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示唆の深さ・多さの二兎を追うユーザーリサーチ文化を作った3つの取り組み【#ResearchConf 2024 レポート】

RESEARCH Conferenceは、リサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。

2024年のテーマは「ROOTS」です。リサーチを育む根を張る、そもそものリサーチの成り立ちや進化から学ぶ......そういった意味を込めています。小さく始めて広げてきたリサーチを、いかにして強く根付かせ、厳しい状況を乗り越え、新たな成長へと導けるでしょうか?

コネヒト株式会社から、『示唆の深さ・多さの二兎を追うユーザーリサーチ文化を作った3つの取り組み』と題し、「ママリ」アプリのプロダクトマネージャー吉岡 詩織さんよりお話しいただきました。

■登壇者


吉岡 詩織
コネヒト株式会社
プロダクトマネージャー

2018年に新卒で株式会社LIFULLに入社。不動産情報サイトのWebディレクションや、社内新規事業立ち上げ・撤退などを経験。2021年にコネヒト株式会社に入社。一貫して「ママリ」アプリのプロダクトマネージャーを担い、主にコミュニティグロースをミッションに持つ。定量・定性分析をもとにしたユーザー起点のプロダクト企画開発に注力している。

コネヒト株式会社は、「あなたの家族像が実現できる社会をつくる」をビジョンに、家族のライフイベントにおける意思決定をITの力でサポートする会社です。ママ向けQ&Aアプリ・情報サイト「ママリ」の運営や、自治体および企業向けの産休・育休取得支援、子育て包括支援事業(DX、EBPM等)を展開しています。

Apple Store「ママリ」スクリーンショット

今回は、2023年11月から半年ほどで大きく変わったコミュニティアプリ「ママリ」におけるユーザーリサーチの動きをご紹介いただきました。


ユーザーリサーチの改善にチームで取り組む

コネヒトにおいてユーザーリサーチに関わるメンバーはプロダクトマネージャーやデザイナー、エンジニアなど明確に役割が決まっているわけではありません。「それぞれの業務が溶け合いながらユーザーリサーチに取り組んでいる」と吉岡さんはいいます。

2023年11月頃までのママリにおけるユーザーリサーチは、2〜3ヶ月に1回ほどの頻度で、検証したい仮説がある時にオンラインインタビューを実施していました。

そんな中、プロダクトマネジメントコーチである森雄哉氏にプロダクトビジョンやプロダクト戦略について相談する機会があったそうです。

そこで吉岡さんはインタビューの頻度とやり方についてコメントを受けて、ハッとしたそうです。「当時はプロダクト主語のみで迷走状態になっており、ユーザー起点ではありませんでした。もっと探索的に多く深くユーザーのことを知っていきたいと思うようになりました」と吉岡さんは振り返りました。

当時のユーザーリサーチには3つの課題がありました。
そこで、課題解決に向けてプロダクトマネージャーとエンジニア、マーケターの3名で構成される「ユーザースタート実行委員会」というプロジェクトを社内で立ち上げ、それぞれに対して解決策を立ててアプローチし始めました。

課題解決に向けた3つの取り組み

①週1インタビュー(属人化運用から仕組み化へ)

まずユーザースタート実行委員会で取り組んだことは「週1インタビュー」です。

これまでのユーザーインタビューはママリのユーザーにアプリ内でインタビューの募集をかけ、リクルーティングから日程調整、同席者のアサインまでプロダクトマネージャーの吉岡さん1人で行っていたそうです。
リードタイムが長く数多く実施ができない課題感がありました。
それぞれのステップを自動化することで、リードタイムの短縮をしていきました。

具体的には、Timeeさんの事例を参考にして、アプリ上でユーザーがインタビュー日程を選択したら、予め決めたメンバーのカレンダーにインタビュー日程が登録され、社内のSlackに通知が配信されるようにしたそうです。

属人化運用から仕組み化を確立する過程でのポイントは、1人で抱え込まず、仕組み化を得意とするメンバーにお任せしたことだったと、吉岡さんは語りました

吉岡さんが現状のフローを全て書き出し、仕組み化を得意とするエンジニアと改善の余地を洗い出して、二人三脚で少しずつアップデートしていったそうです。

仕組み化への具体的なプロセスは「コネヒトテックブログ」でも紹介されていますので、興味のある方はぜひご覧ください。

これらを取り入れた結果として、工数が圧倒的に減ったことでリードタイムが短くなり、毎月複数回のユーザーインタビューを実施できるようになりました。
「リリースしたばかりの施策の検証も素早く行うことができるようになりました。これまでインタビューへの参加が難しかった他部署メンバーの同席も活性化したことで、今までにない視点を得ることができるなどの相乗効果があった」と吉岡さんはお話されました。

②お宅訪問(身近な人から小さく実験)

続いては「お宅訪問」への取り組みの紹介です。

この取り組みのポイントは、まずは子どものいる社員や友人のお宅訪問を行ったことだと吉岡さんは語りました。

もちろん、社員や友人はバイアスやターゲットの偏りがあるため、理想は実際のママリユーザーのお宅訪問の実施です。

しかし、いきなり実際のユーザーのお宅訪問は想像できないことも多く、時間や金銭コストもかかるため、実施までの動きが鈍くなります。

「そこでまずは身近な人からお宅訪問を実施し、どういうリスクがあるのか?どういう学びが得られるのか?を具体化することにした」と吉岡さんは振り返りました。

このようなプロセスを経て、現在は実際のママリユーザーへのお宅訪問も実施。
オンラインだけでは知ることのできなかった多くの情報が得られたのだそうです。
また、ママリのアプリ内でお宅訪問の募集をかけたところ予想以上の応募があり、インタビューを受けたママリユーザーも「家族以外の人と久しぶりに話せてリフレッシュになった」等、Win-Winの状態が築けたとお話されました。

オフラインでのインタビューを通して、オンラインでは見えてこなかったユーザーの実際の生活に近い実態(Ex.スマホが使えるタイミング)が分かるようになりました。
また、オンラインでは普段の生活に不安なことに偏りがちだった質問が、お宅訪問で赤ちゃんの動きや住宅環境・購入品などをフックにスクリプトにはない質問がどんどん生まれていったそうです。
プロダクトのペインだけでなく、ゲインや育児の幸せな瞬間にも触れられるようになりました。

ママリユーザーへのお宅訪問を通して、「自分たち自身のモチベーションも上がっていきました」と吉岡さんは振り返りました。

③インサイトひろば(リサーチ結果を全社で活かす)

最後は「インサイトひろば」についての紹介です。

インサイトひろばとは、ユーザーインタビュー / お宅訪問の内容のほか、アンケート結果 / 行動データを全社的に共有する週1回のオンラインMTGです。

当初は、各種リサーチ結果を全社共有するにあたって、プロダクト開発部門が興味があることが他部署の人も興味をもってもらえるのか不安だったそうです。
ですので、ユーザースタート実行委員会のメンバーの1人である営業出身のマーケターからビジネス視点でこまめなフィードバックを受けて、別部門にとってプラスになるトピックを決めていきました。
全社に対してもアンケートを実施し、ミーティングの内容を改善していったそうです。

「インサイトひろばによって、今まで議事録などドキュメントの展開のみだとなかなか生かされることのなかったユーザーインサイトが他部署に生かされるようになった」と吉岡さんは振り返りました。

示唆の多さと深さの二兎を追う

これら3つの取り組みを経て、現在のママリのユーザーリサーチは次のような形に変化しました。

まずインサイトを見つける点においては、週1回インタビューで示唆の多さを担保し、お宅訪問では実際の生活現場を知ることで示唆の深さを得られるようになりました。
ここから得られた情報をインサイト共有することで、自部門だけでなく全社的に施策に反映できる流れが確立されました。

「これらの取り組みを経ても課題はまだまだたくさんある」と吉岡さんは今後の課題として下記の3点を挙げられました。
・インタビューの質の底上げ
・ユーザーだけではなく、クライアントサイドの巻き込み
・アウトカムへ繋がりを見える化
これらを踏まえて今後もユーザーリサーチのアップデートに向けて前向きに取り組みたいと強調されました。

ユーザーリサーチの心理的ハードルを超えるために

半年前に社内で「ユーザースタート実行委員会」を立ち上げて3つの取り組みを実施し、ユーザーリサーチにおける課題解決に成功したプロダクトマネージャーの吉岡さん。

実は3つの取り組みを始める前は、
・ユーザーリサーチの事例の少なさや巻き込む人の多さ
・成果への繋がりの説明しずらさ
など、心理的なハードルを多く抱えていたのだそうです。

例えば、ユーザーリサーチの重要性やその認知度は高まってきているものの、お宅訪問のような具体的な取り組みについてはそこまで知られていません。
また社内外、特に実際のユーザーを巻き込んだ取り組みとなるため、さまざまなリスクが発生します。
さらにユーザーリサーチを強化したからといって、KPIなど目に見えた成果に繋がるというものではないため、業務的にパワーを割きづらいのが現状だと吉岡さんはいいます。

社内で自分の苦手分野を補ってくれる仲間を巻き込んで、小さな実験を積み重ねて、自分たちの活動を信じ続けたことで、心理的ハードルを超えていけるようになったと吉岡さんはお話されました。

一人で文化や仕組みを作り上げるのは非常に難しいことです。
そこで「ユーザースタート実行委員会」のように、自分の苦手を補える人を職種横断でどんどん巻き込んでいくことが重要だといいます。

またいきなりユーザーのお宅訪問をするのは時間・金銭的コストが高いものです。そこで社員や友人などに協力してもらい、小さく実験しつつ振り返りをして改善をして理想の状態に持っていくことができたのだそうです。

さらに「直接的に成果に繋がるものでなくてもやり続けることで、価値提供の確度を上げられると自分たちが信じ続けることが重要だ」と吉岡さんは締めくくりました。

ユーザーリサーチの新たな取り組みへの心理的ハードルを下げるヒントが得られるようなセッションとなりました。

本セッションではアーカイブ動画と資料を公開しております。

【動画】

【資料】

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[編集]十一智教 [文章]小澤 志穂   [写真] 霜田直人

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