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ストーカー物語

【第1日目】
櫻井未来は毎朝7時15分にアパートを出る。黒いレギュラーサイズの自転車に乗り、コンビニでカロリーメイトと缶コーヒーを購入する。支払いの際、必ず小銭を用意している。効率を重視する性格が窺える。大学の研究室では白衣の下に私服を着ている。今日はグレーのカーディガンにデニム。机の上は整理整頓されており、ペン立ての色が全て統一されていることに気付いた。 

【第2日目】

昼休み、彼女は1人で学食に向かった。テーブルの端に座り、スマートフォンで何かを見ながら食事を摂る。メニューは日替わり定食。今日はもつ煮込み定食だ。食べる速度が速い。12時15分に着席し、12時28分には席を立っていた。喫煙室に入って、プルームテックを美味しそうに吸っていた。

【第3日目】

今日は雨だった。彼女は透明の傘を差していた。傘の骨が1本折れているが、修理せずに使い続けている。経済的合理性を重視するタイプか。帰りに壊れた傘をごみ置場にそっと置き、マンションに入って行った。新しい傘を買う予定があるのだろう。

【第4日目】

帰宅時、スーパーで特売の卵を購入していた。値札の数字を確認する時の目つきが鋭かった。夕方の値引きにも常にアンテナを立てている。店員がシールを貼るやいなや、さっと手に取り、カゴに入れてゆく。惣菜を2品購入した。

【第5日目】

彼女の机に新しい写真が飾られていた。猫の写真だ。自宅で飼っているのか、それとも野良猫か。写真の下には何か書かれているようだ。きっと猫の名前だ。望遠を最大にしてみたが、判別はできなかった。

【第6日目】

今日は彼女の珍しい一面を観察した。昼休み、学食で隣の席の女子学生がおぼんを落とした時、彼女は黙って自分のハンカチを差し出した。無駄な会話をせず、効率的に問題を解決する姿勢は彼女らしい。彼女はいつも一人でご飯を食べている。友達はそれほど多くはないようだ。

【第7日目】

今週最後の観察日。彼女はいつも通り、正確な時間に研究室に到着した。今日は白衣の下に赤いセーターを着ていた。データを分析する時の彼女の瞳はまるで高性能なレンズのようだ。マックスにフォーカスして彼女の横顔を見るといつもより、化粧が濃いようだ。まさか男がいるのか。

彼女はまるで精密機械のように完璧に見えるが、たまに見せる人間らしい一面が彼女をより興味深い存在にしている。今後の成長が楽しみだ。
来週の観察はもっと詳細に行わなければならない。

これを恋というのかどうかは僕にはわからない。
夢に現れる未来は洋服をいつも着ていない。

朝、目覚めるといつもベッドが冷たくなっている。
僕は死にたくなる。


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