万津人0003:宮崎美穂/川津麻美子
うちはもうこれだけ、生のすり身か天ぷら。
宮崎美穂さん(以下:宮 / 写真左) 〈三喜屋(喜は旧字の㐂)〉は元々父の店で、今も父がしてて、私たち姉妹は手伝いでやってるんですけど。昭和50年くらいからですね。朝市から買いに来られる業者さんもいらっしゃいます。うちは生のすり身、生の魚にこだわってて、ですね。基本はエソを中心にして、あとはもう、その時期に捕れた魚を混ぜて作ってます。これが商品ですね。で、それを丸天にして、ちょっと甘くして揚げたのが、この「天ぷら」になります。
川津麻美子さん(以下:川 / 写真右) 「天ぷら」って、方言かな。「さつま揚げ」っていう言い方の方がメジャーな言い方かもしれないですね。
宮 商品は、スーパーに卸したり、あとはもう個人ですね。個人のお客さんが買いに来られたり。直接買いに来られたりも。卸しと小売と、両方やってます。うちはもうこれだけ。2種類ですね、生のすり身か、天ぷらだけになります。
宮 すりみは、冬の今の時期だったら、お鍋。と、あとはもうお味噌汁に入れてもらったら、そのまま魚の出汁が出るので。あとはいろんな好きなお野菜を入れていただいて揚げ物にしたり、ですね。一応、野菜入りもスーパーには納めてるんですけど 、それをそのまま揚げる方もいらっしゃれば、自分の好みの野菜を入れて揚げられる方もいらっしゃいます。
川 私たちはこれが当たり前で育ってたから、逆に他所に行った時に、やっぱメジャーじゃないので、そうですね、他所の人だと生すりみは「何?これ?」って感じはあるかもです。
宮 だから、佐世保から他所に行った方で、送ってくださいって言われる方もいます。他所にあまりないので、あってもやっぱり違う、魚が違うのか、「やっぱり味が違う」って言ってこられる方から、電話で注文を受けたり。地元がこっちで、帰ってきたついでに買って帰るとかですね。やっぱ他所の県にはメジャーにないので、っていうのは言われますね。
1時2時から仕込み。冬はお魚が冷たくて!
宮 魚の仕入れは、基本は佐世保の魚市ですね、相浦の。あとは、長崎の魚市とか、松浦、あの辺で取れたお魚ですね。製造は全部ここでしてます。
川 40年以上変えてないと思います。
宮 外装、外壁だけ綺麗にしましたね。ちょっと台風でやられたので。見た目だけで(笑)、中は相変わらずです。年季入ってますね、もう建物が50年以上経ってるんで。
宮 機械も年季入ってて、1番古いのはこの臼ですね。これはすり身を練るものです。練ってこの状態になるので。魚市から来た魚をですね、まず洗うんですよね、前日に。そのための魚の魚洗機があるんですけど、それで魚をまず洗って鱗とか取ってしまって、で、次の日の朝、また別の機械で魚を潰して、ミンチにかけた状態のをここで練って、すり身にして。機械で全部潰すので、ある程度の骨は使います。鱗は、洗う時点でもう大体取れるので。頭落として、内臓取って、は手作業ですね。
宮 大体、練りの作業に入るまでは、2時間くらい……。片付けもしながらなんで、ですね。機械を洗いながらなんで、臼で練る状態に入るまでは、大体、2時間から3時間くらいかかるかもしれないですね。一つひとつの片付けも、部品を1個1個取ってから洗っているので大変!いちいち、こう、ばらさないといけないので、意外と作るより、片付けの手間がかかってる感じはあります(笑)。で、臼で練って、伸ばして、すり身の状態にしたのを今度はパック詰めにしたり、袋に入れて量り売りで卸したりって感じです。
宮 作業は朝方ですね。1時2時から仕込み始めて、出荷に間に合うように、第1便、第2便、とあるので、出荷に間に合うようにですね。大変なことは……そうですね、魚切るのは冬は大変ですね。氷付けで来るんで、お魚が冷たくて、さばくのが大変ですね。これはもう今日洗った状態のお魚です。朝のうちに切ってお昼から洗って、で、これを明日の朝、機械にかけます。
祖父から父へ、そして私たちへ。
宮 (建物の)上には親戚が住んでて。朝市にもお店を出してる、〈田中鮮魚店〉っていうお魚屋さんをやっています。この建物がまあ、父親の本家じゃないけど、実家みたいな感じですね。
川 元々父のお父さん、私たちの祖父がこの仕事を始めて。で、それを父が引き継いで、三喜屋を始めたっていう感じだったので。
宮 すり身屋と魚屋と別れたって感じですね。祖父が一つでやってたことを、父がすり身屋に、兄弟の方が魚屋になった、と。店の名前の由来ですか? 最初、読み方わかりませんよね。「㐂」は「喜」の旧字で、昔の「喜」なんですね。でも、由来って聞いたことない。
川 言われてみれば……(笑)。
宮 生まれた時から三喜屋だったから……誰かに付けてもらったんじゃないですかね。
川 姓名判断じゃないですけど、そういうのがわかる方に、多分字も、その旧字の方が良いって言われて、ね(笑)。
宮 そうそう、多分画数とかで。父が自分で決めてるのではないですね。
川 多分そういうセンスはない(笑)。まあこの七3つの字、なかなか見ないからですね。初めて見て読める方は、まずいらっしゃらないです。
宮 私たちは……妹(川津さん)は大学で、私は短大で福岡の方に出てましたけど、帰ってきて、で、それぞれ仕事は別でしてたんですけど、私は結婚を機に、こっちでまた手伝うようになって。そん時ははっきりした気持ちはまだ無かったんですけど、でも、まあ、後々は(すり身屋を)しようかなって思ってました。場所もあるし、少しでも……ですね。残せたらなっていうのは、少なからずあったので。今は、残していきたいと思ってます。
万津町での思い出。
宮 朝早いでしょう?親が。私、昔ここ(三喜屋の入り口)に寝てたんですよ、発泡(スチロール)をつなげて(笑)。缶コーヒーとかを湯たんぽにして、夜のうちから連れて来られて、ここに発泡をつなげたベッドを作って、私はここに寝てました。だから、今でも知らないおばちゃんたちとかに「あんたは発泡の子やね」って言われるんです(笑)。
宮 万津町は昔と比べて変わったか? そうですね、昔はこんなにお店なかったので。今、いろんな新しいお店ができて、ここ何年かですごいもう、昔の人が「ここ変わったね」って言うぐらい雰囲気が違うみたいなんですよね。私たちはいつもいるからわからないですけど、たまに来た人なんかは「街の雰囲気が変わってきたね」って言われるぐらいなので……。私たちは、昔ながらのを残して、お客さんに伝えていけたらな、とは思っています。
川 子どもの頃、この辺遊びまわって……っていう感じだったからですね。つながり、というかなんかもうこの辺にいたら、何かしら知ってるみたいな感じですね(笑)。
宮 昔は、今みたいにマンションとか無かったんで、大体もう「あそこの子やね」とか、もうみんなわかるような感じじゃないですか。
川 大体みんな顔見知りやったよね。
宮 このおばちゃんはどこのおばちゃんとか、もう町内にいたら、ある程度はわかる感じでしたよね。
川 食べ物屋さん、飲食店がまずなかったので。古い食堂は1軒、2軒か。ホウライさんとかあったんですけど。そこの2軒、食堂がもうあったぐらいで、まあそこも、もう結構前にやめられて、後は一時ずっとない状態で来てて、今ね、隣の〈Makeinu no Toboe〉さんとか、〈らーめん砦〉さんとか。
宮 〈cafe .5〉さんから、だんだん出てきたんじゃないですかね、最初は。かな?って思いますね、多分。ドットファイブさんが最初来た時は、まだそんなにいっぱい、お店なかったと思います。私たちもよく、テイクアウトを利用させていていただいていますけど(笑)。
川 あと、朝ごはんはもう、朝市で済ます、って感じでしたね。うどん屋さんとか前あったので、屋台で食べたりとか。昔ながらの感じで。
宮 普通の子とは違いますよね。家でご飯を食べて学校に行く、じゃなくて、そこらへんで焼き芋買って食べたりとか。朝市ももっとお店がいっぱいあったんでですね。買うところとか食べるとこもあったので。
三喜屋のこれから。
宮 いろんなお客さんに知っていただいて、皆さんに喜んでもらえるようなもを提供できたらなと思ってます。魚嫌いな子がですね、これだったら食べられるっていうこともあるんですよね。
川 天ぷらなんかはやっぱ、味も甘みがついてるのもあって、魚嫌いの子でも食べやすいっていう。骨ごと砕いて入っているので、カルシウムもある程度摂れたり。こんな店の子供なんですけど、私も、どっちかっていうと魚が苦手で(笑)、でもどうにかすり身とか天ぷらだったら食べれるっていうのがあるので、苦手なお子さんとかにはおすすめしたいなっていうのはありますね。臭みもそこまでないのでですね。
宮 あと、どうしても今、冷凍のすり身が多いので、生にこだわって、うちはやっていけたらなと。やっぱり新鮮さが違いますよね。冷凍のすり身を使ったら、もうそれを解凍するだけなので。うちは一匹一匹魚を切って、そこから生を潰していくので、そこの差はあると思います。
今は多分、お母さんとかおばあちゃんが作ってくれないと、若い人で生すり身を見せても、食べ方や作り方がわからない人が多くなってくるのかな?っていうのは、自分たちもちょっと感じてるので……時代の流れがもう。そこを上手く提供できるように、そういうところも考えていかないとな、とは思ってます。
川 あと、「これ以外ないの?」とか、「調理してるのないの?」って聞かれるお客さんもよくいらっしゃるので、そういうニーズに応えていけるように、今後していけたらね、っていうのは話してますね。
宮 やっぱり求められてるのが惣菜なので、他にちょっとですね、違う種類の揚げ物ができたりとか、バリエーションを増やして、ここの店舗だけでも売れたらなっていうのはありますね。新しいものを。
それと、すり身だけじゃなくて、石鹸などの環境に良い商品も扱っていて。うちで置くようになったのは、ここ2、3年ぐらいですかね。今もう、すごく環境が悪いじゃないですか。大人が汚してきたこの地球を、子供たちに残していくのは大人の責任なので、自分たちから変えていかないと、と思って、少しでも発信できる場にしたいと思っています。
取材・文:岡本 一成(長崎県立大学)
写真:永田 崚(tajuramozoph)
編集:はしもとゆうき(kumam)