スモーガールズ・イン・ザ・スカイ ゼロ ザ・ファースト・チャンピオン

1944年、シベリア某所。
耳をつんざく警告音が意識を撹乱する。
視界は完全なホワイトアウト。白い嵐のなか時折腹にこたえる雷鳴。
無線から聞こえてくるのは、悲鳴、悲鳴、絶叫。
精強無比のルフトヴァッフェ、総統の旗のもとに共産主義者を打ち破った栄光ある空軍が、いま、紙切れのように落とされていく。
……ムッター、ムッター、こわいよ、ああ、くそ、何も見えない。
だがホワイトアウトは残酷な世界の最後の慈悲だった。
吹雪が一瞬晴れ、彼らを蹂躙した存在が顕現したとき、編隊の生き残りたちは、一斉に、一瞬の狂気に落ちた。
精神のブレーカーが理解を拒み、復帰した意識はもはや自己防衛機制によってそれを曖昧にしか把握できなかったが、しかしそれはなお畏怖すべき悪夢だった。
それは億千万の蝟集する虫、それは億千万の眼球、いまわしい嵐、発生しては崩れていく腕、腕、腕、レアメタルの翼もまたたくまに腐食する影、だが、本当に恐ろしいのは、ああ、聞こえるのは、まるで女の長く伸びる悲鳴のような、か細い、金切り声のような鳴き声が。それは狂気をはらんだ恐ろしさだけではない。その哀れで、助けを求めるような響きこそが恐ろしい。
残弾を使いつくし、最後に残された操縦兵リヒターが、絶望に瞳を見開いて愛機の翼が食い尽くされていくのを見た時、「それ」が現れた。

「それ」は鳥ではない。
「それ」は航空機ではない。
「それ」は神々でも天使でもない。
「それ」はまばゆい航跡を後ろに残して、目の覚めるような速度で上昇していく、ただの人影だ。

だが、「それ」の上昇につれて、存在の無数の邪悪な影は嫌悪するかのように、引いていく。
ふわり、と、リヒターの愛機の隣に滞空した「それ」は、一瞬、振り返り、莞爾と笑うと、腰を深く落とし、存在しないはずの大地へとゆっくりと足を儀式的に片足ずつ、振り下ろした!

「発気揚揚!」

リヒターは知る由もなかったが、それは極東の格闘技、相撲の挑戦の儀式、「四股」であった。

「あれが〈敵〉かい」
パン! と両手を打ち合わせ、力士はつぶやく。
「そうです。次元崩壊因子、世界を渡る破壊者、私の、そしてマスターの敵です」
彼を、最初の航空力士へと選んだ、知性化廻しの声が答える。

(本編シリーズ主題歌のアレンジバージョンが流れる)

「よし、では、ひとつ、立ち合いと行こう!」

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登場人物

大震天:本編シリーズの主人公、天空華雨宮皐月の祖父。はじまりの航空力士。
エドアルド・リヒター:大震天に命を救われたドイツ軍パイロット。戦後、〈機関〉を創設する。
ソフィア・ロマーノヴナ:「知性化廻し」と最初に出会い、大震天と引き合わせることになった少女。本編シリーズでは未登場だというが・・・?

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