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老刃と銃禍鬼。
6時25分、老刃の朝は早い。
ー 重光さん、こちら、お茶です
「いつもありがとう、クロサキさん」
重光は満足げに茶を啜る
竹林の風に混ざる、老刃特有の鉄錆の匂いと椎茸の香り
そして微かに漂う排気ガスの匂いが、静かな朝を彩る
「さて、ぶりぃひんぐとやらを始めますかね」
今回の戦いは混剛戦だ
所謂、消化試合だが、油断してはなならい
私達の生業、そう「死哀」では
老刃同士の闘い1度毎に3度
「禍鬼」との死闘が組み込まれる
老刃は稀有な存在だ
強い恨みや憎しみ、悲しみを抱えながら
それを決して発露することなく
99歳を迎えた者が
付喪神と変化し「老刃」となる
その「拗れ」具合が深ければ深いほど
老刃の刃には禍々しい模様が刻まれ
堕魔透と呼ばれる
薄くも強靭な刃を持つものとなる
変化の際、心を許せる相手がいれば
「老刃」に
少し早かったり、孤独だと「禍鬼」にというワケだ
さぁて、なりそこねとは言え、「禍鬼」も立派な人外
油断すれば、待っているのは死だ
我々は綿密に当日の作戦を練る
死哀当日
「クロサキさん、本当に、あなたと契約してよかったと思ってますよ」
重光が長襦袢をはらりと脱ぎ捨て
左手を翳すと、その視線は鋭く遠くを捉える
「クロサキさん、アレ、銃禍鬼ですよ」
脚が6本
そのうち2脚がとても太くて立派だ
既に変化し、自分の意志はなく
口からは止め処無く、ヨダレを垂らしている
汚え
危険な相手を前に
オレも心の準備を固める
拡散龍死砲程度は
覚悟しなければならない
相手のだぶついた衣装に
隠された何か…
悪意の予感…
「来ますよ、クロサキさん!」
恨誅型の銃禍鬼から溢れ出る悪意は
自我を失った分だけ、禍々しい
跳ねる
「鎌怒馬かっ!」
鎌怒馬(かまどうま)
恨誅型重禍鬼の中でも最大の跳躍力を誇り
一気に相手との距離をつめ
2本の長い触覚で正確に相手との距離を測り
至近距離からの「禍鬼」攻撃を得意とする
重光の声が響く中、ぱぁんっという乾いた音に合わせて
オレは後ろに吹っ飛ぶ
<<続く│(795文字)>>