不妊のこころ (8)“普通の家族”って何?
生殖技術の発達は、不妊のご夫婦はもちろん、単身者や同性カップルにも、第三者からの精子や卵子の提供を受けたり、代理母を利用したりすることで、家族を増やすことを可能としました。
米国では、体外受精の約1割が、提供された卵子や受精卵(胚)を利用したものとなっているほどです。一方、国内では、夫婦以外の第三者が関与する生殖医療は、法律婚夫婦に対する提供精子を用いた人工授精だけが学会で公認されており、ほかは、実質的に制限されています。
でも、海外に渡航し卵子提供などを受けるご夫婦も増えています(今はコロナで難しいようですが)。その方々に話を伺うと、多くは自分たちが新しい形の家族を作ると捉えているわけではなく、あくまで「普通の家族」になるための手段として利用しているように感じます。この考え方が問題というわけではないのですが、心配なのは、「普通の家族を作りたい」との願いが、非配偶者間生殖医療を利用したことを隠す方向につながることです。そうなると、生まれてきた子に対し、親がうそをつき続けることになってしまいます。事実を隠せば親子関係に不自然さが出てきてしまい、お子さんが苦しむ結果となっては、「幸せな家族を作りたい」という、元々の願いとずれてしまいます。
様々な家族の成り立ちがあり様々な幸せがあるという真実を、社会全体で共有することが、「隠さなければならない」プレッシャーを減らすことにつながります。生まれてくる子どもの未来のために、私たちひとり一人が自身の偏見と向き合う必要があるのではないでしょうか。
※本記事は、以前読売新聞に連載したコラム「不妊のこころ」を再編集したものです