仮想空間
セイばあちゃんの自慢の漬物と野菜たっぷりの味噌汁、つやつやご飯の朝ごはんをご馳走になり、三毛猫に未練がありそうなレオはセイばあちゃんの家に残し帰ってきた。お昼に食べなさいと頂いた蕗の薹味噌入りのおにぎりを頂き、菜の花の香りを存分に吸いながら家に帰る。街にいた時は、空気に匂いや温度があるなんて気づきもしなかった。ここには、匂いだけでなくなんて豊かな色彩があるのだろう。山の薄緑、菜の花の黄色、梅の薄ピンク。けれど、どれも柔らかく私の心までパステル気分にしてくれる。パソコンを立ち上げ、お気に入りのコーヒーを湧き水で入れてみる。同じ豆で入れているはずなのに、香りも味もグレードが上がったように感じるのは、この集落が持っている誰でも受け入れてくれる雰囲気のせいかな。
パソコンの自分の部屋に入ってみる。人見知りで話下手な私は、小学生の時に親が買ってくれたパソコンの仮想現実世界にどっぷりと嵌まっていった。仮想世界でなら誰とでもすぐに友だちになり、遊ぶことが出来た。学校から帰るとすぐにパソコンの中に逃げ込んだ。見かねた親が、リアルな友だちを作って欲しいと、探求学習をしている学習塾を探し入学させてくれた。
学校の授業には無かった”なぜ”の問いに自分の力で”解”を見つけられる力をつけてくれたが、その塾のお陰で私はますます、パソコンの中の世界にのめり込み、頭でっかちな人間になった気がする。
ふいに、足に柔らかな感触があり、足元をみるとレオの青い目が私を見上げている。草花や土の香りが襲い掛かってくる。春の暖かな空気に包まれパソコンの仮想世界がみるみる色あせていく。私は誰で、ここで何をしているのか。そもそも私はなんで今、ここにいるのか。レオの青い目が、その答えは俺が知ってるよ、と言いたげにニヤリとしたように思えた。うん、もしかしたらそうなのかも知れない。レオと楽しく暮らす夢をみて、ここに来たときから、新たな仮想現実の世界に、私は足を踏み入れてしまったのかも(^^♪