第2の人生
夫が私の頭に銃口をあてる。
バーンと言いながら彼の手の銃が私の脳を撃ち抜いた。
「いま君は死にました」
「ピピーピピー、いまから私の第2の人生を始めます。どのような情報からインプットしますか?」
謎のノリから始まったお遊び。
私はリセットされたアンドロイドのふりをして目を瞑る。
夫は私の手のひらをキーボードのように使いとんとんと指で何かを打ち込む。
「まずは名前かな。そして両親の情報を入れよう。お母さんは教育ママだけどとっても優しい、お父さんは普通のサラリーマン、お母さんの尻に敷かれてる、2人とも君のことが大好き」
「ピピーピピー、次にどのような情報をインプットしますか」
「そうだなぁ、容姿は女優の多部未華子さんに似てる感じ。背は低め。兄弟はお兄ちゃんとお姉ちゃんと妹がいます。お兄ちゃんとお姉ちゃんは結婚して子供を持つけど君と妹は独身のまま最後を迎えます。高齢になってからは更に妹と仲良くなり、2人で過ごします。」
「ピピーピピー、他にどのような情報をインプットしますか」
「あとはそうだな、君はピアノが得意。奏者として生きていきます。知ってる人は知っているような感じかな。亡くなったとき少しだけテレビのニュースに取り上げられる感じ。75歳までお仕事しながら生きて78歳で病死します。」
私はピピーピピーとまたふざけようとしたが涙がぽろぽろ零れて続きを聞くことができなかった。
なんて素敵な人生なの。
私の人生が、あなたと出会わない人生だとしても、両親も兄弟も全く違う人だけど、それでもそんな可能性があったのか。
夫はとんとんと背中を撫でながら「ごめんね、つらいこと思い出させちゃった?」
私は首を振りながら笑う。
「素敵な人生すぎて羨ましくなっちゃった」