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古着を素材に布を織ること

私の作品は「裂き織り」と呼ばれる技法を使って作られている。
見知らぬ誰かが消費していった古着を素材に布を織る。
そこにどんな意味や背景あるのか考えてみる。

※裂き織り
布を細かく裂いて、それを緯糸として機織り機を使って織り込み、新しい布に再生する。全国各地、世界中で行われている技法である。
特に江戸時代に、東北地方など寒冷な地域では栽培の難しい木綿は大変貴重だったため、布がボロボロになると細かく裂き、もう一度織り直し、新しい布として生まれ変わらせる裂き織りが盛んになったという。

古着を使い始めたきっかけ

私が通っていた大学が、WE21ジャパンというリユース・リサイクル活動を行うNPO法人から古着を提供してもらっていたことが発端だった。
大学のアトリエには大量の古着の山があり、それを使って作品を作れないかと思ったのだ。

古着を観察してみると、肩パットが入ったバブル時代のド派手なスーツなど年代を感じさせるものも多くあった。
ブランド物からファストファッション、全く知らないメーカーのもの、素材や色やデザインもさまざま。
その混沌とした様子に唖然としたがワクワクもした。

Weaving #4

「Weaving #4」は、私が大学4年生の頃に初めて裂き織りで作った作品である。

古着を使うことで、糸にはない立体感や色彩が生まれた。
この作品は、織り終わった後全体をピンクで染めているのだが、様々な素材の古着をミックスして織っているので、綿や絹は染まり、ポリエステルは染まらない、といった具合に素材によって染まり方に違いが出てくる。

織物は矩形で織られるのが通常だが、この作品は不定形である。
これは私が無意識に描いた形で、それを下図に織物に変換してる。
ただのドローイングだったものが、裂き織りによる素材と色彩が加わることで、魅力的な実体となって目の前に現れた。
そのことに自分自身大きな驚きを感じた。

人々の生活を想像する

「Weaving #4」を織った当時は、漠然と素材として古着が面白いと思っていたが、現在はそこから広がる思考が少しずつ生まれてきている。

私の作品は、近年注目されているSDGsやサステナブルと関連させて見られることがある。それは作品の性質上当然だとは思う。
ただ環境問題などを訴えるためだけのものというよりは、もっと広い意味での人々の営みや生活を想像できる作品になってくれたらと思っている。
裂き織りが盛んになった江戸時代の人々の暮らしを想像してもいい。素材となった服を着ていた見知らぬ誰かを想像してもいい。
服に関して言えば、糸を紡ぎ、布を織り、縫製して、販売した人たちがいる。
もっと広げれば、織物を発明した人のこと、素材となった動植物のこと、科学的な技術発展など、想像は膨らむ。

最初に古着の山を見て感じた混沌と唖然とワクワクは、人々の痕跡や営み、歴史を無意識に感じたからなのではないだろうか。

アートとしての裂き織り

マスプロダクトとしての古着を扱うことは、レディメイドやファウンドオブジェの考え方とも関連付けられる。
ただ私の場合、既製品としての古着をそのまま提示するのではなく、それを裂き織り(解体と再構築)することで、造形的な魅力の探求や工芸的な手仕事に戻していく。
工芸とアートとの狭間で揺れ動く作品の在り方が裂き織りにはある。

古着を素材に布を織ることの面白さはいくつかの要素から成り立っている。これからも時間をかけて作品と対話を繰り返すことで、見えてくるものを増やしていきたい。