旧田中邸DIYve❷アースバック編
旧田中邸で阿部さんたちは、壊した土壁をアースバックで再利用している。今の言葉で言ったらSGDsってことかな。ここに来てからは初めての出来事だらけで、頭も体もついていけない。けど、何だかとっても楽しそう。セイばあちゃんもそうだけど、自分の手で何かを作り出すことを楽しんでいる。お金があれば何でも買える気がするが、自分の体や手を使わないと経験は詰めない。畑仕事は無理と思ってたけど、実は勿体ないことをしていたのかも。お金には代えられない貴重な体験の場に遭遇している、これってもしかして、超ラッキーなこと?ねーレオ、どう思う。
心臓がバクバクし声が上ずっているのは分かったが、思い切って阿部さんに声をかけてみた。「私も手伝いたいのですが・・」阿部さんはにこやかな笑顔で答えた「先ずは汚れてもいい服装に着替え、長靴を履いておいで、マスクや帽子はたくさんあるから自由に使っていいよ」
私は嬉しさのあまり駆け出していた。家に帰り自分が持っている服を調べがっかりした。汚れてもいい作業着のような服を一着も持っていない。自分が畑仕事をするなんて思ってもいなかったから。仕方なくセイばあちゃんに相談しに行った。セイばあちゃんはタンスの中から自分の古い服を出してくれた。ついでに昔、買ったけど履き辛くて仕舞っていた物だと可愛い長靴も持って来てくれた。セイばあちゃんが冬仕事で作ったエプロンや手ぬぐい頭巾まで、とっかえひっかえ私にあてがってくれる。それらはまるで、私がここに来ることが解っていたかのように、私にぴったりだった。三毛猫もお似合いだというように、みゃーと鳴いた。セイばあちゃんに見送られ阿部さんのところへ戻った。阿部さんから軍手と帽子を貰い、アースバックを作っている人たちのもとに行き作業を教えてもらった。入れ過ぎると持てないから半分くらいでといいお言われ、もくもくと土嚢袋に土壁を入れていく。不慣れな私に、周囲の人たちはゆっくりでいいからと声を掛けれてくれる。埃を吸い込みそうで、うっかり返事も出来ずコクンと頷く。ただ袋に土壁を入れるだけのことだけど、仲間として受け入れらたことが嬉しかった。今日も桜の木の下で4匹の猫たちがこちらを見ている。猫たちもここが生まれ変わるのを楽しみにしているんだろうな。大学が始まり、学生たちが町に帰るころ、桜は満開になってるかしら。セイばあちゃんのご馳走で、花見が出来たらいいな。埃で時折、咳き込みながらもそんなことを考えながらの作業を楽しんでいる私がいた。