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【ギター小話】木と音のあれこれ

カタログや図書、ネットでギターの木材を解説する中で次の様な表現を目にしませんか!?

「メイプル指板の硬さ故のレスポンスが...」
「ウォルナットの締まった音が...」
「アッシュの剛性でハイまで伸びて...」
「ベースに適した材取りのボディが...」
「ボディの密度に比例する様な低音の鳴りが...」

難しいこと言ってる感じに思わず頷いちゃいそうになりますが、冷静に読むと

  • 何と比べた結果なの?

  • 数値的に示せるモノなの?

  • 使ってる用語と意味合ってる?

  • 楽器の特性と相関ある指標なの?

てな具合に頭上にはてなマークが浮かびません?決して下げるつもりはないけど、時折なんだか腑に落ちない表現が散見されるのは、折角素晴らしい楽器を賞賛しているはずなのにちと残念な気がします。

専門家の方々の見解は様々ですし、官能評価や思考を言語化する困難さも勿論理解できます。そんな中、技術用語の誤用も多少は仕方ない事かとは思うんです。ただ、ギターの構造や製作を考える上では以下の項目を主眼に考えてみれば、木材の物性とギターの音色とを関連付けるヒントになると僕は思うんです。

  • 曲げ弾性率

  • 曲げ強さ、圧縮強さ

  • 損失正接(減衰率)

  • 気乾比重

  • 含水率

またこれらを構成する要因や製作の留意点には

  • 収縮率、収縮異方性

  • 木の種類

  • 内部組織構成

  • 加工性(切削性、研磨性)

  • 経年変化

  • 発育過程、環境

  • 伐採、保管、製材、乾燥の各過程

などがありますが、いずれも文献や有識者から知る他にありません。特に後者は木を取り扱われている方々との対話から学ばせて戴く形となります。

難しいこと言ってるように見えますが実は大した事ではなく、楽器を振動系と捉えて理解しよう、作ってみよう。その為に振動に関連するパラメータを押さえてみようってだけなんですけどね。

ただ僕はココでFEMや実験モーダル、物性分析試験を駆使して設計する気は起きない、ソレは本業でいつもやってる事だもの。そういうことは大手楽器メーカーにまかせて、自身の感覚と経験、そして知見を元に謎解きの様に思考することに楽しみを求めてるってのが根底にあったりします。

コレはモーダルしまくってる例

いろんな文献に記載された情報を収集・整理して木材の特性を並べて見るとそこには沢山の気付きがあります。例えばこれ。

この辺りは構造部材には使えない
ボディ、ネックに使える水準

これはぼくが情報をまとめたシートの一部分ですが、耳にした事がある木材名もあるかと思います。値はあくまで参考としてではありますが、こうして眺めていると色々気付けます。

ここで高校物理をすこし思い出してみましょう。1自由度振動系の固有振動数は次の式、

f=1/2π√(k/m)

f:固有振動数、k:ばね定数、m:質量
で表されますが、ポイントになるのはkとm。ギターのボディやネックからなる要素を振動体と捉えるとき、物体はその素材と形状からkとmに相当する要素を構成しfに相当する固有値(固有モード)を有します。とてつもなく雑な言い方をすれば、同じ比重、弾性率を有する2つの異なる木材で同形状のネックやボディを作れば、その固有値はだいたい同じ値になる。勿論弾性率や減衰率の異方性、そして相互の関係から全く同じにはならないけれど、まぁ極端にハズレはしません(乱暴。

先程のmとkが何によって決まるか。木材の比重と弾性率は先述の通りですが、あと大事なのはギターのボディとネックの形。大きければ質量が増えるのみならず、サイズもkの要素として効いてきます。つまり制御可能なパラメータは木材と外形、その中で欲しい特性を得るべく各社創意工夫されている、と考えれば多少は見えてくる気がします。

じゃあ高い弾性率で軽いボディを作るとどうなるか、さっきの式を考えると気付ける筈、固有振動数が高くなるんです。また高い弾性率で重いボディを作る場合は固有振動数をあまり変化なく作ることが出来る、ただし加振力に対する応答はその質量故に少なくなるので次に述べる共振特性の影響を受けにくくなります。F=maって考えれば自明の理ですね。

ココからは今まで触れていなかったもうひとつ重要な特性について掘り下げてみましょう。
楽器製作者が木を叩いて音を聴く姿を目にするかと思います。色んな木を叩いて「コレだ!」と選び出す姿ってなんかカッコいいですよね。
だけどアレ、何を調べてるか分かります!?もしその光景に幸運にも出会えたら聞いてみてください、何を基準に選んでるのって。


皆さんも是非ホームセンタや材木屋さんに行ったら試してみるといいと思います。因みに最もわかりやすい叩き方は長辺の端を軽く指で摘んで持ち上げてぶら下げ、指の関節でコツンと下部あるいは中央部を叩くとそれぞれの個性がよく見えてきます。(所謂インパルス応答ってやつですね

じゃあ楽器製作者の方はどんな音で選んでるんでしょう。

音程でしょうか?高い音、低い音、そりゃもう色んな音が出ます。だけどそれって冒頭の話じゃないですが、比重と弾性率、そしてその木の形で如何様にも変わるんだからアテにはなんない。

じゃあ音質でしょうか?カーンって透き通った音で鳴る木もあれば、ゴンってなるのも。ぐわんってのもありますね。だふってのもある。

それとも音の伸び?いつまでも気持ちよく伸びそうな木もあれば、すぐに音が消えてしまう木も。

専門家の方は様々なお考えをお持ちかと思いますが、ぼくが主に着目するのは後者の2つ。音が透き通っているか濁っているか、そして音が伸びるかすぐに消えるか。これらはそれぞれ
- 木材の異方性と密度分布
- 木材の減衰率
に直結するパラメータとして捉えています。因みに音程は似たような大きさ、重さの中から選ぶ時には弾性率の違いを見極める方法になります。これらはどっちがいい、悪いでは決してなく、どんな出音を望んでいるかで選択する選択肢だと思います。
極端な例ですが、素材の等方性が高く、弾性率が高く、減衰率が低いとキーーーンと透き通った音になるんですがコレって良さげでしょ!?だけどそれなら軽めの金属で作ればいいんです。だけど出音、想像出来ちゃいますよね。そういうことです。じゃあどの様に材を選べばいいんでしょう!?


ココで弦振動がギターに加わる時にボディやネックに何が起きているかを少し考えてみましょう。ギターは固有モードの最も低いモードよりも低い周波数に対しては同位相で振動しますが、固有値近くとなると共振してその振動量は増大、さらに周波数を上げていくと次のモードまで振動量は一旦下がり、その後また次の固有値に近づくと増大します。そしていくつかのモードを超えると共振はせず、弦振動だけが目立つ様になる。この現象は周波数応答なので、機械工学を学んだ人には周知の事実ですね。

よくギターの売り文句に使われる「激鳴り」って言葉の意味を考えてみましょう。コレには弦振動の周波数や高調波とギターが共振してる場合と、その材の減衰率が低くかつ軽くて応答性が高い場合、つまり弦振動が阻害されず素直に鳴ってる場合に分けることが出来そうです。前者はアコギには利点ですが、エレキでは良くなる場合だけでなく、時としてネガな効果を産んでしまいます。

そもそもエネルギー保存則を例に出すまでもなく、弦振動のエネルギーはそれ以上には増えません。という事はボディやネックで共振してる場合、それは弦振動のエネルギーがボディなどの振動に変換されてしまっているわけです。そしてエレキは弦振動を電気信号に変える楽器なので、結局PUはその周波数成分を取れなくなります。コレはシステムを考えると弦振動に対してギター自身がパッシブのノッチフィルタとして機能していると見なせる訳です。

ギターのデッドスポットって実感する事があるかと思いますが、アレを解決する手っ取り早い手段はネックのヘッドやボディに重りを付けちゃう方法。コレ何してるかと言うと振動モードを質量を付加させて変化させているんですよね。だからつける位置によっても効きが違う。ただ、低次の弦振動と固有値がぶつかってしまうと重りの効果は僅かしか効きません。なので効いても数フレット程度しか変化しないはず。ただ敏感な人は音色の変化に気付くかも。これは高次のモードに作用して弦振動へのフィルタ特性が変化したから、と捉える事が出来ます。

長々と話して来ましたが、要はギターの振動特性を利用して引き算した結果、求める音が出るようにするのがソリッドボディの設計。逆に足し算して音作りするのがアコギの設計と捉えているのが今のぼくの視点です。まだまだギターを作る中で一つ一つ自分で立てた仮説を確かめてる最中ですが、1から作ると色んなパラメータを自分の思うように触ることが出来るのが興味深いですね。

ココでわかりやすい一例を。
アルダーとアッシュを比べると
比重:0.4-0.45 vs 0.4-0.6
弾性率:9-9.5 vs 11-12
比重はアッシュ種類で違うけどアッシュは弾性率の高さが目立ちます。そして両者を叩き比べると分かるんですが減衰率はアッシュの方が低目です。ここまでの文にお付き合い戴けたならば、実感としての音色とこれら数値に相関がある事に気付かれたかと思います。バスウッドの数値も見てみると面白いですよ。

あともう一例を。
テレキャスのあの音の一因にボディ形状がある事に気付いてる人もおられるかと思います。試しにストラトのボディにテレキャスのPUとブリッジをそっくりそのまま移植すると出音に驚く筈。または捨てていいテレキャスボディがあればネックポケット6弦側のこんもりした部分を削ってダブルカッタウェイにしちゃっても、同様の驚きを覚えます。

じゃあコレはどうなの!?笑

コレはボディ質量ではなく、形状と質量分布からなる固有モードの違いからくるものと思っていますが、きっとレオさんも色々試したんでしょうね。凄いなと思います。別のギターだとレスポールはなぜマホの上にメイプルを貼ったのか、ダンエレのトップがなぜベニアでなくメゾナイトだったのか、アコギはなぜトップがスプルースでバックは堅木を使うのか。これらも是非理由を考えてみてください。


弦の振動に着目するとまた別の記事書かなきゃいけなくなっちゃうので、今回はこれくらいに。

まぁ素人DIYerの戯言と思って読み流して貰えたら幸いです。決して思考を押し付けるつもりもありませんし、考えるヒントが提供出来ているなら幸いです。コメント欄で皆さんの視点もぜひお聞かせください!!

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