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#5 パパ活のパパだったんですよ

LINEのビデオ通話での雑談依頼がきた。
依頼主は私とは異なるエリアの都市圏在住とのことで、対面でなく通話雑談を希望された。
金曜日に問い合わせがあり、翌日の土曜夜に依頼実施、という具合にとんとん拍子で決まった。

指定の時間に着信がかかってきて依頼が開始になった。
はじめましての前に、画面の向こうに自分より若い女性が映ってることにまず驚いた。
これまでの少ない経験値から、レンタル人間との雑談は自分より少し年上の女性たちが求めているもの、という先入観があったからだった。

最初の10分くらいはお互い手探りな雰囲気で簡単な自己紹介などをした。
依頼主はアラサー世代の女性で、レンタル人間利用歴は数年だが、レンタル人間と話すのは私が三人目だと言う。
今までは、決まった一人のレンタル人間をリピートしてきたが、懇意にしていたレンタル人間が引退してしまったため、現在は新規開拓中とのこと。

そんなアイスブレイクを挟んだところで、依頼主から「飲みながら話していいですか?」と提案があり、コロナ禍に流行った『リモート飲み会』スタイルに移行した。
依頼主は自宅でハイボールを、自分は家にあった焼酎のロックで、画面越しに乾杯をしリモート飲み会が始まった。

私、去年離婚したばっかりなんです、と依頼主が話し始めた。

・・・
元夫がパパ活のパパだったんですよ。
元夫は私の7つ年上の普通のサラリーマンでした。
経営者になって羽振りのよくなった同級生に元夫はそそのかされたんです。
お前、男なんだから女の一人くらい囲っとけよって。

夫もバカですよね。そんな言葉に軽々しく乗って。
パパ活女子にお金渡してたんです。女に貢げるほど稼いでないのに。
それで借金して、首が回らなくなって私のところ泣きついてきたんです。

私は親が会社を経営していて、一般家庭と比べて実家が太いんです。

両親に相談して、元夫の借金はうちの家が肩代わりすることになりました。当時は家族だったので。
タダで、というわけじゃなく、借金の返済と更生を条件にです。
なので、元夫はうちの実家の会社で働くことになりました。

最初の頃は素直にやってたみたいなんですが、半年もたなかったんです。
働き始めて数ヶ月でまた女遊びが発覚して、問い詰めると逆ギレして話にならなくて、これはもうダメだということで離婚しました。
最近やっと身辺の整理が落ち着いてきた感じです。

私、最近、彼氏ができたんですよ。

学生時代の同期で、同窓会で再会して、お互いバツイチで、離婚事由がお互いに裏切られた側ということがわかって意気投合して。
ただ、彼氏はお酒を全く飲まないし、飲めないんですよ。
私はお酒好きなんですけど。

彼は私がいるところから2時間くらい離れたところに住んでいて、仕事の関係で引っ越しもできなくて、頻繁には会えないんです。
平日に会う機会もないので、私としては本当は一人で飲みに出て、狭い立ち飲み屋で知らないおじさんと他愛のない話とかしたいんですけど、彼が心配するので我慢してます。

私、これまでお酒の失敗ないんですけどね。
でも一人で飲み屋に行きたい、知らないおじさんと飲んだりしたいって言ったら、絶対彼がいい顔しないのがわかっているので。
彼とはお互いが嫌だと思うことはしない、が暗黙のルールなんです。
お互い裏切られた痛みがわかるから。
だから今、少しでも飲み会気分を味わいたくてレンタルの方とリモート飲みしてるんです。これならギリセーフだと思いません?
・・・

上記以外にも依頼主の家庭の話や、家業は継がずに自分は別の仕事していることなどを聞いて依頼時間が終了となった。

依頼主は喫煙者で、右手にハイボール、左手にアイコスを持つ姿がよく似合っていた。これは確かに酒場でモテるだろう、彼氏の心配もさもありなん、と思った。

それから一ヶ月以内に二回くらい本件の依頼主からリピートの問い合わせがあったが、いずれも都合がつかずお断りしてしまい、それから連絡は来なくなってしまった。

こういうレンタルの使い途があるのか、とレンタルされる側なのに発見のあった依頼だった。

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