不妊のこころ (4)生殖の物語を編み直す作業

 「それで、本当はどうなるはずだったの?」不妊の方とのカウンセリングで私が大切にしている問いかけです。
 「結婚してしばらくは2人の生活を楽しんでから、最初は女の子で全部で3人ほしかった」「すぐに出産して忙しく子育てをしているはずだったのに」一人一人が語る「そうなるはずだった物語」は、ままごと遊びでお母さん役を演じた、幼い頃から描いてきたイメージです。
 これを私は、「生殖物語」と呼びます。この物語は、私たちの心の中心にずっと存在していますが、普段は意識されません。しかし、不妊や流産、新生児死亡など、想定外の事態が起こると、思ったように進まないという苦しさとともに意識されるようになります。このとき、「じゃあ子どものいない人生を考えよう」と、すぐに物語を修正できる人は、それほど不妊に苦しむことはありません。
 でも、修正は、そう簡単にはいかないものです。自分が幸せになるための最善のあり方として信じて紡いできた物語だからです。不本意ながら変わってしまった物語の渦中にいながら、それでも満足できる結末を目指し、自分なりの新しい物語を編み直していく作業が欠かせないと考えています。そのためにはまず、自分が送るはずだった物語を見つめ、もうその通りにはならないという悲しみと、しっかり向き合う必要があります。
 最初の私の質問は、あなたの「生殖物語」の編み直しを始めるための、大切な問いかけなのです。
※本記事は、以前読売新聞で連載していたコラム「不妊のこころ」を再編集したものです



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