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セイばあちゃん家のご飯

 両親は、祖父の代からの小さな不動産屋を、父は社長、母は経理担当として経営していた。といっても、人生の節目、節目で家を買いたい人や借りたい人が多い繁忙期は、母も接客で忙しく、兄も私も渡されたお金で弁当を買うか、馴染みの定食屋でご飯を食べることが多かった。母は家事が好きな人ではなく、日々のご飯も出来合いの総菜を買いテーブルにそのまま並べるような人だった。父は接待と称し、食事は外で済ますことが多く、料理をしない母のことはあまり気にする人ではなかった。大学進学を機に一人暮らしを始め、パソコンの世界に浸っていた私は、ネットのグルメ情報で食べ歩くことがかっこいいとどこかで思っていた。親の希望もあり、大学時に宅建を取得し、将来のために修行してこいと、言われるまま親のコネで不動産会社に就職した。仮想空間以外に関心が無く、人と争うのも嫌で親に進められるまま生きてきたが、リアルな人間関係から逃れることが出来ない現実に直面し、いつしか心も体も悲鳴をあげていた。もちろん、営業成績が上がるはずもなく、職場に足が向かなくなりついには、退職勧告を受けてしまった。
 
 料理が出来ない私を見かね、料理の勉強がてら朝晩のご飯はセイばあちゃん家で食べようと提案してくれた。人が作ってくれるご飯の美味しさとセイばあちゃんと話しながら食べることの楽しさを知った私は、その話に甘えることにした。セイばあちゃんも二人で食べた方が楽しいし、食べてくれる人がいた方が作り甲斐があると言ってくれる。同じ食材で何品ものおかずを作り出すセイばあちゃんは、まるで異世界の魔法使いに見える。そのどれもが、今まで食べてきたどんなお店の料理より美味しい。まだ言われるまま、野菜を洗ったり、皮を剝いたりしかしか出来ない私だけどいつか、セイばあちゃんに食べて貰える料理が作れたらいいな。そんなことを考えていたら、上がり框に置いてある座布団から視線を感じた。そこには、セイばあちゃん家の三毛猫がなにやら思案顔で私をみている。遠い記憶の中にある、幼い私を暖かく見守ってくれた祖母を彷彿させるようなその目は、大丈夫、きっと何とかなるさと言ってくれたような気がした。

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ちー
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