![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/71501345/rectangle_large_type_2_c8b6ca1c62e3cef013bfeb77e5c7fc14.png?width=1200)
『引導を渡す』
僧侶をしていて、最近強く思うことがあり、形にしてみようと思い、気づけば2年ぶりに、この場所でまとめてみることにしました。
お時間のある方は、お付き合い頂ければ幸いです。
葬儀で、お寺のご住職が、棺に納められた御遺体に向かい、引導を渡す姿を見たことがあるかと思います。
この、『引導』ですが、亡くなった方を悟りの世界である彼岸に導き済度(さいど)(苦しみや困難から救うこと)するために、棺の前で導師である僧侶が唱える教語、または教語を授ける行為の事を指します。
この間あった、ちょっと不思議な体験をお話したいと思います。
先日、御葬儀を頼まれた時のことです。
以前、お母様の御葬儀をご依頼下さった方から、今回は急に、お父様が亡くなられたとのことで、お通夜と葬儀の法要を執り行うことになりました。
葬儀を行う場所をお聞きし、その施設の方と連絡を取り、お通夜の日を迎えました。
寒い時期なので、防寒対策をして出かけ、葬儀を行う会館に到着して支度を整えている時に、エアコンが効いて温かい会場の中に入ると、うっすら汗ばむほどだったので一枚羽織っていたものを脱いで調節したのですが、次第に何やら寒気がして、くしゃみも立て続けに出たため、さっき脱いだものをまた着込んで、時間まで待機していました。
そのうち、会館の担当の方が来られたので、式の流れなどの打ち合わせをしたのですが、
担当の方が、この度亡くなられた方の状況を教えて下さったのですが、詳しいことは言えませんが、亡くなった時に、この方が、とても寒い状態だったということをお聞きしました。
やがて時間になり、お通夜のお勤めをさせて頂き、一言ご挨拶をして、会場を後にしましたが、お勤めの最中ずっと、腰から下が冷えて冷たい状況が続いていました。
お通夜の最中、この度亡くなられた方が、とても寒い思いをされていたことが気になったため、
次の日の葬儀には、棺の中に入れてもらおうと考え、使い捨てのカイロを二つばかりお持ちすると、法要の時に棺の足元に置いて頂くことが出来ました。
会館の中は温かいのですが、葬儀のお勤めの最中も、昨日と同様に腰から下が冷えて寒い状況でした。
それでも法要は滞りなく進み、いざ、引導をお渡しするために、棺の前に進み出て、引導文を読み上げ、自席に戻ると、なんとなくスッキリとした感じで、空気が変わったのを感じました。
じつはお通夜の時も、葬儀の引導を渡す時も、いつもより声が出にくい感じがあって、気持ちよく声が出せない状態でした。
それが、引導をお渡しした後、弔辞弔電の御披露があり、その後ご遺族の御焼香の時に、お経をお唱えする声が、それまでと違い、いつも通りスッキリと出せたので、自分の中で小さく驚きながら、気持ちよく大きな声でお経をお唱えすることが出来ました。
葬儀を終えて、火葬場に向かうためにご遺族がお別れの為に棺にお花を入れている時、
いつも通り読経しながら立ち合う為、着替えてその場所に戻ると、
車に棺を納めるために、法要の時とは打って変わってドアが開け広げられて、外の冷たい空気も流れ込んでくるような室内なのに、法要の時と違い、腰から下がポカポカと温かいことを感じて、お経をはじめ、皆さまの御供養の気持ちが伝わったことや、
引導を渡すことで、亡くなった方が、安心して進むべき方向を目指して下さったことを感じることが出来ました。
今回に限らず、法要中の寒気などの現象は、自分にとってはよくある事なので、さほど珍しいことではないし、
あくまでも、一個人の感想なのですが、
逆に引導を渡さないでいると、どういうことになるか?というと、進むべき行き先がまるで分らないから、この世からあの世へと進むことが出来ないので、この世に留まりことになり、先に進むことが出来なくなります。
そうなると、進めないし戻れないから、この世に留まらざるを得ない。
つまり、成仏できない、ということになります。
戒名で一文字いくら、とか、法要にかかる金額の心配があることもわかりますが、立派な法要はしなかったとしても、せめて『引導』だけは渡してもらうことを、是非お考えいただきたいと思います。
生きているうちに、死んだらどうなるか詳しく考える人は多くないと思います。生きることに精一杯で、苦しくてつらい人生から解き放たれるという意味では、死ぬことはもしかしたら、楽になれることかもしれません。
でも、死んだ先に何があるか、死んだらどうなるかなんて、誰も知る由もないのだから、亡くなった時に困らないように、「こちらに進んで下さいね。仏様が待っておられますよ」ということをお伝えさせて頂きたいのです。
目に見えるところでは、御遺体を火葬してお骨にして納めれば終わり、となるでしょうが、その肉体の中にあった魂の行方にも、心を向けて欲しいのです。
菩提寺がある方なら、その菩提寺のご住職が担う責務ですが、もし、菩提寺がない場合、信頼出来るご僧侶とのご縁があれば幸いですが、もしも、御供養をしたくてもお金の心配を抱えているなら、是非、浄温結社にお声がけ頂きたいと思います。