魔女と偽りなき宝島 / midnight stalkers
残り一分。崩れ始めた手で渡された銀のコイン。
「彼を指名するわ。認証を」
30秒。「認証する。安心しろ」
15秒。「認証する。……馬鹿ね」
頬笑み、彼女は、……グズグズに崩壊した。
*
どうして、僕なんだ。
考え続けているのは、ただ、それだけだ。
*
「最初に言っておく。おれはお前が気に入らない」
*
東京湾外に半ば沈む、半径20キロの巨大な、謎の宇宙人が作ったという、奇妙な円形の構造物は、真っ黒で、空からしか侵入できない。
「大丈夫っすよ、センパイ」
眉をひそめ僕を無視。いっそ気持ちがいい。
眼下には常時諸勢力の交わす砲火の弾道。あまり時間を掛けると、このヘリも落とされる。3、2、1、落下。浮遊感、耳鳴り、すぐそばを通る死。耳元、声「着地に備えて」近づいていく甲板。死骸、死骸、死骸。思い切りコインを握り込む。灼熱。全身が火に包まれる。
地獄の火は僕の頭を焼き付くし、皮膚を溶かし、骸骨を露わにする。だが、制服は焼けない。コインも業火のなかで侵されない。炎とともに、背中が切り裂かれ、中から、赤黒いコウモリの羽が飛び出し、開く。
翼ある燃える骸骨が、死骸と、瓦礫と、用途の分からない構造物であふれた荒野に、激突する。声にならない呻きと罵声、呪いを吐きながら、立ち上がる。
クレーターの周りを、頭部が円錐で、輪のような構造がその周囲を回っている、全体としては蟻に似た何かが数万のオーダーで蝟集してきている。
「来たか。先輩は元気かい」
テーマパークと廃墟によく似た、鉄骨や不可知の何かと死骸だらけのなか、電柱が複数重なった上にちょこんと座っていたのは、不吉な魔女。箒の代わりに持っているのは、長大な、火砲だ。
「重力と慣性をいじる、と、いろいろ愉しいことができる、ぜ」
「知るかよ」
「底には【出口】があるそうだぜ」
一瞬で魔女に距離を詰められ、魔女はにやりと、乱ぐい歯の目立つ笑いを笑う。「あるかもよん、あれ」
【続く】
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