リサーチを組織に根付かせる【RESEARCH Conferenceプレイベント レポート】
デザインリサーチ、UXリサーチをテーマとした日本発のカンファレンス「RESEARCH Conference 2024」が5月18日に開催されました!
本記事ではその先駆けとして、4月19日に行われたプレイベント「RESEARCH Conference 2024 プレイベント 〜リサーチを組織に根付かせる〜」についての模様をお届けします。
ゴールドスポンサーとしてプレイベントの会場提供をしていただいたピクシブ株式会社のオフィスにて、株式会社NTTデータ Tangity・村岸 史隆さん、株式会社メルペイ UXリサーチャー・太田 茜さん、ピクシブ株式会社 UXリサーチャー・森田 洋介さんを迎えてLTやトークセッションを実施しました。
プレイベントでは、各社におけるリサーチを組織に根付かせるための事例紹介や、それらを加速させるためのヒントなど、組織とリサーチの融合を感じられるトークが展開しました。
【登壇者】(詳細プロフィールは記事末尾に掲載しています)
村岸 史隆 / 株式会社NTTデータ Tangity
太田 茜 / 株式会社メルペイ UXリサーチャー
森田 洋介 / ピクシブ株式会社 UXリサーチャー
これからの顧客体験分析はデータドリブンのアプローチとAIを駆使したサービス提供
前半パートでは、株式会社NTTデータ Tangity・村岸史隆様にご登壇いただきました。
NTTデータでは、2020年6月にサービスデザイン領域におけるデザイナー集団の新ブランド「Tangity(タンジティ)」が誕生。グローバルに拠点を持ち、各リージョンの金融機関、製造・流通業、官公庁をはじめとした幅広い顧客に寄り添う、多彩なデザイナーが在籍しています。
今回の登壇では、「ジャーニーマネジメントを起点とした顧客体験の向上とこれから」がテーマです。ある保険会社のリサーチのインプットを活用したカスタマージャーニーの運用と、そこから未来へ向けた取り組みについてご紹介いただきました。
”今の顧客体験分析”は顧客一人に対して関わる担当者が異なる場合が多く、縦割りかつ断続的な改善検討になっており、この分断された体験を紡いでシームレスなCXを実現することが重要。「顧客・ユーザーへの共感や定性的な手法だけでは難しく、顧客に寄り添うCX変革にはデータドリブンのアプローチとAIを駆使した顧客への最適なサービス提供が必要」と、村岸さん。データに基づいて顧客戦略を立て、カスタマージャーニーの設計・検証のサイクルを回すことで、より顧客に最適なタイミング・内容の訴求が可能になるのです。
そして、「顧客体験とビジネス効果をデータとデザインでしっかり実現していくことが重要」と、ある保険会社でのカスタマージャーニーの運用を事例に解説しました。
同社では、従来の商品と提供方法が大きく異なる事業モデルを展開したタイミングで、顧客体験をしっかり管理するようなチームを作ろうとCX改善チーム「CX推進部」が立ち上がりました。CX推進部は新商品の理想的な顧客体験を定義し、調査に基づいたユーザーの洞察と問題を他のチームに提供し、各チームの改善サイクルの構築を支援するのが役割です。そして、さまざまなリサーチを通じてホリスティックな全体のジャーニーを作り、それをアップデートしていくことが大事なポイントになりました。
仮説検証して情報を更新していったカスタマージャーニーマップを提示しながら「これを実際にやっていくのは非常に大変です。”これからの顧客体験分析”は、今までやってきたことをどれだけ自動化できるか」と村岸さん。ここで、「今日の本題です」と実際に使用しているAIを活用したエクスペリエンス マネジメントツール「Qualtrics XM(https://www.qualtrics.com/jp/)」と、カスタマージャーニーマネジメントツール「theydo(https://www.theydo.com/)」を紹介しました。
「これまで組織によってはリソースの問題でカスタマージャーニーのマネジメントが十分にできなかったこともあるでしょう。今回、ご紹介したようなツールを使用すれば、データ活用や分析の自動化、省力化をすることで、しっかり取り組めるようになる可能性も。その方法を我々が提供していきたいです。」と顧客体験分析を加速するヒントを与えてくださいました。
組織を超えて協働することで成果を最大化できる
次に、株式会社メルペイUXリサーチャー・太田 茜様にご登壇いただきました。「カスタマーサポートとUXリサーチの融合」がテーマです。同社のUXリサーチチームは、カスタマーサポート、データアナリストと協働で、各チームが持っているデータや観点を元にお客さま理解を深める合同共有会を定期開催しており、3つの組織が融合し相互に補完し合うことでプロダクト改善が実現した事例についてご紹介いただきました。
メルペイでは2022年12月より合同共有会を開始し、現在まで6回、開催するごとに参加者が増え、直近の開催では各組織から約30名の参加がありました。「それぞれが性質の異なるデータを持ち寄ってあらゆる切り口からお客さまの実態を知り、お客さまへの理解を深めることを目的としています」と、太田さん。
合同共有会を開始した経緯について、「カスタマーサポートとしてお客さまの声を調査・分析を担当していたころ、インサイトをうまく社内に共有できずプロダクト開発やサービス改善にお客さまの声をうまく反映できていないことにもどかしさを感じていたことがきっかけ」といいます。
実際に3つの組織で合同共有会が動き始めたのは、「メルカード」のリリースのタイミングです。合同共有会がプロダクトの改善に繋がった具体例として、利用規約への同意画面を複合的な観点を元に、シンプルな見た目でありながらお客さまが必要な情報にアクセスしやすい画面に改善したことを紹介。この施策により、カスタマーサポートへの問い合わせ数を増加させることなく、利用規約への同意画面の離脱率を改善できたそうです。「組織を横断して協働することで、それぞれの情報を共有して成果を最大化できました。今後も組織を超えたコラボレーションに挑戦していきたいです」と締めくくりました。
リサーチチームからイネーブルメントチームへ
続いて、ピクシブ株式会社 UXリサーチャー・森田 洋介様にご登壇いただきました。「興味関心と組織とリサーチ」がテーマです。リサーチ手法やプロセスに工夫を凝らすことに加えて、調査主体の興味関心に対しても目を向けるアプローチの重要性について、ピクシブの事例を交えてご紹介いただきました。
ピクシブのUXリサーチチームは2020年に誕生。立ち上げ当初は、リサーチャーの森田さんと兼任のマネージャー1名の小さなチームからスタートしています。リサーチャーの業務スコープというと「手段・ツール」に目が行きがちですが、「課題」や「興味関心」もスコープに含めて活動すべきなのではないかと考え、「リサーチだけでなく、こういった課題に向き合いたい、こんなことが知りたいといった相談の持っていき方をされた方が機能しやすいです」と開発チームにアナウンスしたそうです。
「ひとつのリサーチ手法で解決できることには限りがあります」と、森田さん。課題解決を重ねながら徐々にリサーチ手段を拡充させていくこと、さらに興味関心についても洗練させていく、この2つのループを回すことでリサーチが自然な形で組織に組み込まれていきました。
そしてリサーチチーム発足から1年、リサーチチームというラベリングを辞め、「イネーブルメントチーム」に変更。社内の複数ある開発チームがそれぞれリサーチをして、イネーブルメントチームのリサーチャーが支援をする体制にシフトしました。「興味関心の切り口は組織内に点在するので、そこに対してリサーチャーは専門家として寄り添っています」と、森田さん。リサーチチームの立ち上げ当初は、リサーチャー1名でしたが、現在は2名に増え、限られたリソースでリサーチ環境も整えてきているとのことです。
リサーチにはやってみないとわからない領域がある
最後は、会場の皆様からの質問を織り交ぜながら、ディスカッション形式で「リサーチを組織に根付かせるには?」のテーマでお話を伺いました。質疑応答の中から一部をご紹介します。
まずは「リサーチが組織に根付いたなあ」と感じた瞬間って?という質問に、「リサーチをみんなができる状態になると感じます」と答える村岸さん。
「私はデザイン組織を立ち上げる経験が多く、以前はリサーチャーがなかなかいない中で、UI・UXデザイナーがリサーチをすることがよくありました。今ではUI・UXデザイナーや情報設計をしている人などが、リサーチもやりたいです!と入ってくることで、それぞれのcapabilityが混じり合いながら、みんながリサーチをできる状態になっています。」と、すでに組織内でいろいろな人がリサーチをできる状態になっているのだそうです。
ピクシブの森田さんの場合は「前提として、リサーチをやろう!と目指しているというよりは、自然とリサーチっぽいことを社内のそこかしこでやっている状態が理想」とのことです。「私自身がもともとエンジニアとして働いている中ですでにリサーチをやってるなと気付いて、4、5年前からリサーチャーと名前を使い始めました」と、ご自身の実体験をお話いただきました。
組織にリサーチを根付かせる過程で、実際には理想と現実のギャップがあるはずです。そこで、「リサーチを組織に根付かせるために苦労したことは?」という質問に対しては、「カスタマーサポートはお客様から寄せられるVOC(Voic of Customer=顧客の声)を起点とした調査に対して、リサーチャーになってからはこちらから設問を設計していく必要があり、そこに対する難しさはあります」と答える太田さん。
横断したチーム作りをスムーズに進めるために工夫していることについて「合同共有会は、社内でも関心が高まっているテーマを取り上げています。参加メンバーも最前線で施策に関わっている人が多いので、すぐにアクションをとっていただくこともありました。また、そこで出てきたアイデアをバックログとして蓄積して、優先度を見ながら実現していただくようにしています」とのこと。ただし、合同共有会が終わった後に、アイデアをうまく成果に繋げるまでは追えていないのが現状だそうです。
次に「より組織に根付かせるためにこれからやりたいと思っていること」という質問に対して、「いろいろなリサーチができる機会をどんどん与えたいなと考えています」と答える村岸さん。
「体育会系みたいな話になっちゃいますが(笑)。リサーチは自分でやってみないと覚えていかない気がしています。知らない人からすると『話を聞くだけでしょう?』と言われることもありますが、そんなことないぞと。私たちは設計もするし、そこから得られたことを表に出そうとしている。でも、それは実際にやってみないと理解されないので、いろいろな機会を作っていきたいですね」
続いて「新たなコラボレーションの形にも挑戦していきたい」と答える太田さん。「私はカスタマーサポートのときにインタビューをやらせてもらったことがあります。やはり、直接話を聞くことで学びを得られることが多いなと感じたので、リサーチャーに限らず、いろいろな人がやれる環境は非常に大事だなと思いました。合同共有会という取り組みを紹介したように、コラボレーションすることでお互いにとっても学びがあると感じられました」
最後に「コストを下げることは絶対的ですね」と答える森田さんが、現在取り組んでいることを質問されると、「それこそ、気軽にリサーチできる方法を増やしていくことが大切だと思います。たとえば簡単にインタビューできるようにする、定量的なデータをすぐ見れるようにする、ツールを開発するなど......。これまでも挑戦していますし、これからもやっていきたいです」と登壇者のみなさんの前向きな意見が飛び交いました。
プレイベントは、YouTubeでアーカイブ視聴が可能です。ぜひご覧ください!
【登壇者プロフィール】
村岸 史隆
株式会社NTTデータ Tangity
Tangity Tokyoの責任者。アメリカでデザイナーとして勤務後、日本に帰国。外資系の事業会社、広告会社、出版社、デザインファームでプロダクト、サービス企画、デザイン組織立ち上げなどを実施。2020年にNTTデータに入社し、デザイナー集団「Tangity(タンジティ)」のデザイン責任者としてさまざまなプロジェクトの推進からデザインディレクションまで幅広く取り組んでいる。
太田 茜
株式会社メルペイ UXリサーチャー
2018年に株式会社メルペイのカスタマーサポートチーム立ち上げメンバーとして入社。お客様からの問い合わせ対応・サポート業務を経験した後、問い合わせとして寄せられたお客様の声「Voice of Customer(VoC)」の調査・分析に取り組み、社内でのVoC活用を推進。2024年3月にポジションチェンジし、UXリサーチャーとして活動を開始。
森田 洋介
ピクシブ株式会社 UXリサーチャー
2015年ピクシブ入社。エンジニアリングとUXリサーチの二足わらじで、ユーザーインタビューから行動分析・データ活用基盤の整備・ワークショップの設計およびファシリテーションなどを担当。他職種と連携しつつ、エンジニアリング・デザイン・ビジネスの各領域を包括する形での開発プロセスづくりを推進中。
🔍............................................................................................................
RESEARCH Conferenceの最新情報はTwitterにてお届けしますので、ぜひフォローしてくださいね!
それでは、次回のnoteもお楽しみに🔍
[編集]齋藤雄太・山里 啓一郎 [文章]小澤 志穂 [写真]リサーチカンファレンススタッフ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?