【小説】イバショ(鳴)

※注意※
以下のリンクの「仲良し3人組」を先にプレイすることをお勧めします。(おまけパートの内容なので、おまけパートまでプレイすることを推奨します)

…ーー目の前に座る人は、私の履歴書を見ながら深いため息をついた。

「夢月さんだっけ?」

名前を呼ばれ、私こと夢月鳴は、小さく「はい」と答える。

「…ーー犯罪歴を書くことがどういうことか分かるだろう、君みたいな真面目そうな子なら」

…ーーそう。私には前科がある。
クラスメートを3人刺した連続殺人事件。

幸か不幸か、そのうちの2人は重傷で生死を彷徨った結果、生きながらえたけど。

その凶行の理由に陰湿な彼女らの虐めが関係するんだけど、世間から見たら私はただの犯罪者だ。

今は若年層の犯罪者の社会復帰を目指す団体にお世話になっているけど、ゆくゆくは施設を出て行かなければいけないのに、就職活動は難航していた。

それはそうだろう、世間的に見たら、犯罪歴はただのマイナスイメージでしかないのだから。
要は犯罪を犯した人間は「何をしでかすか分からない」恐怖があるのだろう。

事実、目の前に座る社長と名乗る男性も、私の履歴書の犯罪歴をじっと見ながら、ただ黙りこくっている。

私はその沈黙に耐えきれずに口を開こうとしたが、社長の声に邪魔された。

「君の知り合いの刑事さんと知り合いなんだけどね、…まぁ彼からの紹介ということである程度は覚悟していたけど」

私の知り合いの刑事というのは、私の事件を担当した刑事さんのことだ。
取調べから裁判、そして出所に至るまで、私は彼にお世話になっていた。
いつもニコニコ話しかけてくれて、優しくて、出所後も何かと気にかけてくれた。
事実、この面接も彼がセッティングしてくれたようで、私は彼に感謝してもしきれないくらいだ。

…まぁ、成果が出ていない以上、恩を仇で返しているようなものだけど。

そんなことを思いながら、どうせ雇ってもらえないだろうと考え、いそいそと帰る準備をし始めた時に、「いいよ」という一言に驚かされた。

「いいよ」というのはどういうことだろうか、と次の言葉を待っていると思いもよらない言葉が返ってきた。

「君を一人前の技術者に仕上げるから。どんなに辛くても苦しくても弱音を吐かせることはできないかもしれないけど、それでも君を立派な技術者に仕上げるから」

だから覚悟しとけよと笑う社長の顔を見ながら、私は返事の代わりに泣きながら笑った。

…ーーー

「で、染物職人の道を選んだって訳か」

「へへ、似合うでしょ刑事さん」

甚平姿でくるりと回ると、刑事さんは「似合う、似合う」とおざなりの返事をして、私の出したお茶を啜った。

社長との出会いから数年。
社長は病気で亡くなってしまったけど、社長の息子が工房を継ぎ、経営をしている。
お店だけではなくネットショップにも力を入れるようになり、それなりの利益を上げている。

私もその利益に貢献できるよう、日々、修行と勉強の毎日である。

そんな私を支えてくれる工房のみんなは私が元犯罪者だと知っているが、差別することなく、優しく接してくれるいい方々だ。

「で?夢月さんの作った染物ってどれよ?」

「えへへ、これです、これ」

と店頭に並んでいた暖簾を一つ手に取ると、商品をじっと見ながら悩んでいる2人組を見つけた。

「藍ちゃんに舞ちゃん、仕事の方は大丈夫なの?」

…ーーそう、これが出所後の2つ目の変化である。

いじめの主犯格であった木梨さんや如月さんと和解したのだ。

私は彼女らを傷つけ、宮越さんを殺害してしまったことへの謝罪をし、逆に彼女らからこれまでのいじめに対する謝罪を受け取った。

そんな和解の日から、私は彼女らを親しみを込めて下の名前で呼ぶようにしていた。

私の声に、商品をじっと見ていた彼女らは、私の存在に気づいたようだ。

「あれ、鳴に刑事さん。ここにいたんだ」

そして一礼する木梨さんと、ひょっこりと顔を出す如月さん。

その木梨さんの声に、返事がわりに片手をあげて答える刑事さん。
普段から動くのがめんどくさい性格なんだろうな、ということを察した。

そのことを分かっているからこそ木梨さんは返事が返ってこないことを気にせず、そんなことよりと続ける。

「私と舞、今度会社が主催するパーティに参加しなきゃいけなくて。なんかいいのないの?」

「舞ちゃんはどういうのがいいとかある?」

「うーん、そうねぇ…」

「地味すぎず派手すぎずがいいかなと思うんだけど」

如月さんは小説部門の編集者だし、木梨さんは女性雑誌部門の編集者だし、いろんなパーティーに参加する機会があるんだろうな。

私は如月さんのオーダーに応えるために、商品棚を漁るのだった。


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