Mercari USにおけるリサーチ組織の立ち上げ【#ResearchConf 2024 レポート】
RESEARCH Conferenceは、リサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。
2024年のテーマは「ROOTS」です。リサーチを育む根を張る、そもそものリサーチの成り立ちや進化から学ぶ......そういった意味を込めています。小さく始めて広げてきたリサーチを、いかにして強く根付かせ、厳しい状況を乗り越え、新たな成長へと導けるでしょうか?
米国で2014年に設立されたMercari USから、『Mercari USにおけるリサーチ組織の立ち上げ』と題し、Thea Leeさん、Tiffany Yangさんよりお話しいただきました。
Thea Lee
Mercari US
Senior Manager of UX Research
Thea earned her bachelor's degree from Harvard College, where she studied the History of Science and ran varsity Track and Field and Cross Country. She found her way to tech at a wearable health startup called WHOOP, where she built their first research team. In this role, she designed protocols to inform the development of WHOOP's first go-to-market wearable heart rate monitor. The heart rate data her team gathered was visualized by a UX design team, which is where she developed a love for UX. She transitioned to UX research at an edtech startup called RaiseMe, which developed a software platform that connects high school students with college scholarships. In 2020, Thea joined Mercari US as the first UX Researcher and, in the years since, has built the team to include three Senior UX researchers and a Lead Market Researcher.
Tiffany Yang
Mercari US
Senior UX Researcher
Tiffany earned a bachelor's degree in marketing at Emory University. After working in advertising, she pivoted into a UXR career at Home Depot, Best Buy, and Google Cloud. In 2021, Tiffany joined Mercari as the second UX Researcher and is currently a Senior UX Researcher. Tiffany has a YouTube channel @tifffster, where she shares about her life as a UX Researcher.
まずやったことは、リサーチャーの業務についてのプレゼンテーション
Mercari USで初めて専任のリサーチャーとしてThea Leeさんが採用されたのは2020年のこと。当時、Mercari USのメンバーは自分たちでリサーチを実施していたものの、専任のリサーチャーと直接仕事をした経験がほとんどなかったとのことです。
そこで、Theaさんがリサーチを組織に根付かせるためにまずやったことは、プロダクトマネージャーやデザイナー、エンジニア向けに「自分はリサーチャーとして何をしていくのか」をプレゼンテーションして示すことだったそう。たとえば、リサーチャーは毎日どういう仕事をしており、他職種とどのように協働できるのか。戦略的リサーチと戦術的リサーチ、質的・量的のリサーチなどの概念を解説したうえで、これから取り組むリサーチの手法を伝えたそうです。
さらに、最も重要なのは、リサーチがデザインプロセスのどこにフィットしていくのかを説明することだとTheaさんは語ります。ダブルダイヤモンドフレームワークを用いて、問題領域を探索している段階と、解決策がより明確になった段階、それぞれで行うリサーチについて説明したそうです。最後に、リサーチャーが作成する成果物と、それにかかる時間についての予想を持ってもらえるようにしたそうです。
以上を踏まえて、リサーチャーの業務がどのようなものかを理解してもらった上で、どこの問題から取り組んでいくのか決めていくために、デザイナーやプロダクトマネージャー、エンジニアなど各職種と個別インタビューを実施。今のMercari USの状況を理解することに努めたそうです。
Theaさんは、インタビューを実施する中で、なぜ人々が中古品を売らないのかという理由をより深く理解することが、まだ把握できていない重要なビジネス課題であることが明らかになったと語ります。
そこで、最初のリサーチを実施し、重要だと思われる洞察を集めて共有したものの、それ自体は明確なプロダクトのためのアクションを生み出すものではありませんでした。しかしそれ以前に、チームのほとんどが直接リサーチャーと働いた経験がなかったため、Theaさんはワークショップの形式でグループ全体でインサイトを一緒に検討することにしました。
ワークショップの中では、顧客インタビューのビデオを見直し、リサーチャーが考える重要なインサイトや発見について話し、参加者たちは、その中で得たこと、残された疑問、そして最終的にはそこから生まれたアイデアを書き出してもらったそう。こうして時間をかけて一緒にリサーチ結果について話し合うことは、ステークホルダーが顧客データの意味を理解し、プロダクトのためのアクションにつながるとTheaさんは語りました。
次に、リサーチのロードマップを作っていきます。TheaさんとTiffanyさんの2人は、プロダクトマネージャーに対して、OKRsに紐づく顧客に関して明らかにしたいことを教えてもらうように頼みました。そして、顧客を理解するために何を知るべきなのか、ゴールを達成するためにどのようなリスクがあるのか、何がリスクになるのかを考えていきます。
その結果、2人は非常に多くのリサーチクエスチョンを集めることができました。そして、再度ワークショップの場を設けて、プロダクトマネージャーとも話し合いを重ね、最終的にはその年に「私たちが答えなくてはいけないリサーチクエスチョンリスト」を作成したそうです。
ここで、重要なことはチームメンバーと「一緒に作る」ということです。なぜなら、全てのステークホルダーが「自分も参加したんだ」というような気持ちを持つことに加えて、何を優先すべきなのかを理解し、優先順位に沿って仕事をしていけるようになるからと語りました。
以上のように、Mercari USでは専任リサーチャーが入社した際には「リサーチャーは何をするのか」を説明し、他のメンバーにリサーチャーが入ることでどのような変化が生まれるのか理解を促し、ステークホルダーと話をすることで、リサーチクエスチョンの優先順位づけを実施、ロードマップを作成し、最終的にはチームと一緒になって仕事をしていく流れを作っていったのです。
リサーチャーを増員して体制を強化
続いて、Mercari USに2021年に入社したTiffanyさんのプレゼンです。
この数年間でMercari USのリサーチャーは、TheaさんとTiffanyさんの2人から4人に増員。人数が増えたことで、より多くのプロダクトチームと仕事ができるようになり、成熟度に合わせて臨機応変にサポートをしてきたそうです。
入社当初、Tiffanyさんは基本的なドキュメントがUXチームにあまり揃っていないことに気付きました。そこで、end-to-endのジャーニーのためにさまざまな調査を実施。その中には、 ダイアリー・スタディも含まれていました。
これらの調査で集めた情報は、プロダクトマネージャーがプロダクトの機会やアイデアを考える際に使われるほか、マーケティングやエンジニアのチームに新しいメンバーが入った際に顧客を知るためにも役立ち、数年間かけてこのように知識ベースの情報を集めていき、年ベースでアップデートし続けてきたのです。
このように基礎的な情報についてより可視化を進める中で、顧客に関するリクエストをより多く受けるようになったとのこと。その中で、TheaさんとTiffanyさんの2人ではリクエストに対応仕切れなったことで、リサーチャーを2人から4人に増員。各プロダクトにリサーチャー1名を配置するようにしたそうです。
リサーチャーを増員してわかったのは、それぞれのリサーチャーが異なるフォーマットを使っていたことだと語ります。そこで、プロジェクトのテンプレートに一貫性を持たせるようにし、ステークホルダーでも簡単に見えるように変更したそうです。
さらに、内部のリサーチパネルを開発。アプリ内でリサーチパネルに参加を希望するユーザーの背景情報を収集する機能を設置した結果、リクルーティングにかかる時間が大幅に短縮できたとのことです。
チームが成長していく中で、ユーザー体験の変化をより包括的に計測する必要が生じたそう。そこで、UXベンチマークプログラムを2023年9月に開始し、ユーザビリティや満足度などを追跡しながら分析しているとのことです。
Tiffanyさんはこういった数値は価値があり、数値やフィードバックを分析し、常にユーザーの意見に耳を傾けるようにしたと語ります。
そして、幅広いチームにUXリサーチの価値を理解してもらえるようになってくると、様々な相談をもらうようになったそうです。たとえば、UXのコンテンツチームと情報階層の評価を行い、初めてのユーザーがナビゲーションに苦労していることがわかりました。そこからデータをステークホルダーに示して、最終的にプロダクトロードマップに反映したとのことでした。
最後に、Theaさんは、学ぶことを業務で重視していると語り「チームとしてレビューを行うことを非常に重視しており、勤務時間中にも時間を割いている」と付け加えました。そして「学び続ける中で記事やポッドキャストなどあらゆるものから新しい情報を得るようにしている」と登壇を締めくくりました。
【Q&Aセッション】
最後に、視聴者からいただいたQ&Aに1つ答えていただきました。
Q.インサイトに触れてない方とワークショップしたりロードマップを作ったりしているそうですが、ただでさえ忙しいステークホルダーを巻き込むためにはどうしたらよいのでしょうか?
Theaさん:いい質問ありがとうございます。数年前、私たちのチームは小さかったため、プロダクトマネージャーも入っており、チームの人数は多くても15人までと決めていました。しかし、私たちのチームが大きくなってきて、ロードマップを作ろうとなったとき、誰がコアとなるステークホルダーかわかれば、その方の予定でワークショップを開催してロードマップを作るようにしていました。
RESEARCH Conference2024のテーマは「ROOTS」。専任リサーチャー1名から4名と増員し、UXチームが拡大する中で組織にリサーチを根付かせるためのヒントと、この先の未来が見えてくるようなセッションとなりました。
本セッションではアーカイブ動画を公開しております。
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[編集]山里 啓一郎 [文章]小澤 志穂 [写真] リサーチカンファレンススタッフ