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暑さ対策

■ はじめに

夏の暑さ対策についてのお話をしようと思います。

以前に寒さ対策のお話で開口部についてお話しました。
もちろん断熱のお話ですので、
寒さ対策は暑さ対策にも同じように有効です。

ですので、今回は開口部以外の部分のお話です。

その前に夏の暑さと言えば、熱中症ですよね。

■ 熱中症

熱中症って屋外で激しい運動をしていて起こるって思っていませんか?
実は、住宅が最も多くて全体の39.4% 18,882人です。
これは令和3年5月~9月の数字で、その年により人数にバラツキはありますが、
割合は概ね変わらないですね。

(総務省消防庁WEBサイト:令和3年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況より)


また、年齢別にみてみると65歳以上の高齢者が全体の56.3% 26,942人です。

(総務省消防庁WEBサイト:令和3年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況より)

単純に考えると高齢者が住宅で熱中症を発症しているケースが高いってことになります。

■ 暑さ対策

熱中症の事を考えると、住宅の暑さ対策の重要性が分かりますよね。

では、暑さ対策って何をすればいいのか?

まずは、部屋を冷房で冷やす。
って事なんですが、冷房…効きますか?

最近の暑さは異常で、30℃以上は当たり前、
35℃とか平気でいっちゃいます。

ここ10年くらいでしっかり建てたお住まいなら、
冷房を付ければ、すぐに28℃くらいまでは冷えてくれます。

でも築30年、40年以上経っているお住まいはどうですか?
冷房効いてますか?

最新のエアコンに買い換えたのに全然冷えないよ!って方いませんか?

それ、エアコンの性能の問題じゃないですよ。

あなたのお住まいの「断熱性能」の問題です。

ということで、本題の断熱の話をしていこうと思うのですが、
その前に「遮熱」について触れておこうと思います。

■ 「遮熱」って「断熱」と同じこと?

冬の話ではなかなか出てこないんですが、
夏の話の中では、「断熱」ともう一つ「遮熱」って言葉がよくでてきます。

外壁にも使われたりもしますが、
特に屋根の話の中で「遮熱」って言葉がよくでてくると思います。

>> 遮熱塗料

既存の屋根がスレート(カラーベストなど)葺きや金属屋根(ガルバリウム鋼板など)葺きの場合のリフォーム・メンテナンス方法として、屋根を塗装するという選択肢があります。
その時に使用する塗料に【遮熱塗料】があります。

関西ペイントのアレスクールやエスケー化研のクールタイトなどです。

これは、高日射反射率塗料っていうんですが、下塗り、中塗り、上塗りすべてに遮熱効果があり、施工前に比べると表面温度で15℃程度、室内温度で5℃程度の温度低減効果が確認できています。
ただし、実は色によって反射率が変わります。
白っぽい色ですと80%以上の反射率なんですが、黒っぽい色だと40~50%の反射率になるので、何色を塗るのかっていうのは結構重要になってきます。

>> 遮熱仕上材

屋根の材料で遮熱性能を付加しているモノがあります。

例えば、ケミューの遮熱グラッサやアイジー工業のスーパーガルテクトがあります。
屋根材の表面を遮熱塗料などでコーティングしている商材です。

リフォームでは屋根の葺き替えの際に使用します。
もちろん遮熱仕様でない材料に比べると少し値段は貼りますが、あとから塗装するよりはお得ですので、葺き替えの際には検討してみましょう。

と、「遮熱」の材料の話をしてきました。

遮熱とは、日射を吸収しないように反射することです。

ですので、基本的に夏に熱の侵入を防ぐ効果があります。

すると、ここで一つの疑問が生まれませんか?
逆に冬は寒くなるんじゃないの?

結論から言うと、それ、あまり心配しなくて大丈夫です。

簡単に言うと太陽の角度の問題です。
夏至の時の太陽は約78°、冬至の時の太陽は約31°
夏は太陽が真上からあたる感じですが、
冬は太陽が横からあたる感じなので、屋根よりは外壁の問題で
屋根の遮熱はあまり影響ないって事です。

(夏至と冬至の太陽の角度)

ですので、
外壁を遮熱塗装する場合は注意が必要です。
個人的には外壁の遮熱塗装は推奨していません。

遮熱の話をしてきましたが、
ここでもう一つ注意が必要です。

遮熱には、断熱のように保温する効果は全くありません。

冷房で冷やした空気は遮熱ではその状態を維持することはできないということです。

■ やっぱり「断熱」が重要!

夏の暑さ対策には「遮熱」と「断熱」の両方が必要です。
もちろん、「遮熱」だけ や、「断熱」だけでも効果がないわけではありません。
何もしていない状態よりは、断然いい状態になりますが、
せっかくするなら、より効果的にって事です。

ということで、次は「断熱」について話していきましょう。

「遮熱」は、屋根材の表面に施工します。
では、「断熱」はどこに施工するのでしょうか?

いくつかのパターンがありますので、順番にお話していきましょう。

まずは、先程お話していた「遮熱」の延長から、
アイジー工業のガルテクトという屋根材を紹介しましたが、
実はこの商品本体に断熱材が仕込まれています。

使われている断熱材はポリイソシアヌレートフォームです。
あまり聞かない名前ですが、大きなくくりでいうと硬質ウレタンフォームです。
難燃性の高い硬質ウレタンフォームって感じです。
一番厚い部分で16㎜程度で、一番薄い部分で7㎜程度です。
一応、薄い部分は次の屋根材の始まり部分とかぶってはいます。
屋根を葺き替えるだけで、「遮熱」も「断熱」も付いてくるっていうのは、
なんとなくお得な感じがします。


    

(アイジー工業WEBサイト:ガルテクト本体断面図より転載)


ただし、正直この断熱材は建物本体を断熱してくれるわけではないので、
簡単に外壁でいうと、外壁に断熱材を立てかけているような感じです。
室内の空気を保温してくれるわけではありません。

どちらかというと、遮熱しきれなかった熱を断熱材で屋根の中に伝えるのを緩和してくれるための断熱材です。
ですので、これから話していく「断熱」の話とはちょっと違うのかなぁと思います。

では、まず従来からある天井断熱の話から始めましょう。

■ 天井断熱

おそらく在来木造住宅の最も多く施工されている断熱方法が天井断熱です。
天井の野縁組の上のグラスウールがのっかってるヤツです。
なかなか見ることはないかもしれませんが、
押入れの天井などに点検口がある場合、そこから屋根裏を覗き込むと敷き詰めてるのが見えたりします。

ただし、昭和55年以前の無断熱時代の建物や、それ以降平成4年までの旧省エネ基準時代などは、何にも断熱材が入っていない事もあります。
また、その時代は断熱材が入っていても今の製品からすれば質の低い30㎜から50㎜程度のグラスウールが乱雑に並べられ、時にはイタチやネズミの住処になりぐちゃぐちゃの糞まみれなんてことも決して珍しい話ではありません。

そういう場合は、衛生上もあまりよくない状態ですので、
一度断熱材を撤去してしまうのがいいでしょう。

その上で、比較的安価に改修するのであれば、
小屋裏に入って再度断熱材を敷き込むのがおすすめです。
ただし、この施工方法の場合は端の方など細かい部分は手が届かない場合があります。
屋根の形状や勾配にもよりますが、9割以上は敷き込めるでしょうから、
天井の改修を考えていない場合はこの方法も一つです。

この場合、使用する断熱材は、グラスウールやロックルールの防湿フィルムが一体になっているモノが主流になります。

ここから少しややこしい話になります。

断熱材は素材と密度により熱伝導率が変わり、それに厚みが加わって性能が決まります。
断熱材は、いかに熱を伝えないかが重要です。
これを熱抵抗値(R値)と言います。
この熱抵抗値(R値)は、断熱材の厚さ(m)を熱伝導率で割ったものになりますので、
断熱材の厚さが分厚いほど、そして熱伝導率が低いほど、熱を伝えにくくします。

昭和55年の旧省エネ基準で考えてみましょう。
昔よく使われていたグラスウールの10Kというものがあります。
熱伝導率は0.050w/mkです。
その厚さが40㎜程度のモノ(0.04m)がよく使われていました。
ではこのグラスウールの熱抵抗値(R値)は

0.05m ÷ 0.040w/mk = 0.8㎡k/w となります。

こんな数字を言われても全くピンときませんよね。

もう一つ参考値を出します。

平成28年省エネ基準には仕様基準による断熱材の熱抵抗値基準が定められています。
この基準値は、地域によって変わってくるのですが、
大阪のこのあたりは地域区分でいう5地域か6地域となりますので、
天井断熱の場合の熱抵抗値基準は「4.0㎡k/w」以上となっています。

今、新築で家を建てた時の最低基準の1/5程度ということが分かります。

でも、これってどれだけの断熱材を設置したから、何℃変わったとかって表現が難しい。
また、それを実感するというのもこれまたそれ以上に難しい。
だから、断熱材の重要性や必要性って伝わりにくいんです。

もう、上の数値から断熱が足りてないって事を理解してもらうしか…。
でも、夏暑くて、冬寒いのは実感してますよね?

まぁ、ここで細かい数値は別に理解してもらわなくても問題ありません。
要は性能のいい断熱材をより分厚くすればいいって事なんです。
ただ、やればやるほどお金も高くなっていきますので、
どのあたりで折り合いをつけるのか?
それが、現行最低基準であるレベルにするのか、
それともそこまでは望まないのか、
現行基準をはるかに凌ぐレベルまで持っていくのか。

旧省エネ基準や新省エネ基準、次世代省エネ基準って新ってついてるクセに最新の基準じゃなかったりして分かりにくいので、ちょっと言い方を変えますね。

旧省エネ基準を断熱等級2
新性根基準を断熱等級3
次世代省エネ基準を断熱等級4

そう、呼び方を替えます。
ちょっと、次世代省エネ基準と平成28年基準の違いに触れてませんが、もっとややこしくなるので、とりあえず現行最低基準が断熱等級4と考えてもらって結構です。
上位基準にZEHやG1,G2といった基準もあるんですが、もうなんのことだか分からなくなるし、ころころ変わっていくので、とりあえず無視しますね。

ってことで、
リフォームの場合、とりあえず等級3にしますか?等級4にしますか?
みたいな感じで考えてもらえればOKです。

天井断熱のお話ですので、
断熱等級3レベルで施工するのであれば、
旭ファイバーグラスのアクリアマット高性能10Kの厚さ90㎜を敷き込む仕様です。
断熱等級4レベルであれば、
旭ファイバーグラスのアクリアマット高性能14Kの厚さ155㎜になりますね。

もちろんそれ以外の方法もあり、
上記と同じグラスウールを敷き込むのではなく吹き込む方法や、
セルロースファイバーを吹き込む方法もあります。

■ 屋根断熱

次に天井ではなく、屋根を断熱する方法をお話します。
最近、よく目にする方法だと思います。
現場発泡の硬質ウレタンフォームを屋根裏に吹き付ける方法です。
すき間なく施工できるので、大変人気があります。
アクアフォームやアイシネンなどが有名どころでしょうか。

ただし、この方法で断熱する場合に注意点があります。
通気層の問題です。
基本的に断熱材の外側には通気層が必要です。
これは内部結露が発生しないようにするためなのですが、
先に紹介した天井断熱の場合は、断熱材を敷き込んだんだ上部に小屋裏のスペースがある為、通気を気にする必要があまり無かったのですが、
屋根に断熱材を吹き付ける場合、その外側は野地板、アスファルトルーフィング、屋根材となり、ポイントはアスファルトルーフィングです。
アスファルトルーフィングは防水性は高いのですが、透湿性はありません。
ですので、野地板部分で発生した結露は外に出ていけないので、野地板はビチョビチョになり、いずれ腐ってきます。

断熱材の外側には、透湿シートがありその向こうに発生した結露を乾燥させる通気層が必要なのです。

では、どうすればいいのか?

まず1つ目は屋根の内側から内張り用の通気スペーサーで通気層を作ってあげて、その上で断熱材を吹き付ける方法です。
ただ、この場合は寄棟の場合、施工が複雑になる点や軒先部分まで施工しにいけるか?
また、最終その通気層はどこに抜けるのか?などいろいろ気になる点はあります。

次に2つ目として、屋根を葺き替える前提で現在の屋根の上に通気層を作ってから新しい屋根を葺くという方法です。
正直、これが一番確実な方法です。
もちろん、費用はかさみますが…。

今、現状が古い瓦屋根なのであれば、耐震性も含め屋根を葺き替える。
その屋根材は遮熱性能のあるものを選んで、通気層を作って葺き替え、
小屋裏から屋根に現場発砲硬質ウレタンフォームで吹き付ける。

これが理想的な方法ではないでしょうか?

 

■ 屋根断熱(外断熱)


最後に屋根の野地板の外側で断熱する方法です。
一般的には外断熱と呼ばれています。

これも屋根を葺き替える前提になりますが、先程の屋根断熱と同じです。
違うのは既存の屋根を捲った後に出てくる野地板の上に断熱材を貼り付けてから通気層、野地板、防水シートの順番になります。

この断熱方法での注意点は、壁の断熱との連続性です。
断熱は断熱が切れている部分があるとそこから外気が入ったり、内気が外に逃げてしまうので、壁の断熱材と連続してなければならないのですが、壁が外断熱ではなく充填断熱の場合は、その取り合い部分の施工に工夫が必要となります。
それさえ、きっちりできるのであれば、問題はありません。

正直、現在のところ、私はリフォームでこの工法を採用したことがありませんので、実際に施工する場合に、どんな問題点が出てくるかは、未知数です。

■ まとめ

屋根材の遮熱、天井断熱、屋根断熱、屋根断熱(外断熱)をお話してきました。
途中、少しややこしい話もしましたが、なんとなくわかっていただけたでしょうか?

屋根を葺き替えない場合は、遮熱の塗装に天井断熱。
屋根を葺き替える場合は、遮熱の屋根材を使って、屋根断熱がいいのではないでしょうか?

まぁ、もちろん予算のある話だと思いますので、そこは専門家とじっくりお話して決めてもらうのがいいかと思います。

現状と予算。
総合的に考えて、夏暑くない家づくりをして下さい。


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