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高齢女子受刑者がシルバーカーにつかまり移動~女子刑務所が抱える深刻な問題

割引あり

「刑務所は社会を映す鏡」と言われます。社会での様々な問題やひずみは刑務所の中に現れます。女子刑務所の現状を見ていくことで日本の女性に係わる問題も見えてきます。女子刑務所長の経験もある元法務省矯正局長の大橋哲(おおはしさとる)さんが解説します。

全国に女子刑務所は9か所

 日本全国に女子受刑者を主に収容する刑務所は、2024年9月現在、9か所あります(札幌刑務支所、福島刑務支所、栃木刑務所、笠松刑務所、豊橋刑務支所、和歌山刑務所、岩国刑務所、西条刑務支所、麓刑務所)。そのほかに、男子受刑者と女子受刑者の双方を収容している施設があります(東日本成人矯正医療センター、西日本成人矯正医療センター、北九州医療刑務所、喜連川社会復帰促進センター、美祢社会復帰支援センター、加古川刑務所、松本少年刑務所)。
 (注:分かりやすくするために、「女子刑務所」という用語を使用してます。しかしながら、「女子刑務所」は正式名称ではありません。よくテレビドラマや映画で「〇〇女子刑務所」という看板がかかっているシーンがありますが、実際の刑務所は、「女子刑務所」という名称は使用していません。)

女子受刑者数は急激に上昇、その後減少へ

女子受刑者数は1994年ごろから急激に上昇

 1991年ごろにバブル経済が崩壊し、景気が低迷期に入り、窃盗などの犯罪が増加したことから、数年のタイムラグを経て、全国の刑務所は定員を超えて受刑者を収容する過剰収容時代に突入しました。我が国の女子受刑者数も1994年ごろから急激に増加しました。法務省の矯正統計年報によれば、女子受刑者の一日平均収容人員は、2007年に4,500人を超えました。栃木刑務所、和歌山刑務所、岩国刑務所、麓刑務所の各刑務所では収容率(収容人員の収容定員に対する割合)が120%から130%となっており、厳しい過剰収容状態となっていました。その後も収容人員は高止まり状態になり、4,500人から4,600人台で推移していました。

女子刑務所の収容場所を急ピッチで増やす

 女子刑務所の過剰収容対策が急務とされ、女子刑務所の収容場所の増加が図られていきました。2005年に福島刑務所に女子刑務所として福島刑務支所を新設、2006年に女子刑務所である札幌刑務所の札幌刑務支所を改築し、定員を増加しました。2007年から、官民協働の施設として建設された美祢社会復帰促進センターが男子と女子の収容を開始し、2011年には同センターの女子受刑者の定員を増加しました。
 さらに、2012年に加古川刑務所に女子受刑者を収容する区域を新たに建築し、2014年には男子の収容施設であった松山刑務所の西条刑務支所を女子刑務所に転用、2017年には名古屋刑務所の豊橋刑務支所を女子刑務所に転用しました。
 これらにより、女子刑務所の収容場所の拡大が急ピッチで進みました。

女子受刑者数は2013年ごろから徐々に減少

 高止まりしていた女子受刑者の一日平均収容人員は、2013年に4,500人を切り、徐々に減少に転じました。2017年には4,000人を切り、全国の女子刑務所の過剰収容状態は解消され、2023年には3,029人となっています。

受刑者全体に対する女子受刑者の比率は上昇

女子受刑者数は減少するものの受刑者全体に対する女子受刑者の比率は上昇

 矯正統計年報で、受刑者全体に対する女子受刑者の割合を見てみると、2006年では、男子受刑者の一日平均収容人員は65,052人のところ、女子受刑者は4,249人で、受刑者全体に占める女子受刑者の割合は、6.1%でした。2023年では、男子受刑者の一日平均収容人員は31,750人のところ、女子受刑者は3,029人で、受刑者全体に占める女子受刑者の割合は8.7%となっています。
 これは、男子受刑者も女子受刑者も受刑者数は減少していますが、男子受刑者に比べて女子受刑者の減少の割合が少ないため、全体に占める女子受刑者の割合が高くなっていることを示しています。

ヨーロッパの先進国と比較して高い女子受刑者の割合

 ロンドン大学のICPR(Institute for Crime and Justice Policy Research)によるWorld Prison Brief を見ると、女子受刑者の割合は、フランスが4.7%(2024年7月1日)、ドイツが5.9%(2023年1月31日)、英国(イングランド、ウェールズ)が4.1%(2024年8月30日)となっており、これらに比べて日本の女子受刑者の割合はかなり高くなっています。

高齢化する女子刑務所

女子受刑者の2割以上が65歳以上

 矯正統計年報によれば、10年前に比べて女子受刑者の全体の数は減少していますが、高齢者層の女子受刑者数の減少の割合は、50歳未満の女子受刑者数の減少の割合よりも少なくなっており、全体として高齢化の現象が見られます。
 2023年末では、女子受刑者のうち21.4%が65歳以上となっています。今の日本の状況から見て、65歳以上を高齢と呼ぶかどうかは議論があるかもしれませんが、75歳以上も10.2%となっており、1割を超しています。
 日本全体が高齢化している中で受刑者も高齢化していることは自然ではないかと思われるかもしれませんが、男子受刑者では65歳以上は14.3%、75歳以上が4.8%となっており、男子と比較すれば、女子受刑者の高齢化が進んでいることは明らかです。

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