ストロベリーフィールズ厨二病フォーエバー(制作ノート)
このタイトル曲ならびに一連の楽曲の制作過程と発表にいたる過程が非常に複雑なため、ここに記録として残しておくことにします。
ストロベリーフィールズ厨二病フォーエバーの楽曲は2018年8月31日のライブで初披露しました。その数ヶ月前からぼくはソロ活動として弾き語りのライブを重ねていたのですが、交通事故に遭い、左手を負傷してギターを弾くことがままならず、人生初(そして多分最後)となるカラオケライブという体裁をとりました。
ライブ当日に配布したフライヤーがこちらです。
もちろんすべてが新曲です。とはいえ事故に遭ってから書いた楽曲ではなく、ほとんどの曲は以前に書き、デモ録音していたのです。その過程もここに記しておきましょう。
サイバーニュウニュウがリブートしてリリースした初アルバム「サイバーニュウニュウ」は、個人的には正直がっかりするものでした。このアルバムの制作方法は、プロデューサーである事務所社長A氏がメンバーのデモ曲を集め、その中から彼が編纂して録音をすすめていくというものでした。ぼくには決定権がなかったけど、それでも『宇宙』や「あふれる愛の光」を収録することには(個人的すぎるという理由で)反対したし、「ダイナマイト不愉快」は他のミュージシャンに提供するために書いた楽曲なので自分たちで演奏することに強い違和感があり、これも収録には反対しました。
リリースされたものには失望感しかなかったけど、まあこれは作り手のエゴだと思っていただいて結構です。ぼくはほぼ30年前に明確なコンセプトからこのバンドを立ち上げた者としての捉え方をしているにすぎないので、決してこのCDを買っていただいた方の意見を反映しているわけではありません。ぼくが思い描くサイバーニュウニュウとリブートしたバンドとの乖離が激しいものだった、とだけ言っておきます。
ぼくはこの時点でふたつの事を決断します。まずひとつが、A氏に提出していた過去のデモテープの楽曲が特典CDとして配布されたり(すでに何曲かは使われていた)次のCDに転用されるのを防ぐため、すべてを取りまとめて自主制作CDとしてさっさと発表しようとしたことです。これが[宝石のようなもの](上フライヤー参照)を発表した真の理由です。
もう一つがバンドの軌道修正のため、A氏に次のCDのプレゼンを行うことです。ぼくは「アシッドキング VS 冒険王」(*注1)のコンセプトアルバムの制作を強く勧めました。しかし核戦争や焦土化された日本が舞台となっているストーリーのため、残念ながらA氏からよい反応は得られませんでした。
当時ぼくはライブの選曲・演出などもひとりで手がけていたためかなりハードな状況でしたが、それでも「アシッッドキング〜」に変わるものとして新しいコンセプトアルバムを提案します。それが[ストロベリーフィールズ〜]だったのです。当時は[サイバーニュウニュウZ]が仮タイトルでした。
この企画は、インドの「ジャイナ教」についての本を読んでいたことがきっかけで思いつきました。そこには、[解脱]とはカルマや輪廻からの解放であり、肉体から魂を離脱させ大いなる叡智の一部となることが最終的な理想とされていたのです。ぼくは以前から、やがて人間はデータ化されネットの中で生きるだろうと信じているのですが、これがジャイナ教の解脱とほぼ同義であることに衝撃を受けました。
仏教の説く解脱、またあらゆる宗教が提唱する肉体からの解放は、電脳世界への移行を予言していたのではないか。すでにウィキペディアが方向性を示しているように、データ化された人類の叡智は融合され、新しい世界を構築して行くのではないか。これはニルバーナ(涅槃)と呼ぶべき事象ではないだろうか。
このことに愕然としたぼくは、新たなコンセプトアルバムに着手しました。
ぼくが想像する未来は二極化していて、死から解放されネットの中で人類が生きる世界と、肉体を捨てられない人類が生きる荒廃した地上の世界です。「サイバーニュウニュウZ」はそれぞれの未来から現代にやってきた人たちの警告がベースとなるストーリーで、肉体を捨てた未来人のメッセージが「Sexless, Drugless and Rock’n’Rollless」、地上のディストピアのメッセージが「サイバーニュウニュウZ」「LOVE癌」でした。
ぼくはすごい勢いで次々と曲を書き、デモ録音をしてA氏とスタッフに聴かせました。「ハッピー仮面」はかなり初めの段階でできていたと記憶しています。
このころにはぼくはサイバーニュウニュウのライブに一切の興味を失っていて、このデモ曲もメンバーには一切聴かせてなかった。ぼくと事務所の社長A氏のあいだで進めているプロジェクトという様相を呈していました。
その後ぼくがバンドを離れ、またソロアルバム「デラシネの花」を残して事務所を去ることになったため、「サイバーニュウニュウZプロジェクト」は完全に凍結してしまいました。
2018年8月31日のライブで、ギターの弾けなくなったぼくの窮地を救ってくれたのがこのときのデモ音源でした。いま思えば「ストロベリーフィールズ厨二病フォーエバー」とは「アシッドキング VS 冒険王」や「サイバーニュウニュウZ」のような夢を追っていた自分への鎮魂歌なのかもしれません。
*注1「アシッドキング VS 冒険王」
1990年代初頭、「秘密のバス」に続く出し物としてぼくが考えたストーリー。AKIRA、風の谷のナウシカ、北斗の拳等当時流行った核戦争後の世界を舞台にして、かつての文明を取り戻そうとバーチャル世界に生きるアシッドキングと、荒廃した世界で新たな未来を切り開こうとする冒険王の対決を描く物語。このころ行われたサイバーニュウニュウのライブは、アシッドキングによって掘り起こされた機械仕掛けのバンドが古き良きロックンロールを演奏するという演出がなされていた。その後この物語は音源化される予定だったが、その前にバンドが解散してしまい、いまだ未完となっている。