【2000字のドラマ①】肝試し《火照る体を、ホテルで冷やす》┃愛夢ラノベP《全自動人型ノベル作成ツール》
これは俺が大学1年生だった時の話だ。
地元の兵庫県には、六甲山という山があった。
そこは意外と田舎で、人は少なく、夜は暗い場所も多かった。
そんな山奥にある心霊スポット――皆が出ると言ってる場所。
「今度、俺と肝試しでもしないか?」
「おいおい、拓哉。呪われたら、どうするんだよ?」
「じゃ、あの子も呼べよ」
軽い気持ちで、俺は拓哉と肝試しをする事にしたが、やはり怖かった。そこで、幼馴染みの心愛(ここあ)に同行を求めた。
長い黒髪が綺麗な心愛は、霊感があるらしい。
もちろん、何度も断られたが、高級バッグをプレゼントする事で参加を承諾させた。
数日後、拓哉の運転で肝試しは決行された。
星。
星空。
星月夜。
星降る夜。
腰を振る夜。
無尽蔵の恒星。
スーパースター。
後世に残る綺羅星。
瞬くホーリーナイト。
男は女が欲しいナイト。
広大無辺のスターダスト。
今宵は、男女が攻勢に出る。
展望台で恋をするなんて論外。
遥か頭上に広がるギャラクシー。
頭の中には三日月へのジェラシー。
左手に見つめる真っ赤に瞬くマーズ。
右手に眺める青々としたマーキュリー。
――8月某日の深夜2時、静まり返った六甲山。後部座席の彼女は、もう降参。どうやら働く第六感、この後に起こる大誤算。
「ねぇ、やっぱり戻りたいわ。寒気がするもの」
「車のエアコンが効きすぎただけだ」
拓哉の運転で坂道を難なく登って、目的地に到着。
そこはホテル『ロッコー』。
神戸の夜景を一望できる場所だが、客の減少で潰れた。オーナーは一家心中をしたそうだ。
そんなホテルに着いた時、車がパンクした。走れぬ車はScrap、運転手すらGive up。
山奥のため、スマホも通じず、音信不通で普通に不穏。
すると、拓哉はスクワット。身体をすぐアップして、「電波の通じる所まで下山する」と立ち去った。
こうして心愛と二人きり、暇潰しにホテルへ足を踏み入れた。
もちろん、嫌だった。でも、誰かに呼ばれた気がした。
「ねぇ、止めた方が良いよ」
「大丈夫、俺が心愛を守る」
「でも、嫌な感じがする」
手を繋いでホテルに入る。ホテルには先客があり、硝子は割れ、物が散乱し、壁には落書きがあった――車はパンクし、壁には下手くそなパンクシー。
『スロコ、ラタミ』
「この落書き……すろこたらみって何だ?」
「……やっぱり帰ろうよ。嫌な予感がするわ」
「心愛は心配性だな。あっちは綺麗だぞ」
探索していると、壁の絵画が落下した。風の悪戯か、霊の悪ふざけか?
「キャッ!」と抱きつく心愛。
「おいおい」と抱き締める俺。
ゴーストにロックオンされれば好都合。だけど、心愛は恐怖症、暴れまわって手を負傷。生還する事が超重要、何が何でも逃げ帰ろう。
「ちょっと……何かした?」
「いや、俺じゃない。もしかして怪奇現象?」
心霊現象?
それとも自然現象?
口数は減少。検討も検証もする時間はなく、ただ健闘と奮闘をするだけ。
暫く歩くとホテルのラウンジ、探求心で突き進む。
俺たちは生活感があるエリアにやって来た。おそらくオーナーが住んでいた場所だ。
だが、妙に変なのだ。
一家心中をしたはずなのに、掃除がされていた。豪華な家具、壁掛けのツタンカーメン、食べかけのインスタントラーメン。
「変ね。誰か住んでいるのかしら?」
「いや、そんな筈はないだろ」
「ちょっと……置き手紙があるわ」
「たしかに、どれどれ?」
『押し入れを開けるな』
「押し入れって、アレの事だな」
「ちょっとダメよ。何かいる気配がするわ」
「霊感がある心愛に言われると怖くなる」
「絶対に開けないで!」
「いや、ここまで来たんだ。中を見たい」
「オーナーの死体があったら、どうするの?」
しがみつく心愛を無視して、俺は押し入れを開けた。俺は目を開け、心愛は口を開けた。
――7年後、夕食を食べ終えて、リビングで団欒。ソファには使い古されたCHANELのBag。
「夏になると、あの日の事を思い出すわ」
「あの日……もしかして心愛が俺に惚れた肝試しか?」
「バカ、あなたを見損なった肝試し」
あの日、俺たちはホテルで恐怖体験をした。押し入れには見てはならない光景があった。
アレから逃げるために、俺たちは廃墟の廊下を走り抜けた。腰も抜けた。
その時、壁の落書きの意味を知った。
『ミタラ、コロス』
「あれは怖かったよな。壁の落書き」
「あぁ、見たら殺す……でしょ。あの状況と相まって怖かったわ」
「でも、生還できて良かった」
「拓哉が戻っていて、車に逃げ込めたのよね」
「あの日から心愛と距離が近づいたんだよな」
「弱いあなたを守りたくなったの」
「でも、嘘は良くないぞ」
「嘘?」
「ほら、霊感はなかっただろ」
「あー、あれは子供の頃の話よ。そんな事をずっと覚えている方が変なのよ」
「おいおい、俺は心愛との出来事を忘れないぞ」
「あら……チュ!」
妻はキスをしてキッチンに向かった。
俺は心愛と結婚した。肝試しが2人を結びつけた。
あの日、俺たちは押し入れの中に隠れていたホームレスと遭遇した。彼は廃屋と化したホテルに住んでいた。そして、人が来ないように、心霊現象をでっち上げていた。
そう、俺たちは肝試しで肝を冷やしたが、それがきっかけで結婚した。
時より幽霊の声がする――もちろん「うらめしや」ではなく「うらやましぃや」と。