いていったら、手元にお金が残る筈がない。

 これは若者が住宅ローンに留まらず、10万円超の買い物をする際は、ほぼ確実に借金をしなければ買えない構造を意味する。そうでなければ、車に留まらず、携帯電話でも残クレが流行ることはないだろう。

 つまり、日銀がしょぼい利上げを決めたことで、多少は円高方向となり、物価は気持ち下がって、預金利息も付くことで、年金生活者は助かるが、普通に生活すると、自ずと借金を抱えがちな構造となるロスジェネ以降の若い世代は、利払いの負担が増加して、経済的に詰む可能性が高くなり、徐々に内需が死んでいく。

金融教育と謳いながら、財テクに終始する体たらく

 中央値的な現役世代からすれば、利上げしたところで借金が膨らんで首が回らなくなるし、利下げしたところで、物価高に賃金が追いつかず首が回らなくなる。日銀がどちらを選んでも地獄というわけだ。

 どうしてこうなった…と思うかもしれないが、根本的な要因は、日本社会の構造により、国力が30年掛けてジリジリと横ばい若しくは低下していたツケが、戦争によるサプライチェーンの崩壊で表面化したに過ぎない。

 つまり、金融政策如きで日本経済が復活するなんてシナリオは絵空事であり、それくらいで経済が復活するなら、とうの昔に復活している意味で、この社会の病理は根深い。

 しかし今、政府が掲げている目玉政策が「貯蓄から投資へ」を謳う「資産所得倍増プラン」で、蓋を開けてみると金融教育と謳いながら、証券マンがセミナーでオルカンやS&P 500に投資しておきましょう的な、財テクに終始する体たらく。

 オルカン(中身の6割はアメ株)や、S&P 500に投資したところで、円安を加速させる上、海外企業が成長することに賭けているようなもので、これで日本の国力が高まる筈がない。現に新NISAによる積み立てで、毎月1兆円超の規模で円が売られている。

 日本の国力が増大するためには、いかに新しい産業を創出していく起業家や挑戦者を増やして、いかに成長産業に投資する枠組みを創るかが大切な筈だが、ライブドア事件やWinny事件で散々へし折ってきただけのことはあり、現実は国交相が国の基幹産業たる自動車会社に横槍を入れている体たらく。

 こんな茶番を繰り返している辺りから察するに、金融政策なんかでは、日本社会がどうこう変わる訳ではないらしいと、世間が国力低下の現実に気づくのは少し時間が掛かり、2030年代に差し掛かってからだと予想する。

 しかし、この頃には人口動態を見ても少子化のタイムリミットを過ぎており、相当なイノベーションでも起きない限り、生活インフラを維持するための働き手をかき集めるのに手一杯で、新しい産業を生み出すだけの余力が、この社会から失われている可能性が高いことは明らかで、控えめに記しても沈没船以外の言葉が思い浮かばない。


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