電子スイッチのススメ
この記事では機械接点スイッチと電子接点ついて、特に電子接点スイッチのメリットやデメリット、設計方法について説明します。
以下写真のような機械接点スイッチはエフェクターを自作したり改造したりするかたには馴染み深いですね。エフェクターの電池交換時にもよく目にするスイッチです。
下図のように配線することでいわゆるトゥルーバイパス配線+LED 表示 ができます。この配線のエフェクターは現在も数多く見ます。スイッチを直感的に配線できるのでエフェクター製作の初心者でも実現しやすい実践的な配線です。
しかし、このスイッチを使用したエフェクター、少し使い込んで古くなってくると、こんな経験はないでしょうか?
ON/OFF がうまく切り替わらない。
バイパス、またはエフェクト時、音が途切れ途切れ、音量が上がったり下がったり。
当店でもよくこのスイッチ交換を行いますが、まあまあ面倒です。端子が9つあるし、配線材がギリギリの長さだったり、コテを当てすぎると端子が根元から外れたりするので結構ストレスです。
このスイッチはしばらく使うとおおよそ故障するので、もはや消耗品です。設計段階で交換前提に、交換が容易にできるようにあってほしいものですが、実際多くのエフェクターでは交換が困難です。配線材が端子にグルグルにゆわえつけられているためハンダを溶かしても外れなかったりしますが、切ってしまうと配線材の長さが足りなくなったり。
直接基板にマウントされていると、うまくハンダ吸い取りできずにパターン剥がれたりしてパターンの補修が必要になったり、補修するパターンが部品面にあってスイッチつけると補修できなかったりと、もう何かとストレスです。
そもそもなぜそれほど頻繁に交換が必要かというと、このスイッチ、機械的に動く接点に直接微弱な音声信号を通して切り替えるために、ちょっとした接触不良が起こるとすぐに不具合を起こします。電気回路的に見れば ON 時の抵抗値である ON抵抗が大きくなっている状態になります。
原因は様々ですが、実際接点を接触させる金属部分の表面に皮膜ができたり、間にほこりを噛んでしまったり、接触させるためのバネ自体が弱くなってきたすると発生する、日常的に使うには仕方ない現象です。機構的な耐久性は20000回切り替えとデータシートにありましたが、ほとんどのケースで20000回は使えていないと思われます。
図のようなトゥルーバイパス配線の回路ですとエレキギターのハイインピーダンスの信号を直接切り替えるのでこの接触不良がこれがかなり顕著に出ます。
エレキギター本体のピックアップセレクター、トグルスイッチやレバースイッチと同じと思っていただけるとわかりやすいです。ピックアップセレクターは板バネで電極を固定する構造で、よく接触不良を起こしますよね。ちなみに私はこの接触不良が嫌なのでフロントピックアップを捨てて、ピックアップセレクターのないワンハムのギターをよく使います。
エフェクターの調子が悪い時、ON/OFF がうまく切り替わらなかったり、ON時、またはバイパス時に音量が不安定な場合は、このスイッチが故障している可能性がかなり高いです。スイッチを下がるとガサゴソ音がするのでわかりやすいかもしれません。
その都度このスイッチを交換して使うのもいいですが、これを設計段階で解決する方法があります。それがいわゆる電子接点スイッチです。
電子接点スイッチは昔から BOSSをはじめとした多くのコンパクトエフェクターに使われています。しかし、この電子接点スイッチはどうも回路が直感的でなく、トランジスタが入って少し設計の難易度が高くなるうえに、ギタリストにとって大きなセールスワードになる「トゥルーバイパス」ではなくなってしまうため、多くのエフェクタービルダーには敬遠されがちです。
しかし、電子接点スイッチには以下のメリットがありますので採用するかどうかは別にしてエフェクターやアンプを製作したいなら覚えておくことはお勧めです。
1. 接触不良による音途切れなどの不良が起こりにくい
2.何回路でも同時に切り替え可能
3.切り替え時の"ボツ"音が発生しにくい、発生する場合でも切り替え時間を設計して回避できる
4.量産するならスイッチ自体のコストが安上がりにできる
ちなみにデメリットは以下です。もちろん良いことばかりではないでのです。回路はデメリットを理解したうえで、これが仕様上問題ないレベルで設計することが大切です。もし、これらが解決できない場合は仕方ないので、機械接点スイッチを使いましょう。
1.バッファーが必要なため、バイパススイッチに使うと結果的に"サー"というノイズが増えることがある。
2.パスコンを使う都合でバイパス時でも低音がカットされるのが否めない
3.トゥルーバイパスではなくバッファーを介したローインピーダンス出力になるので、ハイインピーダンス回路と比べて音色が変わることがある。
4.電池が切れるとバイパス音も出ない
さてここから電子接点スイッチの設計について説明します。方法はいくつかありますが、一番ポピュラーな方法がFET を使った電子接点です。
FET は 電界効果トランジスタと言って ちょっと特殊なトランジスタです。 英語では Field Effect Transistor で、この頭文字の略称です。しかし、今回はこれを説明しても仕方がないので、「ちょっと違うトランジスタ」くらいで覚えてください。
FET の中にもいくつか種類があるのですが 電子スイッチに使うのはおおよそ 接合型 FET です。J FET(Junction FET) と呼ばれます。
この JFET の 代表格で 2SK30A があります。私が10代の頃からお世話になっているTOSHIBA の ロングセラーです。見た目はまあ普通のトランジスタです。
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