「地上燃焼試験」レポート【前編】
この記事は
読者のみなさんは、「地上燃焼試験」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
地上燃焼試験とは、ロケットの開発段階で行われるロケットエンジンの性能を確認する試験である。
日本ではJAXA(宇宙航空研究開発機構)などが試験場を保有しているが、その試験の性質上、万が一の事故が起こっても人命に被害が無いように近隣に住宅が無いことや風向きなどの気象条件が考慮され、そのひとつが秋田県は能代市に設置されている。
今回は、私が体験した「地上燃焼試験」についてお伝えしたいと思う。
前もってお断りするが、機密保持などの理由から試験の詳細はお話しできない。技術的な内容というより、現在、世界的に急激に関心が高まっている宇宙業界を少しでも身近に感じてもらえれば嬉しいという動機のもとの体験記として読んでいただけると幸いである。
サムネイル 出典:(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)
ご注意
本記事で使用している一部の画像は、「JAXAデジタルアーカイブス」に収録されているものであり、JAXAの許可を得て掲載しています。
また、画像は地上燃焼試験を分かりやすく伝えるためのイメージとして掲載しており、本記事で取り扱っている地上燃焼試験とは関係の無いものも含まれています。
ロケットってなに? 地燃ってなに?
そもそもロケットというのはいくつかの種類があるが、ここでいうロケットとは「化学ロケット」のことで、燃料を燃やして噴射することで飛翔するロケットである。
ロケットには加えて、その噴射の向きを調整する機能もあったりする。
ロケットは打ち上げ直後から風などの外部影響を受けて飛んでいく。狙った位置へロケットを飛ばすためには、その推力や方向などを精密に制御する必要があり、「地上燃焼試験」とはそれらの要求仕様が満たされているかを確認する試験でもある。
スケジュール
地上燃焼試験のざっとしたスケジュールは以下の通りだ。
ロケット搬入
↓
試験装置へ設置、計測機器のセッティング
↓
防燃対策
↓
リハーサル
↓
点火、燃焼
↓
消火活動
↓
結果評価
↓
撤収
地上燃焼試験はいくつかの企業や組織が一堂に会して実施する場合があり、今回はそのパターンである。
スケジュールにもよるが点火本番は風向きに大きく左右されるため、前日から天気予報に釘付けになる。
一旦点火してしまうと後戻りできないうえに、1回の試験では作業員のスケジュール調整からその費用まで、相当なお金と時間がかかっているので、本当に試験を実施して良いのか悪いのかをその直前まで吟味し続ける。
前日の天気予報が良好であれば一旦解散となり、当日の点火予定時刻から準備時間を逆算した時刻に試験場入りする。
点火直前までは、各種の計測機器との通信に問題が無いかなどをチェックしていく。
ちなみに、点火時刻をX(エックス)と呼び、例えば点火5分前であれば、X-5分(エックスマイナス5分)、点火10分後であればX+10分(エックスプラス10分)と呼ぶ。
さらに試験実施の場合は「Go」、不実施の場合は「No Go」といった言葉が試験場を飛び交ったりする。
私が経験した業務は、各種試験装置の電源ON/OFFだったり、計測の開始/終了を所定の時刻に合わせて指示したり、担当業務班の状況をアナウンスするものだった。
このアナウンスというのが、例えるならガンダムなどのアニメに出てくる管制室のイメージそのもので、ヘッドセットをつけて管制(私たちよりも上位の管理班)に状況を伝えていくのだが、このアナウンスは試験場内のスピーカーから作業者全員に聞こえるように放送されるため、滑舌はもとより、正確な情報を発言しなければならないというプレッシャーが半端ないのである。
ただ、アニメのシーンと大きく違うのは、私の目の前には「緊急停止ボタン」が置いてあり、何か異常があれば、その報告の後、このボタンを押さなければならないのである。。。
試験場をご紹介
ここで少し試験場の雰囲気をお伝えしたい。
試験場は秋田県能代市にあり、その正式名称を「能代ロケット実験場」という。西は日本海、東は暴風林といった風景が南北に続く広大なロケーションの一画にある。
各種固体ロケットモータの地上燃焼試験を行うため、1962年に開設され、最大で1kmの保安距離を確保できることから、わが国の宇宙推進エンジンの研究開発にとって、重要な役割を果たしている。
試験場内には、
・極低温推進剤試験棟
・液水器材室
・器材庫
・エンジン試験準備室
・真空燃焼試験棟
・大気燃焼試験棟
・第2計測室
・第1計測室
・研究管理棟
があり、私たちは主に計測室に待機し、時折、真空燃焼試験棟へ出向いては計測機器のセッティングなどの作業を行っていた。
施設には簡素ながら展示室があり、事前予約が必要ではあるが一般の方でも無料で見学できる。
この展示室には、ロケットエンジンのカットモデルや解説用のパネルなどが展示されており、日本のロケット開発の歴史を感じられるようになっている。
屋外の景色に目を向けると、実験場の西側はすぐに日本海が広がり、その海岸沿いには風力発電の風車がいくつも並ぶ壮観な様子を目の当たりにすることができる。
海岸には波消しブロックなどが置いてあり、作業の合間に潮騒を感じながら休憩することもできる。
試験のスケジュール中はあまり残業は無い雰囲気だったが、それでも残業が必要とされるときは、時間に追われる作業の中でも日本海に美しい沈む夕日を眺め、続く作業への活力を得ることもできた。
後編はいよいよ点火
地上燃焼試験を語るうえで一番面白いのは、やはり点火だろう。
後編では、いよいよその点火の様子をお伝えしたいと思う。
ご期待いただければ幸いである。
「地上燃焼試験」レポート【後編】はこちら↓