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9ヶ月かけて「デザイン思考」を学んだ

私は大学でスタンフォード発のデザイン思考グローバルイノベーションプログラム「ME310/SUGAR 2019–2020」に参加していた。
これは2019年9月から2020年6月にかけて世界各地の大学生が、デザイン思考の方法論を用いてグローバル企業が提起するイノベーション課題に挑戦する産学連携型プログラムだ。
つまり、グローバル市場での産学連携デザイン思考プロジェクトである。
私のチームはパートナー大学としてオーストラリアの大学、協力企業として日本の製造業企業とチームを組み、9ヶ月間のプログラムに参加した。
このプロジェクトは、いわゆる"産学連携プロジェクト"の一種であるが、3回分の海外渡航費に加えプロジェクト中のプロトタイピングにも予算がでるという、太っ腹なプロジェクトである。まさに、グローバルかつ大規模な究極の産学連携プロジェクトだ。

残念なことに今年の2月以降はコロナの影響でプロジェクトとして満足な進行はできず、最終発表もサンフランシスコの予定だったがオンライン開催となった。そんな中でもこのプロジェクトを通じて様々なことを学ぶことができた。この貴重な体験を忘れぬよう、記録しておこうと思う。

デザイン思考とは?

まず、デザイン思考とは何なのか?という疑問が浮かぶだろう
詳しいことは後述している参考書を読むのが最も理解が深まるだろうが、私の解釈では
Need finding→Prototype→User test
のサイクルを高速で行う事による、製品やサービスのデザインする為の思考方法であると考えている。
Need findingから始まるので、世の中の問題や苦労からアイデアがスタートする。デザイン思考はニーズベースのアイデア思考に強い。
逆にテクノロジーベースだとアプローチが異なると言える。
私の参加したプロジェクトはこの流れを体験的に学ぶものだった。

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9ヶ月のプロジェクトの流れ

Fall Quarter  Global Kick Off in China
世界中から集まった学生との最初のキックオフミーティング(10月)

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Egg Challenge in China ダンボールでの高速プロトタイピングの練習(10月)

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Design Thinking Lecture デザイン思考を学ぶ数々のワークショップ(1月)

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Spring Presentation in Australia 中間発表(3月)※コロナのため日本開催

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Final Expo in Online プロトタイプを交えた最終発表(6月)
※サンフランシスコの予定がコロナのためオンライン化

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デザイン思考で最も重要なのは

デザイン思考の方法論の中でも最も重要なのはNeedfindingである。これはユーザが求めてる事(ニーズ)をいかに見つけるか?ということだ。しかし、誰でもわかるニーズには既に答えが出されている場合が多い。ここでいうニーズはユーザ自身も自覚していないような潜在的なニーズのことである。

キャッシュレス決済を例にとって説明すると
現金を使った決済は、小銭の取り回しが面倒で管理が大変
→これが問題である。
これに対してもっと素早く簡単に決済をしたいというのがユーザーのニーズであり、そのソリューションがスマホ決済である。

しかし、潜在的なニーズを探ると、決済という行為自体が問題(Pain)であることが分かる。
→潜在的なニーズとは決済すらしたくないということになる
これに対するソリューションが決済レスであり、それはつまりAmazon GOである。
決済自体がなくなることが、ユーザーの潜在的なニーズに答えるということだ。

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このような、「ユーザ自身も自覚していないような潜在的なニーズをいかに探るか?」というのはデザイン思考で最も重要なことである。

観察とインタビュー

Needfindingの具体的な手法として多用されたのはインタビュー観察

観察
観察ではターゲットの行動をじっくり調査する。ターゲットに許可をとり、その人の行動を観察させてもらう。中には驚くような行動をする人もいて、後で詳しく聞いてみると 面白い発見があったりする。

インタビュー
インタビューは実際にマーケットに関係しそうな人物に連絡をとり、その分野の特徴や課題をインタビューした。堅苦しい雰囲気にはせずに、世間話を交えてユーザーの問題の根幹を探るような作業である。我々が学生ということもあって、大抵の人は快くインタビューを受けてくれたが、中には嫌がられることもあり苦労した。

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この2つの手法を使って、ユーザーの潜在的ニーズを探る。
つまり、実際にユーザーの所へ行ってその声を聞くということが最も重要なのである。会議室で、根拠のない議論を長時間続けるのは時間の無駄。
うーん…と、考えている時間で手を動かす
これこそがデザイン思考の根幹である。

1週間で成果を出すということ

ラピットプロトタイピングという言葉がある。これは思いついたアイデアを素早く形にしてインサイトを得るというものだ。プロジェクトの期間中は毎週進捗報告会が開かれた。1週間の成果を先生に報告する。1週間で成果を出すというのはなかなか大変で、どうでもいい事を発表する週も何度もあった。その度に先生に「はやく動け」「すぐやれ」と言われた。
1週間で成果を出すのは難しいことだが、"ものづくり"においてスピード感の重要性を深く感じる場面でもあった。

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デザイン思考における「共感」

イノベーションに向かうために必須なのは、他分野の人間といかに協力し、チームプレーを行うかという部分にある。ものづくりに関わる「エンジニア」「デザイナー」「プランナー」といった様々な分野の人間が交わることが非常に大きな価値をもたらす。しかし、他分野の人間と意見を交わすのは少々骨が折れる。ものづくりの視点がそれぞれ違う中で、それぞれ異なる言語を持っている訳で、一つの問題に注目して解決策を見出すにはチーム全員の「納得」が不可欠だ。

では、他分野の人間を納得させるにはどうしたら良いだろう?方法として簡単なのは「数字」を使うことだ。統計やアンケートなどデータをもとに数字をベースにして思考することは、他人を説得する方法としてかなり有力な方法だと言える。これは論理的に思考する上で非常に大事な要素であることは間違いない。ファクトフルネスという本には「いかに数字をみてるか?思い込みの中にはとんでもない真実が隠れている!」という事が書かれている。私はこの主張に大いに賛成する。なぜなら、何も知らない他人を納得させるには数字が1番わかりやすいからだ。
しかし、気をつけねばならないのは

数字には「説得力」という厄介な魔法がかかっている。

数字をベースに議論するのは悪くないのだが、他分野の人から見ると大きな数字を見てなんだが分かった気になってしまうのだ。根拠が数字だから故に、本質が見えていないのに見えているように錯覚する。だから誤解を招く。そして否定も肯定もできなくなる。

一方で、このデザイン思考のプログラム中では「アンケート」を始めとする数字をベースにした意識調査を行うことはなかった。真のニーズベースでは数字は扱わない。
では、どうするのかというと
デザイン思考の中でインサイトを共有する際には、インタビューで得られたユーザーの「生の声」を仲間へ届けること重要だった。得られた情報を詳しくまとめて仲間に共有する。さらに突き詰めるなら、インタビューの様子を撮影し、それを一緒に見てユーザーの声を雰囲気も含めて感じてもらうのが最適だ。

大事なのは相手を納得させることではなく、一緒に共感することだ

大多数の意見を根拠にするよりも、少数のコアなニーズに着目してその信憑性をプロトタイピングの中で検証するほうがよっぽど説得力があるのだろう。そしてそれはチーム全員の共感につながる。
数字ばかり見ているだけではユーザーのニーズに寄り添うことはできないのかも知れない。

同じ釜の飯を食う?的な話?

SugarにはSUDSという文化がある。
毎週末の夜にチームメイトと一緒に晩ごはんを作って食べるというものだ
いわゆる「同じ釜の飯を食う」というやつ
これはデザイン思考の要になるのではないかと思うぐらい重要だと思う。
しかし、ただ単に飯を食うだけでは飲み会と変わらない
重要なのは飯を食うことではなく、キッチンの存在である。
SUDSでは週替わりでチームメンバーが全員分の食事を用意する。グローバルなチームなだけあって、さまざまな国の食文化が毎週見られる。お店が作った高クオリティの品物ではなく、ちょっとアットホームなその感じが皆との共同作業の場を増やしてコミュニケーションを活性化させる。
一緒にごはんを作ったり、あの人はどんな料理を作るのだろうと予想したりとワクワクする要素で溢れていた。私もこのSUDSを毎週楽しみだった。

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英語のコミュニケーション

加えてこのプロジェクトはすべて英語で行われるのも一つの特徴である。
私は留学経験などなく、英語が堪能なわけではないが、このプロジェクト通じてかなり英会話力がアップしたと思う。なにより、日常的に英語を話す機会があるというのはとても良い刺激であり、英語の文化そのものを学ぶことができた。英語が身近な存在になったことは貴重な経験であった。

感想

デザイン思考によって素晴らしいアイデアを発想するわけなのだが、それはつまり方法論であるので絶対的に成功するわけではない、しかし、その可能性を多いに高めるものであることに間違いはない。

体験を通じて様々なことを学んだが、結局の所、デザイン思考の本質は
「仲良く」とか「心地よさ」とか「居心地」とか、そういうところにあるのだと心底思う。SUDSで述べた「キッチンの存在」とはそういう意味だ。
イノベーションの誘発とか、よりよりアイデアとは?という議論を始める前に、そこに集まったメンバーとの関係性がなによりも大事なのだ。それが、後の結果に大きく関係しているのは間違い無いと思う。このことは誰もが経験的に感じていることだろう。

いかに人に関わるかということ、身近なコミュニティとどれだけ綿密な関係を築けるか?アイデアはそういうとこから生まれる。

気軽に話せる関係
ぱっとアイデアを呟ける環境
そして、そういう環境をどう構築するか?

デザイン思考とは結局、そういうことなのだと思う。

デザイン思考のプロセスは今後の自分に十分活かせると思う。体験的に学んだからには、次は実践的に挑戦したいと思っている。

参考書

最後にSugarの期間中に私が読んだデザイン思考に関する書籍を紹介する
デザイン思考に興味があるなら、これらの書籍は必読書だ。

1.実践 スタンフォード式 デザイン思考 世界一クリエイティブな問題解決 できるビジネスシリーズ
スタンフォード大学のd-schoolをベースに書かれたもの
誰でも実践できるくらいの抽象度なのでとてもオススメ

2.エンジニアのためのデザイン思考入門
過去にME310に参加した東京工業大学の教員が制作した工学分野視点の本
かなり、実践に近いところの細かいことが書かれているのでME310への参加前に読むと良い。(私は参加前と参加中の二度読んだ)

3.イノベーション・スキルセット~世界が求めるBTC型人材とその手引き
デザイン思考をベースに新規事業の立ち上げ援助を主に行っているTakramとというデザインエンジニアリングの会社の代表が書いた本
デザイン思考の次のステージが書かれている。
私はME310終了後に読んだが、かなり納得する内容が多く、デザイン思考を学んだ人は読むべき一冊


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