私のことは「障害者」と書いてほしい
いつもnoteを読んでいただいて、ありがとうございます。注意欠如多動性障害(ADHD)・精神障害者手帳2級で博士(生命科学)のred_dash です。今日は珍しく、時間に余裕をもって投稿できています。休暇を通じて生まれる心の余裕って大事ですねぇ。
小田嶋隆さんの超・反知性主義入門の一節「人権はフルスペックで当たり前」を読みました。少し古い話ですが、2013年5月に乙武洋匡さんが銀座のイタリアンレストランで入店拒否を受けた件をきっかけとして、「障害者」という言葉を「障碍者」とか「障がい者」と書くことについて論じています。
この評論を読んで、私自身を「障害者」として表現し、書き出し、また認知してほしいと考えていることに気が付きました。障害の当事者として、「障碍者」とか「障がい者」とかじゃなくて、「障害者」がいい。
この手の論争は手垢が付き尽くした話ではあるのですが、今一度、私自身の手で論じたいと思います。なぜ私は「障害者」として認知されることを求めるのでしょうか。理由は単純で、障害に起因して困っているからです。私と社会の間の誰かの間にある困りごと=障害を、「障碍」や「障がい」といった言葉であいまいにしないで欲しいのです。
私は時に、私以外の誰かとの間でコミュニケーションが円滑にいかない場合があります。私が話しすぎてしまう場合がありますし、うまく間を取れないこともあります。この困難は「私が障害者だから」生じるものではなく、「私と私以外の誰かとの間」に生じるものです。このような考え方を障害の社会モデルといいます。私と私以外の誰かの間で困りごとが生じる可能性が健常者の間で生じる可能性より高いことを否定してはならないと、私は考えます。
障害を困難として認めてほしい。そして障害とは当事者とそれ以外の人の間に生じるものと認知してほしい。この主張は「障害」の厄介さを際立たせます。障害者と関わる人に、結果的に負担を背負わせ得るものです。障害者を受け入れることは大変です。少なくとも、私が周囲との付き合いにおいて相手に一定の負担をもたらす傾向があることは、妻を見ていてもわかります。もちろん、人と付き合うことは負担を互いに背負いあうことです。そのうえで、私は特に多くの負担を背負わせてしまっている傾向にあるのではないかと心配しています。
一部のタクシー会社では、障害者割引は運転手負担だそうです。この例のように、私のような障害者は周囲の人に苦労を掛けるな、と感じています。だから、障害者が「障害者」にしてほしい、受け入れて欲しいと訴えても、受け入れてもらうことは容易ではないでしょう。
それでも障害当事者として私は、「障害者」は「障害者」として書いてほしい。そう伝えてたいと思います。負担をかけることは承知だし、困難を解消するために今の私ができることは十分に努力して探っていきたい。そのうえで、しかし、健常者の人をはじめとする周囲が理解を示してくれれば嬉しい。そのメッセージはやはり、出し続ける必要はあるだろうと思うのです。
最後に、障害者を「無能」「配慮なんか必要ない」と扱う人について書いておきます。若いですね。私も、まだまだ若造ですが。
「何か特定のことができる能力」だけを価値と評し、「特定のことができない能力」を無価値と評してしまった経験が私にはあります。言葉にせずとも、態度に出てしまっていただろうと感じています。今、私は恥じています。
誰もが年を取り、衰えます。時には障害が見つかります。過去に得た能力を失います。自分が能力を失った時、その人は自分自身を「無能」「配慮なんか必要ない」と評するのでしょうか。昔の自分の配慮のなさが、時を経て自分に突き刺さると心が痛いですよ。
ましてや障害者を無能と扱う人が、うっかり事故やなにかで障害者になってしまったら、その人の心はどうなるのでしょうか。私は心配で夜もぐっすり眠れます。
それでは、素敵な1日をお過ごしください。よいお年を。
red_dash
※余談1: 株式会社ミライロが「障害者」の記述について、私と同様の意見を異なる理由に基づいて説明しています。以下に引用します。
株式会社ミライロでは「障害者」と表記しています。「障がい者」と表記すると、視覚障害のある方が利用するスクリーン・リーダー(コンピュータの画面読み上げソフトウェア)では「さわりがいしゃ」と読み上げられてしまう場合があるためです。「障害は人ではなく環境にある」という考えのもと、漢字の表記のみにとらわれず、社会における「障害」と向き合っていくことを目指します。
ミライロID - 人と企業をつなぐ、障害者手帳アプリ
https://mirairo-id.jp/
※余談2: 乙武洋匡さんの主張はこちら。
「障害」を「障がい」と表記しておけばいいだろうという安直さにドロップキック。|乙武 洋匡|note
https://note.com/h_ototake/n/n374c999c3693
※余談3: タクシー会社における障害者割引の運転手個人による負担はどの程度広まっているのでしょうか。実際のデータが気になるところです。
参考
【衝撃】タクシーの障がい者割引制度は、乗務員が負担する会社もあるようで…体験者から寄せられる実態に「気の毒すぎる」と驚愕してしまう | citrus(シトラス)
https://citrus-net.jp/article/90774
タクシーの障害者割引はドライバー負担だった - Togetter
https://togetter.com/li/1463799
ミライロID - 人と企業をつなぐ、障害者手帳アプリ
https://mirairo-id.jp/
「障害」を「障がい」と表記しておけばいいだろうという安直さにドロップキック。|乙武 洋匡|note
https://note.com/h_ototake/n/n374c999c3693